今度は第一王妃まで押しかけてきました。
「さあみんな! たくさん食べてね!」
みんなとの晩餐会、僕は両手を広げ、満面の笑みでテーブルの上に所狭しと並ぶ料理を勧めた。
「はわわわわ……お肉、お肉ですよ……!」
「うんうん、お腹いっぱい食べるといいよ」
子豚の丸焼きに魂を奪われ、既によだれが決壊しているリリアナに、僕はお父さんになった気分で頷く。
この女主人公、本当に残念ヒロインだ。
「うふふ……前回、使節団として訪れた時はゆっくり食事ができませんでしたが、今夜は楽しませていただきます」
「あの時以上のお心遣い……ハロルド殿下には、感謝いたします」
「いや、カルラ殿、堅いですよ」
深々と頭を下げるカルラに、僕はちょっとおどけてツッコミを入れた。
だけど、喜んでくれて何よりだよ。
「うわあああ……! サルソでは考えられないくらいの料理だよ……!」
「そ、そうか。なら、俺のも食う?」
「え? いいの?」
「お、おう!」
「じゃあ遠慮なく」
「「あっ!?」」
ロイドはポイントを稼ごうと、せっかくユリに料理を勧めたっていうのに、耳聡く聞いていたリリアナにかっさらわれてしまった。
というかリリアナ、どれだけ食い意地が張っているんだろう。その鬼気迫る様子に、もはやヒロインとしての面影すらないよ。
あはは……本当に、みんなを見てると全然飽きないよ……って。
「……ハル、みんなに感謝するんですのよ?」
いきなり傍にやって来て、そんなことを耳打ちするリゼ。
まったく……ポンコツ悪女のくせに、気遣いでき過ぎじゃないかな。
カーディスの件で僕が落ち込んでいるのを見抜いて、明るく振る舞う僕にわざわざ付き合うんだから……それも、リゼ達はともかく、リリアナやユリ、それにロイドまで。
これ以上、僕の『大切なもの』を増やしてどうするんだよ。
「大丈夫。ハル様は、そびえ立つ大木のような御方ですから」
「あ……」
リゼのささやきを聞いていたサンドラが、ニコリ、と微笑む。
僕の婚約者、ちょっと過大評価がすぎると思うんだけど。
でも……最推しの婚約者にメッチャ期待されているんなら、やるしかないよね。
僕は大好きな婚約者や『大切なもの』に囲まれて、この晩餐会を心から楽しんだ……んだけど。
「おや? まさか聖女様が王宮にいらっしゃっているとは、思いもよりませんでした」
「うふふ、そうですか。ハロルド殿下のお誘いですから、それはもう喜んでまいりました」
運悪く王宮の廊下で、ウィルフレッドの奴とバッタリ出くわしてしまった……。
でも、僕を無視してクリスティアに話しかけるけど、逆に聖女が僕を持ち上げる結果になり、ウィルフレッドは微妙な顔をしているよ。ざまぁ。
「それでは、もうこんな時間ですので、私はお部屋で休ませていただきますね?」
「あ……でしたら……」
「カルラ、行きましょう」
「はっ!」
『部屋まで送ろう』と申し出ようとしたウィルフレッドを無視し、クリスティアはカルラを連れてさっさと部屋へ帰って行った。
通り過ぎる時、口の端を持ち上げていたのが印象的だったよ。
「フフ……振られてしまったわね」
「君は……」
「馴れ馴れしく、『君』なんて呼ばないでいただけるかしら。このリゼット=ジョセフィーヌ=ド=カペティエン、あいにく『穢れた王子』にそんな呼ばれ方をされる筋合いはないんですの」
クスクスと嗤い、リゼも自分の部屋へと戻る。
というか、『穢れた王子』って蔑称、久しぶりに聞いたよ。
「じゃあ、僕達も行こうか」
「はい」
「…………………………」
顔を真っ赤にして肩を震わせるウィルフレッドを置き去りにし、僕達も各々自分の部屋へと戻った。
◇
「ええー……」
次の日の朝、モニカからの報告を受けて、僕は思わず変な声が漏れた。
「おそらく、ハロルド殿下に対抗したつもりなのでしょう。あの屑、ウォーレンや女子生徒達を王宮に招いたようです」
「そ、そう……」
僕に対抗してって、どういう意味だよ。
え? なに? ひょっとして、『どっちのほうが友達が多いか勝負』的な? 小学生か。
「ふふ……相変わらず、底が知れるというもの。愚か者は、やはり愚かだということです」
サンドラがベッドの上に腰かけ、クスクスと嗤う。
あ、言っとくけど、別に彼女とやましいことなんてしてないからね? たまたま寝室で話をしていたからこうなった……というか、サンドラが『寝室のほうが、落ち着いて話ができますから』とか何とか言って、押しかけてきただけだから。
「ま、まあいいや。ウィルフレッドは放っておこう。それより、せっかくの夏休み初日だから、ユリの案内も兼ねて、王都でも散策しに……」
「ハロルド! 出ていらっしゃい!」
扉を激しく叩く音と一緒に聞こえる、キンキンと耳障りな声。
ひょっとしなくても、これってマーガレット、だよね?
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