僕達は元気に過ごしておりました。
「うう……王都って南のほうにあるのに、寒いねえ……」
十二月になり、王都カディットはすっかり冬景色となった。
で、寄宿舎から学舎へと向かう途中で、ユリが寒さで震えているよ。
「いや、サルソのほうが寒いよね? というか、ユリは寒いのは苦手なの?」
「もちろんだよ! できれば冬の間は、暖炉の前から一歩も動きたくない!」
ちょっと尋ねただけなのに、ユリがメッチャ力説する。
ま、まあ、寒い地方に住んでいるからって、寒さに慣れているってわけじゃないか。
「だ、だったらよ。俺の上着、貸してやるよ」
「いらない」
お、おおう……ロイドがせっかく勇気を振り絞って提案したのに、ユリの奴つれないな。
だけど、それも仕方ないか。最近のロイド、ユリに対する態度が若干露骨になってきたから。警戒するに決まってる。
「サンドラは寒くない? 僕の上着、貸そうか?」
「ぜひ! ぜひお願いします!」
「うわっ!?」
食い気味に身を乗り出すサンドラに、僕は思わず仰け反った。
「じゃ、じゃあどうぞ」
「ありがとうございます! ふふ……ハル様の匂いです……」
上着のにおいを嗅がれ、僕は思わず自分の身体のスメルチェックをする。
く、臭くないよね……。
「ハロルド殿下、私も寒いです」
「僕に裸になれと!?」
相変わらず、僕の専属侍女は容赦ないなあ。
でも、夏休みあたりから彼女の距離感が前にも増して近くなったような気がするけど、気のせいだろうか? 気のせいだな。
「ハル、こういう時はあらかじめ何枚も着込んでおくものよ。そうすれば、全員に上着を貸せるでしょう?」
「それ、着膨れがすごいことになるし」
リゼも何を言い出すんだろうね。
そんなに着てたらむしろ暑くて仕方ないし、そもそもなんで僕が上着を貸す前提なんだよ。自分で用意してよ。
「うふふ、私はハロルド殿下のお身体をお借りできれば……じょ、冗談ですからね!?」
余計なことを言おうとしたクリスティアが、サンドラに絶対零度の視線を向けられて、慌てて訂正する。
彼女もあれだけトラウマを植え付けられたっていうのに、チャレンジングがすごい。
「寒さも体を動かせばすぐに温かくなります。そういうことですのでハロルド殿下、お昼休みにでも私と手合わせを……」
「か、考えておきます……」
カルラもカルラで、最近は手合わせの申し込みを執拗にするようになった。
彼女との手合わせは楽しいからいいんだけど、それにしてもちょっと頻度が多すぎる。
「ハア……ハルはそのうちみんなから刺されるんじゃないかって、心配になっちゃうよ」
「いやいや、何を言ってるんだよ。僕の『大切なもの』がそんなことをするはずないし、それに、いざという時は相棒がいるから大丈夫だよ」
「あ……えへへ、そういうところだよ」
肩に乗るキャスが、口元をゆるっゆるにして身体を僕の頬にすり寄せてくる。
毛並みが気持ちよくて温かい。冬はキャスがいれば充分だな。
というわけで、僕は夏休み以降も『大切なもの』に囲まれて、幸せな日々を送っております。
ただし。
「ウィル様、早く一緒に教室に行きましょう!」
「おやめください。殿下が迷惑をなさっているではないですか」
「……うるさいわね。没落貴族が、ウィル様のお情けで傍に置いてもらっている分際で」
「っ!」
「やめなさい。ウィル様がお困りになるでしょう。さあウィル様、まいりましょう」
……僕の視界に、アイツが入ってこなければ最高なんだけどね。
ちなみにウィルフレッドの奴、今ではもう人目をはばかることなく、自身のハーレムを見せびらかしているよ。目障りな。
しかもフレデリカも、カーディスと婚約解消をした途端に、あんなにもしなだれかかっているし。罪悪感や遠慮というものはないのかな? ないんだろうな。
こういうところ、まるでウィルフレッドの母親であるサマンサと一緒だね……って。
「ハルさん! お腹が空きました! お肉が食べたいです!」
「ああうん。お昼まで我慢しようね」
そんな空気をぶち壊すかのように、リリアナが肉をおねだりしてきたよ。
でも彼女、『ガルハザ』の主人公だけあって、この数か月の間に王立学院内でもメキメキと頭角を現してきている。
基本能力の成長度合いが半端ないこともさることながら、何よりウィルフレッドと同じく無属性キャラのため、どんな武器やスキルでも使用可能なんだから、末恐ろしい。
最近ではクリスティアからバフスキルを教わり、バフの重ねがけによる肉弾戦を得意とするパワーファイターに変貌を遂げたよ。もう喧嘩では絶対に勝てない。
「さて……それじゃ、今日も頑張ろうか。何といっても、来週から年末試験だからね」
「「「ヒイイイイ!?」」」
僕のその一言で、リゼ、リリアナ、ロイドが悲鳴を上げた。
うん、まあ……頑張れ。
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