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僕は全部吐き出しました。

「それでみんなは、今日は王都を楽しめた?」


 王都散策を終えたみんなとの夕食の席で、僕は笑顔で尋ねる。

 なお、残念ながら僕達は『黄道十二宮』を壊滅させていたために、合流したのが夕方になってしまったので、結局王都散策は満足にできずじまいだ。おかげでキャスがメッチャ不機嫌になっていたよ。


「うん! サルソの街のみんなにも、たくさんお土産を贈れるよ!」

「んふふー……お肉、美味しかったなあ……」


 うんうん、ユリとリリアナは満喫したようで何よりだ。

 一方で。


「…………………………」


 ロイドの奴は、残念ながら上手くいかなかったようだ。いや、上手くいったらいったで、それはどうなんだろう? って思うところはあるけど。

 いずれにせよ、ユリには普通の恋愛をしてほしい。いやいや、決してBLそのものを否定しているわけじゃないので、誤解しないでもらいたい。


「本当に、ハル達もどこへ行っていたのやら」

「わ、悪かったって。今度絶対に埋め合わせをするから」


 不機嫌さを隠さず、フン、と鼻を鳴らすリゼに、僕は先程からずっと平謝りだ。

 聞いた話によると、リゼはずっと僕達が戻ってくるのを待っていたらしい。メッチャ申し訳ない。


「まあまあ、ハロルド殿下も色々とあるようですし、仕方ないのでは?」

「そうですね。明日は私との手合わせに付き合っていただけるとのことなので、何も申し上げるところはありません」


 リゼをなだめるクリスティアと、鼻息荒く嬉しそうに腕を振り回すカルラ。これは、明日は一日中付き合わされることになりそう。


「あ、そうそう。聖女様とカルラ殿も、いい加減、僕のことを“ハル”と呼んではいただけませんか?」


 そう……なぜかクリスティア達は、僕が愛称で呼んでもいいって言ってるのに、(かたく)なに“ハロルド殿下”としか呼んでくれない。

 二人だって僕の『大切なもの』なんだから、そういう遠慮はしてほしくないんだけどなあ……。


「本当にありがたいお言葉なのですが、いざと(・・・)いう時(・・・)に『ハル様』とお呼びしてしまいます。ウィルフレッド殿下をはじめ、他の王子殿下いらっしゃる状況下で万が一公の場でそうお呼びしてしまうと、あなた様が余計な面倒に巻き込まれてしまいます」

「そのとおりです。聖王国の支援を受けるということは、世界中の信徒からの支援を受けるということ。後継者争いをなされている中、表立ってそのことが知れれば、この国に限らず、他国を含めてハロルド殿下を利用しようとする者が後を絶たないでしょう」

「あ、あはは……」


 今まではやんわりと断られただけだったので、まさかそこまで僕のことを考えてくれているとは思わなかった。

 自分の浅はかさに、苦笑いするしかないよ。


 ただ、二人は知らないんだよなあ……。

 この僕が王位継承争いに興味がなく、いずれ臣籍降下してシュヴァリエ家の婿養子になることを。


「あ! 俺の肉!」

「返してよー!」

「んふふー、知らないんですか? こういうのは、早い者勝ちなんですよ?」

「あはははは!」


 またもやリリアナにお肉を(さら)われたユリとロイドを見て、僕は大声で笑った。


 この胸の中にあるどす黒いものを、吹き飛ばしたくて。


 ◇


「ハル様……」


 みんなとの夕食を終え、そろそろ深夜になろうかという時間。

 僕は、失礼ながらもサンドラの部屋を訪ねた。


「……その、少し夜風に当たりませんか?」

「はい……」


 そう告げると、サンドラはその小さな手を僕の手にそっと添える。

 ちょっと冷たくて、心地いい。


 サンドラをエスコートしてやって来たのは、二年前、僕が彼女に土下座したあの庭園だ。


「僕は、あなたに相応しい男になるためにって、三年間の猶予をいただきました」

「…………………………」

「残すはあと一年足らず。それまでに、僕はあなたの隣に立てるような男になれるでしょうか……?」


 サファイアの瞳を見つめ、僕は尋ねた。

 情けないことを聞いていることは重々承知しているけど、今の僕は不安しかない。


 だって、僕は……って。


「あなた様ほど私の(つがい)となっていただくに相応しい御方など、この世にはおりません。……いいえ、私はあなた様の(つがい)となるために生まれた存在です」

「そ、そっか……」

「それと……ハル様は、もっと心の内をお見せになるべきです。抱えて、抱えて、弱さを見せようとされません。この、私にさえも」


 あ、あははー……それを言われると、耳が痛いなあ。

 でも、サンドラの婚約者に相応しい男になるためには、弱くちゃいけないし。


 婚約をしたばかりで十三歳の子供だった二年前の僕なら、まだそれも許された、んだけど……。


「えーと……」

「ハル様。申し訳ありませんが、少ししゃがんでください」

「へ……?」


 真剣な表情でそんなことをお願いされ、僕は呆けた声を漏らしつつも脚を屈め……っ。


「サ、サンドラ!?」

「愛しい愛しいハル様。どうかその弱さも含め、この私にお与えくださいませ。嬉しいことも、楽しいことも、悲しいことも、つらいことも、悔しいことも、苦しいことも、お互いに分け合う……それが、(つがい)になるということですから」


 僕の顔をギュ、と抱きしめ。サンドラが耳元でささやく。


 でも僕は、強くならなくちゃいけないんだ。

 たとえ、実の母親に命を狙われたからって、それがつらくても、全部耐え抜かないといけないんだ。


 だから……だから……っ。


「ハル様……私の世界で一番『大切なもの』。どうか、私の胸で吐き出して……?」

「うわあああああああああああああああ……っ!」


 煌々(こうこう)と輝く月の下。

 サンドラの温もりと優しさに包まれ、これまでずっと(こら)え続けてきたものを、その小さな胸に全て吐き出した。


 悲しみも、苦しみも、悔しさも、口惜しさも、その全てを。


 そんな僕を、彼女はただ、抱きしめてくれた。


 ずっと……ずっと……。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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