カーディスと決闘しました。
「……ハロルド。この私と、手合わせ願いたい」
ようやく口を開いたかと思ったら、まさかの決闘を申し込まれてしまったよ。
あれかな? 『無能の悪童王子』と蔑まれる駄目な弟を、実の兄として分からせてやる的な意味なのかな。
「心配しなくても、母上のことについて事情も聞いた。実の母から命を狙われたんだ。お前の気持ちも理解できる」
「…………………………」
「ただ私は、けじめをつけたいのだ。私にとってお前は、出来の悪い駄目な弟という評価でしかなかった。なんの才能もなく、いつも私の顔色を窺って媚び諂うだけの、情けない男だと」
好き放題言ってくれるね。
まあ、全て事実だけど。
「……僕と手合わせをすれば、満足するんですか?」
「ああ。それ以上は望まない」
顔を上げ、僕を見つめるカーディス。
その灰色の瞳は、一か月前の時のような濁りが薄れていた。
「ふう……分かりました」
「すまない」
息を吐く僕に、カーディスが深々と頭を下げる。
それだけで、僕にとっては驚きだ。
この男がハロルドに対して頭を下げたことなど、一度もないのだから。
「それで、いつにしますか? 僕はいつでも構いませんが……」
「なら、今からだ」
まさか、すぐに闘うことになるとは思わなかった。
でもまあ、ただ僕を倒したいというわけじゃないから、別に準備とかはいらないか。
ということで。
「さあ、始めようか」
いやいやいやいや、カーディスの奴メッチャ本気なんだけど。
あの右手に持っている得物、カーディスの専用武器であるUR武器『覇王槍ロンゴミニアト』だよね? 完全に仕留めにきてるじゃないか。
「心配いらない。半年前のウィルフレッドとの決闘に勝利したお前なら、私の槍を防ぐことなど造作もないだろう」
いや、勝手なことを言ってくれるね。
カーディスの実力は、『エンハザ』で充分理解しているんだよ。
だけど。
「勝ちを譲るつもりはありませんけどね」
『漆黒盾キャスパリーグ』に変身したキャスを手に持ち、僕はカーディスと相対する。
この訓練場には、僕とカーディス、それに立会人であるモニカしかいない。
サンドラ? 今頃、ゆっくりとお風呂に入っていると思うよ。
彼女、僕のためにいつも身だしなみに気を遣ってくれているから。
「モニカ」
「はい」
僕の言葉で、モニカが中央に立つ。
そして。
「それでは……はじめ!」
「シュッ!」
開始の合図とともに、カーディスが突きを繰り出す。
槍だけあって、リーチが長いね。
でも。
「……やはり防ぐか」
カーディスはそんなことを呟くけど、残念ながら彼の突きは直線的過ぎて、槍の軌道を読むのは簡単だ。
これじゃ、守ってくださいと言っているようなものだよ。
といっても、それはサンドラに極限まで鍛えてもらった僕だから言えるのであって、他の者なら今の攻撃だけで全身に風穴を開けていると思う。
それだけ、カーディスの槍は速く、鋭い。
「なら、これはどうだッッッ!」
「っ!」
カーディスの槍が無数に増え、一気に僕に襲いかかる。
固有スキルの【ショットガンスリング】か。
「無理ですよ。むしろ攻撃回数が増えた分一つ一つの威力が落ちています」
この【ショットガンスリング】は広範囲による面での攻撃を可能とするけど、代わりに一撃あたりの攻撃力が通常攻撃よりも下がる。
盾で防御するスタイルの僕とは、相性が悪い。
「そうこなくてはな」
カーディスは口の端を持ち上げると、腰を落とし、身体を引き絞る。
まさか……最大スキル、【双神破】を発動するつもりか。
「このカーディス=ウェル=デハウバルズの渾身の一撃、受けてみるがいい! 【双神破】!」
あまりの速さにカーディスの両腕は肉眼で捉えることができず、槍は二つの光の筋となって僕へ向かって伸びた。
威力、スピード共に申し分なく、その軌道は最短距離を光のように通過していく。
だけど。
「っ!?」
「……残念ですが、これでは僕を倒すことはできません」
カーディスが放った渾身の槍を難なく捌き、僕は静かに告げた。
魔獣フェアゲルトゥングスヴァッフェの【多薬室砲】は、カーディスの槍より速く、威力も高い。なら、僕がこの【双神破】を防げない道理はない。
前世の記憶を取り戻す前の僕……ハロルドなら、絶対に防ぐことはできなかった。
いや、正しくはあの頃のハロルドのままだったら、僕は『無能の悪童王子』でしかなかった。
ウィルフレッドに敗れて処刑される、愚かな噛ませ犬以下だったはずだ。
どうだいカーディス。僕は、強くなっただろう?
前世の記憶を取り戻し、生き残るために努力を重ね、最推しの婚約者と添い遂げると決意した結果がこれだよ。
僕は間違っていなかったと、胸を張って言える。
肩を落とすカーディスに、僕は冷ややかな視線を送る。
確かに僕は、自分の都合で『エンゲージ・ハザード』の世界をぶち壊しにした。それは認めるよ。
その結果、オマエは落ちぶれて僕の足元にも及ばなくなった。
主人公のライバルキャラであり、『エンハザ』でも屈指の実力者であるはずなのに。
でも、それって今の地位にあぐらをかいていた、オマエにも責任がある。
ただ『無能の悪童王子』であると僕のことを認めようとせず、道具としか思っていなかったオマエは、あろうことかエイバル王の甘言に乗せられ、ウィルフレッドを自分の懐に引き入れてしまった。
これらは全て、オマエ自身が選択した結果なのだから。
「兄上」
「……私の負けだ」
僕の声に促され、カーディスは苦悶の表情で敗北を認めた。
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