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第一王子が押しかけてきました。

「終わったぜええええええええええええええッッッ!」


 期末試験を全て終え、いよいよ明日から夏休み。

 ロイドがいち早く、教室中はおろか廊下にまで響き渡るほどの大声で終了を宣言した。


 それと同時に。


「ハル! サンドラ! 早く行きますわよ!」

「うふふ、お待たせしました」


 両隣のクラスのリゼ、クリスティア、カルラが教室に飛び込んできた。

 なお、クリスティアは結局聖王国には戻らず、このまま王国に滞在することになり、同じく留まることとなったカルラは、聖王国からのクレームに頭を悩ませている。お、お疲れ様です……。


「ハル君! 行こ!」

「わ、分かったから、そんなに手を引っ張らなくても!?」


 中でも、大はしゃぎなのはユリだ。夏休みになるのを指折り数え、今日という日を待ちわびていたからね……って。


「え、えへへ……きっと王宮の料理では、見たことがないようなお肉がたくさん……」


 じゅるり、とよだれをすするリリアナに、僕は思わず白い目を向ける。

 ああ……この女主人公、肉食系なんだ。(意味が違う)


「あ、あははー……今日からみんな王宮に来ることになるから、ささやかだけど晩餐を用意させてもらったよ。もちろん、僕達だけで」

「「「「「やったー!」」」」」


 うんうん、みんな喜んでくれて何よりだよ……って。


「…………………………」


 ただ一人、恨めしそうにみんなを見つめるサンドラ。

 おそらく彼女は、自分だけ王都のタウンハウスに帰らないといけないって、そう考えているんだろうな。


「……ちゃんと、君の部屋も用意してありますよ」

「! ハル様!」

「わっ!? あはははは!」


 そう耳打ちをすると、打って変わってパアア、と満面の笑みを浮かべ、サンドラが胸に飛び込んだ。

 僕はそんな彼女を抱き留め、そのまま高く持ち上げる。


 でも、こんなにも小さな身体のサンドラがヒロイン達よりも圧倒的に強いんだから、すごいよね。

 身長だってリゼと同じ一四〇センチしかないし、その……リゼとは違い、平坦なので体重だってすごく軽いのに……って!?


「……たとえハル様でも、今のお言葉はいただけません」

「ヒイイイイイイイ!?」


 上から見下ろす絶対零度の視線に、僕は最大級の悲鳴を上げたよ。

 思ったことを口に出す癖、絶対に直そうと心に決めました。


 ◇


「それじゃ、時間までゆっくりしててね」


 王宮に連れてきたみんなを、用意した部屋にそれぞれ案内し、僕はサンドラ、モニカと一緒に自分の部屋に戻る。

 いやあ……たった四か月とはいえ、こんなにも自分の部屋が懐かしいと感じるとは思わなかったよ。


「そ、その……私のお部屋をご案内いただいていないのですが……」


 サンドラが、上目遣いでおずおずと尋ねる。

 おっと、そうだったね。


「君の部屋は、ここの隣です。その……ぼ、僕達は婚約者同士ですから、特別です」

「! そ、そうですね。私達は婚約者同士ですから、皆様と違って特別に隣同士なのも当然ですね」


 サンドラは嬉しそうに、(とろ)けるような笑顔を見せてくれた。

 うんうん。モニカの言うとおり、他のみんなと差別化を図って正解だったよ。グッジョブ、モニカ。


 僕はモニカに目配せし、互いにサムズアップを交わす。


 その時。


「……少々見てまいります」


 ノックする音を聞いてモニカは無表情に変わり、素早く扉へと向かう。

 王宮内で僕に用事があるのって、ひょっとしてオルソン大臣かな?


 だけど。


「ハロルド殿下……カーディス殿下がお見えになりました」

「っ!?」


 予想を裏切り、やって来たのはカーディスだった。


「ハロルド……」

「兄上……ど、どうなさったんですか……?」


 あれほど自信に満ち(あふ)れていた姿からは程遠く、灰色の瞳は濁り、少し痩せこけたように感じる。

 二か月間ストーン辺境伯のところに行っていたし、学年も違うことから、王立学院内で顔を合わせたことはなかったけど、まさかカーディスがここまで落ちぶれていたとは予想外だ。


「……貴様、よりによってラファエルと手を組んだらしいな」

「え、ええ……」


 ギロリ、と睨むカーディスに、僕は戸惑いながら答えた。

 そうか……用件は、そのことについてか。


「なぜだ! なぜ実の兄である私には手を貸さず、アイツに(くみ)したッッッ!」


 僕の胸倉をつかみ、カーディスが鬼の形相で詰め寄る。

 おそらく、彼にとっては裏切られた気分なんだろうな。


 自分だって、僕が敵対しているウィルフレッドを受け入れ、しかも、それからは一緒になって僕を敵視していたくせに。


 実の弟であるこの僕を、裏切ったくせに。


「兄上には関係ないことです。それより、僕なんかに構っていていいんですか?」

「どういう意味だ!」

「そのままの意味ですよ。国王陛下は露骨にウィルフレッドを支持し、既に兄上の派閥からは離脱する者が後を絶たない。このままじゃ……」

「う、うるさい! それこそ、貴様がラファエルと手を切り、私を支援すれば済むことだ! 何せ貴様はともかく、最大貴族のシュヴァリエ家がいるではないかッッッ!」


 ああ……やっぱりこの男にとって、僕は取るに足らない駄目な弟でしかなくて、当てにしているのはサンドラの実家だけってことなんだ。

 オマエも、マーガレットと一緒だね。本当に、親子だと思うよ。


「っ!?」

「お断りします。今後一切、僕に関わらないでください。モニカ、兄上がお帰りだ」

「かしこまりました」

「オ、オイ! 貴様、ま、待て! そうだ、ちゃんと話をしよう! な? な!」


 カーディスを突き放し、僕は自分でも驚くほど低い声で告げると、モニカは強引に彼を引きずり、部屋から追い出す。

 自分が間違えたのだと気づき、(すが)るような瞳を向けて手を伸ばすけど、知ったことか。


「ハル様……」

「あはは……カーディス兄上と、縁を切っちゃいました」


 今にも泣きそうな……いや、一滴(ひとしずく)の涙を(こぼ)すサンドラの手を取り、僕は寂しく微笑んだ。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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