まるでハーレム主人公みたいでした。
魔獣フェアゲルトゥングスヴァッフェの固有スキルである【多薬室砲】は、『エンゲージ・ハザード』の中でも最大級の火力を誇り、たった一度の攻撃で編成キャラ全体に致命傷のダメージを与えることができる。
ただし、その火力ゆえに膨大なSPを消費するため、【多薬室砲】を放つためのSPのチャージに十分もの時間を要する仕様だ。
なお、対策としては、SPチャージが完了するまでの十分間で魔獣フェアゲルトゥングスヴァッフェを倒すか、火属性魔法の【多薬室砲】と相性の良い属性……水属性のキャラで編成してダメージを軽減しつつ、防御力強化のバフをかけまくって耐えるしかない。
回避? 【多薬室砲】は超長距離かつ二七〇度もの攻撃範囲なんだ。逃げる場所なんて、魔獣フェアゲルトゥングスヴァッフェの真後ろくらいだ。
可能なのは、超高速移動が可能なサンドラとモニカだけだよ。
なのにさあ……サンドラもモニカも、僕とキャスを信じて守られるって言うんだから、しょうがないよね。
これじゃ、何としてでも守り抜くしかないじゃないか。
「ぐ……ぐぐ……っ」
凄まじい熱量と威力に、カンストした能力値と『漆黒盾キャスパリーグ』の能力、さらに称号『金剛不壊』によって防御力を最大限に強化した僕がじり、じり、と押されている。
『エンハザ』では攻撃は全て一ターンで終わる演出しかないので、実際にはどれくらい攻撃が続くのか分からない。
でも。
「負けるかああああああああああああああああああああッッッ!」
僕は自分を奮い立たせるために腹の底から叫び、逆に押し返す。
そして。
「ハア……ハア……ッ」
「……馬鹿な……っ」
僕は……僕達は、【多薬室砲】を防ぎ切った。
「ッ!? ぎちちちちちちちちちち!?」
「虫けらの分際で、よくもハル様の手を煩わせましたね」
攻撃を終えた一瞬を見逃さず、サンドラが『バルムンク』で魔獣フェアゲルトゥングスヴァッフェの頭を貫いた。
「お覚悟を」
「っ!? が……ふ……っ」
モニカもいつの間にか専属侍女の背後に回り、その首をダガーナイフで刈り取る。
「ふう……やったね」
「えへへ! ボク達の勝ち!」
元の子猫の姿に戻ったキャスと、拳と前脚をコツン、と合わせた。
見ると、キャスも少し傷ついている。
ハア……相棒に、無理させちゃったな……って。
「あはは! くすぐったいよ!」
「駄目だよ。ハル、傷ついてるじゃないか」
急に頬を舐められてしまい、僕は声を上げて笑った。どうやら僕も、かすり傷程度は負ったみたい。
でも、ちょっと心配し過ぎじゃない? そんな顔しなくても、僕は大丈夫だよ。
「じゃあ、僕もお返しだ」
「ニャハハハハハハハハハハ! くすぐったい! くすぐったいよ!」
同じように傷を舐めてあげると、キャスはお腹をよじって転げ回った。
「そうだ。みんなも無事だった?」
「え、ええ……ハルのおかげで、私達は無事よ……」
それは何よりだけど、その微妙な反応は何?
リゼだけでなく、クリスティアやカルラまでメッチャ呆けた顔をしているんだけど。
「あ、辺り一面を焦土と化してしまうほどの攻撃を受けて、私達を守るばかりかかすり傷程度で済まされるなんて……」
「ハロルド殿下は、ますます遠くへ行ってしまわれた……」
ああー……確かに僕、あの【多薬室砲】を受け切ったんだよね。
冷静になって考えれば、僕、すごくない? いや、すごいから。
だって、『エンハザ』最大級火力を受け止めた僕は、前世の記憶を取り戻してから思い描いていた強さを手に入れたんだから。
自分を……『大切なもの』を守り抜く強さを。
「ハル様、お見事でした」
「うん……ありがとう。サンドラもあの堅い甲殻を持つ魔獣フェアゲルトゥングスヴァッフェを、たった一撃で仕留めたんだから、すごいよね」
「ふふ……私はあなた様の剣ですから」
そう言って、サンドラが微笑む。
「そうだね。君は僕の剣、そして、僕は君の盾。最強の剣と最強の盾なんて、まさに『矛盾』だね」
「ふふ! はい!」
僕の胸に飛び込み、嬉しそうに頬ずりをするサンドラ。
そんな彼女が可愛くて、僕はその綺麗なプラチナブロンドの髪を撫でた……って。
「ハロルド殿下、私もご褒美に撫でていただけますでしょうか」
「あ! ずるいですわ! 私だって頑張ったのよ!」
「うふふ……私もお願いしますね」
「むむ……わ、私も……って、いやいや、そんなわけには……」
モニカをはじめ、みんなが頭を近づけてくるんだけど。
何このハーレム主人公みたいな状況。
まあでも。
「あ……」
「フフ!」
「うふふ……」
「癒される……」
頑張ってくれた僕の『大切なもの』におねだりされたら、頭を撫でるくらいいくらでもさせてもらうけどね。
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