最愛の婚約者と初めての朝を迎えました。
「んう……」
カーテンの隙間から太陽の光が差し込み、僕は目を覚ます。
うう……もっとこのまま、眠っていたいなあ……。
シーツを頭まで被り、もぞもぞと潜る……んだけど。
「…………………………あ」
ここで僕は、昨夜のことを思い出す。
そうだった。僕はあろうことか、サンドラと同衾してしまったのだ。
心の中に積もりに積もった、全ての負の感情を吐き出して。
そんな僕を包み込んでくれた、最愛の婚約者に甘えたくて。
つまり。
「ん……ふみゅ……」
……まあ、僕の隣で寝ているに決まっているよね。
というか、今の『ふみゅ』って何? メッチャ可愛いんですけど。
あ、一応言っておくけど、僕は決してサンドラに手を出したりはしてないからね?
そういうのは、ちゃんと色々手順を踏んでからじゃないと。こう見えて、僕は身持ちが固いのだ……って。
「「あ……」」
どうしよう。バッチリ目が合ってしまった。
おそらく彼女も、どうして一緒のベッドで眠っていたのかと、頭の中が混乱しているんだろうな……って!?
「サ、サンドラ!?」
「ふふ……ハル様の匂い……」
僕の胸に抱きつき、くんかくんかと匂いを堪能するサンドラ。何これ、どういうプレイ?
「え、えーと、サンドラ……そろそろ起きませんか?」
そうじゃないと、僕の理性も限界です。
十五歳のハロルドは、言うなれば猿と一緒だということを理解してほしい。
「むう……嫌です」
「ええー……」
口を尖らせて不満を露わにし、サンドラはますます僕の胸……からお腹に移動して匂いを嗅ぐ。
僕の大事なところだけは、絶対に死守しないと。
「ハル様、やめてほしいですか?」
上目遣いで僕の顔を覗き込み、尋ねるサンドラ。
間違いを起こさないためにやめてほしいことは間違いないけど、このまま最後までお願いしたい欲望が首をもたげています。どうしよう。
「そ、そうですね。こういうことは、ちゃんと一緒になってからにしましょう」
よし、何とか理性が勝利したぞ。
僕はサンドラの小さな肩に触れ、身体を起こそうとする……んだけど。
「……これからはモニカやリゼ達と接する時みたいに、敬語をやめてくださったらハル様のお願いを聞きます」
ええー……むしろお願いをされてるのは、僕のほうでは?
だけどまあ、敬語をやめるくらいなら。
「分かりまし……い、いや、分かったよ。これからは、サンドラにも敬語は使わないようにする」
「ふふ! ありがとうございます!」
「わっ!?」
思いきり僕の上に飛び込んで抱き着くサンドラ。
というか、いきなり距離が近くなったような気がするのは、気のせいじゃないよね……ってえ!?
「なああああああああああああああッッッ!?」
「ふふ、マーキングです。これでハル様に、悪い虫は付きませんね」
なんと、サンドラに首元にキスマークをつけられてしまったよ。
たった一晩で、ちょっと進展しすぎじゃないかなあ……。
あ、因みにだけど、モニカとキャスは扉の隙間から、ニヤニヤしながら僕達の様子を見つめているよ。
もう今さらなので、何も言うまい。
◇
「さて……行くか」
身支度を整え、鏡に映る僕を見つめて頷いた。
これから僕は、マーガレットを糾弾する。
実の息子である僕を、亡き者にしようとしたことを。
僕の『大切なもの』に、手をかけようとしたことを。
「モニカ、キャス」
「はい」
「うん!」
肩に乗るキャスと、恭しくお辞儀をするモニカ。
一人と一匹を連れ、部屋を出ると。
「ハル様」
部屋の前で待ち構えていた僕の最愛の婚約者が、優雅にカーテシーをした。
「うん。一緒に行こう」
「はい」
サンドラの手を取り、王宮の廊下をゆっくりと歩く。
行先は、もちろんマーガレットのいる第一王妃のみに与えられた宮殿、“水晶宮”だ。
僕は今日、物心ついてから初めて、水晶宮に足を踏み入れる。
「……ここが、水晶宮だよ」
目的地の前に立ち、僕はサンドラに告げた。
昨夜、彼女に心の内の全てを吐き出したおかげで、僕の心はこんなにも軽い。
だから、また新たに溜めても耐えられるよ……って。
「ハル様……昨夜私が申し上げたこと、お忘れですか?」
「まさか。でも、それは二人の時だけだよ」
口を尖らせて不服そうにするサンドラに、僕はクスリ、と笑ってささやいた。
あと気づいたけど、彼女への敬語をやめてみたら意外と話しやすい。ちょっと驚き。
「……仕方ありません。すぐに片づけて、二人きりになりましょう」
「あ、あははー……」
フンス! と意気込むサンドラを見て、僕は乾いた笑みを浮かべる。
また朝みたいに、色々なことをされてしまうんだろうか……でも、ちょっと楽しみ。
ということで。
「入ってみれば、大したことはなかったね」
水晶宮の中に入った僕は、そんなことを呟く。
建物の作りや装飾などは、王宮の他のところと比べてもほとんど同じだし、調度品だって取り立てて特別な物もなさそう。
なお、ここに入るに当たって衛兵達とひと悶着があった。
さすがに実の息子で第三王子であっても、軽々しく入ることは認められないみたい。最後は強権を発動(『ドレイク卿に報告するぞ』って脅した)したので、すんなりと通してくれたよ。
その時。
「キャアアアアアアアアアッッッ!?」
……通りかかった侍女に、メッチャ悲鳴を上げられたんだけど。
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