刺客の道化師はみんなに瞬殺されました。
「それで……覚悟はできているんだよね? オマエも、オマエの主人も」
「っ!? おやおや、これはこれは……」
嘲笑う僕の言葉に、キラークラウンはおどけてみせた。
だけど……その道化師の仮面の奥に宿る瞳には、動揺の色が浮かび上がっているけどね。
「モニカ、協力して広場にいる住民達の避難させてくれ」
「かしこまりました」
モニカは恭しく一礼すると、すぐにこの場から消えた。
おそらく、周囲の衛兵に指示を出しに行ったんだろう。
「リゼ達も、ここは僕が守るから、一緒に避難……なんて、するわけないよね」
「オーッホッホッホ! 当然ですわ! せっかくの夏休み初日を邪魔されたんですもの! 私の【獄炎】で焼き尽くして差し上げますわ!」
口元に手を当て、高らかに嗤うリゼ。
さすがは『エンハザ』きっての悪女、メッチャ絵になる。
「うふふ……住民に被害が及ばないよう、周囲には既に【光の壁】を展開しております。皆さん、思う存分暴れていただいても大丈夫ですよ?」
「なら、あとは斬り刻むのみ!」
クスリ、と微笑むクリスティアと、鞘から『滅竜剣アスカロン』を抜き、切っ先をキラークラウンへと向けるカルラ。
これ、絶対にオーバーキル案件だよね。
「と、いうことなんだけど……どうする? 主人を裏切って洗いざらい話すなら、命くらいは助けてやれるけど」
「ホホホ、まさか。そもそも、この私がたかが成人を迎えたばかりのガキに、負けるわけがないでしょう……ってえ!?」
「失敗しました。これでは、ハロルド殿下にお召し上がりいただくことができませんね」
いつの間にかキラークラウンの背後にいたモニカが、魔獣ムニンとフギンにダガーナイフを突き刺し、絶命させていた。
今の口振りからして、あのナイフに毒でも仕込んであったんじゃないだろうか。
「いきなり切り札がなくなっちゃったけど、本当にいいの? 今ならまだ…………………………あ」
「【獄炎】」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?」
僕がまだ話をしている最中だっていうのに、リゼは待ちきれなかったみたいで、キラークラウンが黒い炎に包まれてのたうち回っているよ。むごい。
「だけど、昨年よりも炎の威力が強くなってない?」
「フフ……当然ですわ。元々才能溢れる私が、努力なんてものをしてみたんですもの」
なるほど。リゼもまた、『エンハザ』に登場する彼女よりも強くなったってことか。
というか僕と関わったヒロイン達、既にステータスがカンストしてそうな勢いなんですけど。
「まいる! はあああああああああああああああああッッッ!」
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?」
憐れキラークラウンは、命乞いをする暇すら与えられずにカルラにとどめを刺されてしまった。
◇
「ハル、何をしていらっしゃるんですの?」
かろうじて一命をとりとめたキラークラウンは、無残に地面に転がっていた。
一方で、まるで死体(生きてるけど)に鞭を打つかのように懐をまさぐっている僕を見て、リゼが不思議そうに尋ねる。
とても先程まで、キラークラウンの悲鳴と絶望の表情を眺めて口の端を吊り上げていたとは思えないくらいに。
ちなみにキラークラウンは、あれからクリスティアが回復魔法をかけては死ぬぎりぎりまで手加減した攻撃を食らい続けるという、地獄も真っ青なほどな拷問を受けて、とっくに精神が崩壊しているよ。みんなヒロインなのに、やることがえげつない。
そのせいで、遠巻きに見ていたユリやロイド、リリアナは恐怖に顔を歪めていたっけ。酷いよね。
「いや、きっとここに……あ、あった」
キラークラウンのボロボロになった衣装の中から、『蟹座』がシンボルマークの意匠が施されたプレートを取り出した。
「これは?」
「この道化師が、王都にある暗殺ギルドに所属していることを証明するものだよ。つまり、何者かに雇われて、この僕を襲ったということです」
もちろん、誰が雇ったのか……いや、そもそも、暗殺ギルドを誰が作ったのかを含めて、僕は犯人を知っているんだけどね……って!?
「サ、サンドラ!」
「あ……」
瞳の色が血塗られた赤に変化しそうになったサンドラを慌てて抱きしめ、みんなにバレないように隠した。
きっと彼女のことだから、僕の命を狙った者に対する怒りで、感情が昂ってしまったんだと思う。
「ほら、僕はこのとおり大丈夫なんですから、そんなに怒らないでください」
「で、ですが、あなた様の命を狙う不届き者など、許せるはずが……」
「もちろん、僕だって許すつもりはありませんよ。当然ですが、連中には報いを受けさせます」
今回は直接的に仕掛けてきたので対応するのも簡単だったけど、これから先どんな搦め手で来るか分からない。
とはいえ、物理では相手にならないことは分かっただろうから、一番可能性として考えられるのは、毒による暗殺だと思う。
いずれにせよ、明確に僕を狙ってきた以上、すぐに対処して安全を確保しないとね。
僕だけならともかく、僕の『大切なもの』に危害が加えられるかもしれないんだから。
だけど……最近のサンドラは、特に瞳が変化することが多くなった気がする。
後で、モニカにも相談するとしよう。
「そういうことですので、王都散策の続きをしましょう」
「も、もう……少しはご自身のお身体を気遣ってください……」
サンドラはそう言って口を尖らせるけど、その瞳は元の美しいサファイアに戻っていた。
僕はそのことに安堵しつつ、可愛らしい彼女を見て頬を緩めた。
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