暗殺ギルドを壊滅しました。
「サンドラ、モニカ。おそらく敵は、『蠍座』の称号を持つ暗殺者だと思います」
「いいえ、ハロルド殿下。私が確認できた気配だけでも、あと七人はいるかと」
「そっか」
となると、連中は『黄道十二宮』のうち“三巨頭”を除く全員で僕達を迎え撃つつもりなんだな。
なら……僕達は、それを全て蹴散らすだけだ。
「モニカ! 正確な敵の位置を教えてくれ! サンドラは僕の後ろで待機! 合図をしたら、一気に仕留めてください!」
「ハロルド殿下、真正面から三人。ですが、これは囮です。本命は……」
僕の顔の横で、モニカが指示した場所。そこは……僕達の真下。
「サンドラ!」
「はい!」
「グギャ!?」
サンドラが『バルムンク』を地面に突き刺すと、悲鳴が上がる。
剣を引き抜けば、そこから血がじわ、と滲み出た。
「次です。左右から二名ずつ。真上から一名……いえ、こちらは始末しました」
左の敵二人に絞って盾を構える僕の横に、口から赤い泡を噴く男が、どさり、と落ちた。
「キャス!」
「任せて! 【スナッチ】!」
「ぐあっ!?」
「う……っ」
巨大な爪の幻影が敵二人の身体をまとめて抉る。
一人は痛みで地面を転げ回り、もう一人は……どうやら即死効果が発動して、生命そのものを奪われたみたいだ。
「「あ……」」
僕が左側の敵を相手している間にも、サンドラが右側から襲ってきた二人を横一文字に両断していた。
「あと残るは三人」
「いいえ、一人です」
いつの間にか正面にいる三人の敵の背後に回り込んでいたモニカが、そのうち二人の首を刈り取っていた。
「ハロルド殿下、この者はいかがなさいますか?」
「よし、始末しよう」
「かしこまりました」
残る一人の口を塞いでいたモニカは、ダガーナイフで首をかき斬った。
生かしておいて敵の情報を得るという選択肢もなくはないけど、僕には『エンゲージ・ハザード』に関する全ての知識を持っている。なので、別にいなくても困らないからね。
何より……コイツ等は、僕だけでなく大切な二人も狙おうとした。
そんな連中をのさばらせておくほど、僕は心が広くないんだよ。
「さあ、行きましょうか。このまま残る連中の全てに、地獄を見せるために」
「ふふ……はい」
僕はサンドラの手を取ってそう告げると、彼女は口の端を三日月のように吊り上げた。
彼女もまた、僕と同じ気持ちだから。
◇
「ま、待ってくれ! 俺達はただ雇われただけだ!」
暗殺ギルドのアジトに乗り込んだ僕達は、『黄道十二宮』の暗殺者達を屠った勢いそのままで、待ち構えていた残る三人のうち、『射手座』と『獅子座』を始末した。
残る『牡羊座』は今、僕達の目の前で命乞いを始めている。
「雇われた? 面白いことをいうね。オマエ達『黄道十二宮』は、主君に絶対の忠誠を誓い、組織された暗殺者だろう。下手な嘘は吐かないほうが身のためだよ。……オマエ達の主君の命が、どうなってもいいなら」
「う……」
僕の言葉に、『牡羊座』の暗殺者は声を詰まらせる。
そう……この『黄道十二宮』という暗殺ギルドは、今から二十年前にある者のために組織された集団。
ある者の敵となる者を全て排除し、生涯の安寧をもたらすために。
「……そんな真似が、ハロルド殿下にできるとお思いですか?」
「できるさ。もう、アレは僕の『大切なもの』じゃない」
『エンハザ』のハロルドなら、きっとこんな真似はしなかっただろうし、コイツ等の主君もハロルドを狙ったりすることなんて、絶対になかった。
でも、ハロルドの中身の僕は、“立花晴”。ハロルドと同じ記憶と想いを共有していても、人格そのものは違う。
だから……たとえこの胸が苦しくても、張り裂けそうでも、『大切なもの』のためなら切り捨てる。
「そういうことだから、見え見えの命乞いのふりなんて無駄だし、オマエを始末したら次はアイツだ。僕達に手を出そうとしたこと、あの世で後悔しろ」
「お、お待ちください! 私の命はどうなっても構いません! ですからあの御方は……姫様だけは、どうかお慈悲を……っ!?」
額を床に擦りつけて必死に懇願する『牡羊座』の暗殺者の首を、僕の合図を受けたモニカが刈り取った。
「ハル様、次は……」
「うん。もちろんアイツだよ」
『エンハザ』における本編シナリオの一つである『カーディスの確執』においては、主人公のウィルフレッドが仲間のヒロイン達とともに『黄道十二宮』の暗殺者を全て倒した後、その事実を聞かされて知ったカーディスが、凶行を止めるために主人公と和解する。
最終的に『黄道十二宮』の主君はカーディスに諭され、今後は主人公に対して危害を加えることもなくなるんだ。
だけど。
「僕は、『和解』なんて道は選ばない。だから、後悔するんだね。母上……いや、マーガレット=ウェル=デハウバルズ」
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