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『ガルハザ』の主人公の強さを見せつけられました。

「お、早速お出ましか」


 僕達の前に現れたのは、一体の魔獣。


 『エンハザ』年末試験イベントに登場する三体のレイドボスのうちの一体、“双頭獣オルトロス”だった。


「これは、幸先がいいね」

「ど、どういうこと?」

「いいかい。このダンジョンで倒す三体の魔獣のうち、双頭獣オルトロスは攻撃も単調でそこまで厄介な魔獣じゃない。実戦経験がないユリとリリアナが戦闘を学ぶ上でも、ちょうどいい相手だからね」


 他の二体は特殊スキルを持っていてかなり厄介な相手だし、基本的に物理スキルのみのオルトロスなら、僕がしっかりと守れば危険を伴わずに確実に倒すことができる。

 何より、これからの学院生活において、二人にとって試金石になるから。


「そういうことだから、悪いけど君は見学してもらっていいかな」

「かしこまりました」


 マリオンに下手に戦闘に参加されて、その結果、二人に危害が及ぶようなことになったら大変だからね。見学ということで特定の位置にいさせて、常に視界にアイツが入るように立ち回れば、対処できる。


「じゃあ、まずは僕がオルトロスを引きつけるから、隙を見て二人は攻撃を仕掛けてね」

「うん!」

「任せて!」


 僕は『漆黒盾キャスパリーグ』を構え、オルトロスに相対すると。


「ほらほら、コッチだ犬っころ! オマエなんか、僕達の相手になるものか!」

「ッ! ガルルルルルルルルアアアアアアアアアアアッッッ!」


 どうやらオルトロスも、人の言葉は理解できるみたい。

 まあ、キャスなんて人の言葉を話せるんだし、それくらいの知能はあってもおかしくはないか。


「おっと。そんな攻撃じゃ僕達には通用しないね」


 怒りに任せたオルトロスの攻撃を防ぎつつ、僕はさらに悪口を言ってヘイトを溜める。

 こうやって(あお)っただけで簡単に食いつくんだから、やっぱり知能も大したことはないかも。


 同じ魔獣でも、僕の相棒とは大違いだよ。


「えへへ、当然だよ! だってボクは、ハルの相棒だもん!」

「ああ、そうだな」


 あー……また僕、独り言を呟いていたみたいだ。気をつけようって思っているのに、全然治らないなこの癖。

 まあ、悪口でなければ別にいいんだけど。


「よ……っと。ユリ! リリアナ! 今だ!」

「うん! 【アイスバレット】!」

「【ブレイブハート】! 【ブレイブハート】! 【ブレイブハート】! 【ブレイブハート】! もう一つオマケに【ブレイブハート】! からのー……おりゃあああああああああッッッ!」

「ッ!? ギャウッッッ!?」


 ユリの水属性スキル【アイスバレット】による氷の弾丸が二つある頭部のうちの一つに命中し、怯んだところにリリアナが全能力アップ効果(大)の【ブレイブハート】を重ねがけして、ただ力任せにオルトロスの腹をぶん殴る。


 オルトロスは勢いよく吹き飛び、ダンジョンの壁に叩きつけられると、そのまま床に崩れ落ち、沈黙した。

 ああ、うん。さすがは『ガルハザ』の主人公。完全にオーバーキルだったよ。


「よし! 無事に仕留めたぞ!」

「やったー!」

「お肉! お肉!」


 初めての戦闘、初めての勝利に、ユリとリリアナが大はしゃぎだ。

 でも、リリアナだけちょっとおかしい。彼女、本気でオルトロスを食用にするつもりかな。


「さあ、オルトロス討伐の証である牙も入手したし、先へ進もう。残る二体は今回みたいに上手くいかないと思うから、決して油断したら駄目だからね」


 僕はちゃんと釘を刺すことを忘れずに、みんなを連れてダンジョンの奥へと進んでゆく。

 リリアナは何度も振り返っては、名残惜しそうにオルトロスを眺めていたけど、いい加減諦めてほしい。


 それよりも。


「…………………………」


 僕には、ずっと沈黙を保っているマリオンが気になって仕方がないよ。

 これまでの経緯を踏まえれば、この女が大人しくしているなんて、どうにも信じられない。


 初対面で『無能の悪童王子』である僕を侮り、ウィルフレッドに強制的に鞍替えさせられた後はアイツと『恋愛状態』になってUR武器である『戦斧スカイドライヴ』を携えてサンドラに勝負を挑んで来た。

 その後も、ウィルフレッドに忠実に付き従い尽くしている姿を、僕は何度も見ている。


 だからこそ。


「……本当に、馬鹿(・・)だよね」


 そんなことを、ポツリ、と呟く。

 あんな奴に従っても……あんな奴を好きになっても、報われることは決してないことを、知っているから。


 もちろん、サンドラを殺すつもりで挑んだマリオンを絶対に許すつもりはないし、慣れ合うつもりもない。

 ただ、僕の愛した『エンゲージ・ハザード』のヒロインが不幸になることに、やるせなさを感じただけだ……って。


「ハル君?」


 気づけば、ユリが僕の顔を(のぞ)いていた。


「ああ、いや……何でもない。それより、少し急ごう」

「あ! 待ってよー!」


 僕はかぶりを振って気を取り直すと、足早にダンジョンを進んだ。

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