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主人公が順調にハーレムを形成していました。

「それで、けじめ(・・・)とやらは整理がつきましたか?」


 『漆黒盾キャスパリーグ』から子猫の姿に戻ったキャスを肩に乗せ、僕はうなだれるカーディスに尋ねる。

 手合わせをして、この男が単に僕を倒したいというわけではないことは分かった。なら、これ以上関わらないようにするためにも、カーディスにはこれで納得してもらいたい。


「……ああ。いかに私が、自分の地位や母上に甘えていたのかを理解した」

「それはよかったですね」


 今さら気づいたところで、王位継承争いにおいてこれからウィルフレッドやラファエルに逆転できる可能性はないに等しい。

 諦めて、今後の身の振り方を決めたほうが得策だ。


 ……まてよ? もし『エンハザ』の本編ストーリーが開始されてしまったなら、可能性がないとも言い切れないな。


 ウィルフレッドとの決闘に勝利し、褒美として『世界一の婚約者を連れてきた者を次の王とする』ことは絶対にしないよう、エイバル王には釘を刺したけど、それだって約束を反故にする可能性は充分にある。というか、むしろその可能性が高い。


 なら、カーディスはまだチャンスは残っていると言えなくもないか。

 ただし、今の婚約者であるフレデリカを、捨てることができるのなら。


「あなたはこれから、どうするのですか?」

「そうだな……最後まで足掻(あが)いてもいいが、徒労に終わりそうだ。フレデリカの実家を頼ろうにも、既に縁も切れてしまっているしな」

「え……?」


 オイオイ、カーディスは今なんて言った?

 というか、フレデリカと婚約破棄をするのは『エンハザ』本編が始まってからだぞ?


「ああ、お前は知らなかったか。フレデリカの実家であるマーシャル公爵家から、正式に婚約の解消の申し出を受け、私はそれを受理した」

「ど、どうして!? そんなの、マーガレットが受け入れるはず……っ!?」

「……私とて、これ以上(みじ)めな思いはしたくないからな」


 僕の言葉を(さえぎ)り、カーディスは唇を噛んだ。

 これは、どういうことなんだ……?


「とにかく、手合わせをしてくれて感謝する」

「あ……」


 カーディスは姿勢を正して一礼すると、訓練場を後にする。

 僕は彼の背中を、ただ眺めることしかできなかった。


 ◇


「……私もハル様の雄姿を拝見したかったです」

「ご、ごめん……」


 カーディスとの決闘を終えて部屋に戻るなり、メッチャ不機嫌なサンドラを僕は必死になだめております。

 でも、こんな姿の彼女も可愛いしかないので、ただのご褒美でしかないけど。


 すると。


「ハロルド殿下、ただ今戻りました」

「モニカ、どうだった?」

「はい……」


 モニカは僕達にお茶を用意しつつ、お願いしていた調査結果(・・・・)について説明してくれた。


 やはりカーディスとフレデリカの婚約解消の件は事実だったようで、マーシャル家から正式に申し出があり、カーディス並びにエイバル王もこれを受け入れたとのこと。

 来年の四月に『世界一の婚約者を連れてきた者を次の王とする』なんてことを言い出すエイバル王はともかく、カーディスがそれを了承したことは意外だったんだけど。


「……カーディスが婚約解消を了承した背景には、あの(くず)の存在があるようです」

「ウィルフレッドの?」

「はい。どうやら、夏休み前から(くず)とフレデリカ嬢が仲睦まじくされている姿が、たびたび目撃されていたようです。夏休みに入ってからも、(くず)の招待を受けた女子生徒達の中にも名を連ねていたようですし」

「そ、そう……」


 つまりそれって、ウィルフレッドに寝取られた……ってこと、だよね。

 どうしよう。突き放したものの、カーディスが可哀想で仕方ないんだけど。


 だけどウィルフレッドの奴、まだ本編も始まっていないっていうのに、順調にハーレムを築き上げているなあ。これ、『エンハザ』的に問題ないの?


「ハア……どうにかして、ウィルフレッドに地獄を見せてやりたいなあ」


 僕はこめかみを押さえ、ポツリ、と呟く。

 でも、これが最大の失敗だった。


「……ようやく」

「え?」

「ようやく、ハル様のお許しが出ました」


 瞳を血塗られた赤に変え、サンドラが嬉しそうに口の端を吊り上げる。

 ヤ、ヤバイ。変なスイッチを入れてしまった。


「あ、た、ただ言ってみただけだからね!? ウィルフレッドを痛い目に遭わせるのは、まだ先(・・・)だから!」

「いいえ、ハル様。このままでは被害が大きくなるのですから、むしろ遅いくらいです。今すぐ息の根を止めましょう」

「モ、モニカ! 君も止めて!」

「はい!」


 暴走するサンドラを、僕とモニカで必死に止める。

 でも、もはや手がつけられなくなったサンドラは、『バルムンク』を手にして部屋を飛び出そうとしていた。


 その時。


「……勝手にそんなことをしたら、ハル……きっとサンドラのことを軽蔑すると思うよ?」

「っ!?」


 キャスの一言で、サンドラがピタリ、と止まった。


「ハ、ハル様……その……」

「あ、ああうん。僕としては、君にそんなことをしてほしくないかな……」


 瞳の色があっという間に青色に変わり、サンドラは今にも泣き出しそうになる。

 自分がやらかしてしまったことに、ようやく気づいたんだろう。キャス、よく言ってくれた。


「も、申し訳ありません……だから……だから、私を捨てないで……!」

「そんなことするわけがないじゃないか。君は、僕の大切な婚約者なんだから」

「は、はい……はい……」


 肩を震わせるサンドラを抱きしめ、優しく背中を撫でる。

 ふう……これからは、迂闊なことは言わないようにしないと。


 でも、僕が生き残り、『大切なもの』を守り抜くためにも、ウィルフレッドは誰もが納得する形で消し去らないといけない。


 だから、僕は準備をしよう。


 ――『エンゲージ・ハザード』が始まる、その時までに。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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