専属侍女は今日も主のために ※モニカ=アシュトン視点
■モニカ=アシュトン視点
「お嬢様、その表情はどのようなお気持ちを表しておられるのですか?」
一人部屋で待ち構えていた私は、ハロルド殿下のお部屋から戻ってこられたお嬢様に尋ねます。
「どういう意味で聞いているのか分からないけど、そうですね……やはり、マーガレットに対する怒り、でしょうか」
「怒り……」
「ええ。自分でこれまでハル様を蔑ろにしておきながら、見捨てられた途端に実の息子を亡き者にしようとしたのです。第一王妃であれ何であれ、あの女……絶対に許しません」
なるほど、確かにお嬢様のそのお言葉は間違いないでしょう。
何せ、答えた瞬間その瞳を鮮血の赤に染めていらっしゃいますから。
ですが。
「そうですか。では、どうしてお嬢様は、そんなにも笑顔でいらっしゃるのでしょうか?」
「え……?」
おや? まさか気づいておられなかったのでしょうか。
確かに怒りによって【竜の寵愛】は発動しておりますが、そのお顔は正反対で、口の端を吊り上げ、心の底から喜んでおられるようにしか見えません。
ただし、その表情は身の毛もよだつほど異様ですが。
「わ、私、喜んで……」
お嬢様は戸惑い、顔を伏せます。
これは、自分の感情が何なのか理解できずに困惑しているようですね。
本来ならお嬢様が落ち着きを取り戻されるまで、ここは席を外すのが妥当なのでしょうが……残念ながら、【竜の寵愛】が発動してしまっている以上、お一人にするわけにはまいりません。
万が一暴走してしまったら、それこそこの王宮で惨劇が繰り広げられることになってしまいますから。
すると。
「……そうですね。ええ、そうです。私は喜んでいます」
「お嬢様……?」
「だってそうでしょう? 私のハル様が全てを曝け出し、その身をこの私に預けてくださったのですよ! 肩を震わせ、この胸の中に顔を埋めて!」
お嬢様は不気味なほど真紅の瞳を爛々と輝かせ、見たことがないほどの笑顔を浮かべておられます。
なるほど……理解しましたが、これは非常に危険ですね。
「あなたは一緒ではなかったから知らないでしょうけど、ハル様……何度も私の名前を呼んで、求めてくださったんです。それはもう、『私無しには生きていけない』と……」
「そうですか……」
これは、何と申し上げたらよいか、分かりません。
間違いなく【竜の寵愛】が暴走傾向にあることは間違いないものの、少なくともハロルド殿下の想いが真っ直ぐにお嬢様に向いていらっしゃる間は、殿下自身に危害が及ぶ可能性は低いでしょう。
ですが、ハロルド殿下への愛がこれ以上なく高まっており、しかも、お嬢様の殿下に対する庇護欲までが上限を振り切っているこの状況……一歩間違えれば、この王宮の全てを破壊しかねないですね。
あの屑はもちろん、エイバル王やマーガレット、カーディスの命も一緒に。
「……であれば、お嬢様の責任は重大です」
「あら……それは、どういうこと?」
「はい……」
私はお嬢様を椅子に座らせて、懇々と諭します。
ハロルド殿下がお嬢様なしには生きていけないことは事実であるものの、お嬢様次第では、ハロルド殿下の居場所がこの世界から失われてしまうことを。
時にはおだて、時には厳しく、それはもうお嬢様の感情の変化を見逃さず、決して逆鱗に触れないようにお話ししましたとも。
私の一言で、ハロルド殿下が破滅してしまうかどうかが決まってしまうのです。今の私のストレス、ちょっとシャレにならないです。これはぜひとも特別手当をいただきませんと。
「……ということですので、お嬢様もハロルド殿下が不幸になってしまわれるのは、望んでいたことではないですよね?」
「え、ええ……」
ふう……私の説教……いえ、説明にご理解いただいたようで、瞳は元のサファイアのような青色に戻り、今ではすっかりしおらしくなっておられます。
本当に、こんな厄介な能力というか、呪いは勘弁してほしいですね。
「ですが、ハロルド殿下はきっと、お嬢様をこれからもずっとお求めになられると思います。お二人の関係が永遠に続くよう、このモニカも全力でサポートいたしますので、お嬢様もよろしくお願いいたします」
「も、もちろんです! ハル様がお傍にいてくださるのなら、何だってします!」
ええ、そうでしょうね。
お嬢様の【竜の寵愛】ならば、デハウバルズ王国を滅亡させることも造作もないことでしょうから。
ハロルド殿下……このモニカ=アシュトン、あなた様の世界を全力でお守りいたしましたよ?
なので、お嬢様の十分の一……いえ、百分の一で構いません。
どうかこの私めにも、あなた様の寵愛をお分けくださいませ。
――それだけで私は、この上ない幸福に満たされるのですから。
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