生徒会にお誘いを受けました。
「ハロルド、ちょっといいかな」
一日の授業が終わり、帰り支度をしていたところで、ラファエルが教室にやって来た。
一体何の用だろう……。
「ラファエル兄上、どうしました?」
「ここでは何だから、場所を移そう」
ということで、僕は首を傾げつつ、ラファエルの後についていくと。
「ええとー……」
「実は、生徒会役員の枠が一つ空いてね。ハロルドに、書記をやってほしいんだ」
連れてこられた生徒会のサロンで、いきなりそんなことをお願いされてしまった。
ちなみに、ここには僕とラファエルの二人しかいない。
だけど。
「その……生徒会長はカーディス兄上が務めておられますよね? 僕が入ったら、それこそ生徒会が崩壊するんじゃ……」
「その心配はいらない。僕が生徒会長になったし、そもそも生徒会役員の枠が空いたのは、カーディスが辞めてしまったからなんだ」
「辞めた!?」
ラファエルの言葉に、僕は思わず声を上げた。
いやいや、あんなにプライドの高いカーディスが、ライバルであるラファエルに生徒会長の座を譲るなんて、あり得ないんだけど……。
「ハロルドが驚くのも無理はない。その話を聞いた時は、僕も同じ反応を示したよ。だけど……お前だって分かっているだろう? 国王陛下が、誰を次の王にしたいのか」
「あ……」
なるほど……カーディスは、エイバル王がウィルフレッドを支持していることに、少なからずショックを受けているということか。
だけど、そんなの今さらじゃない? エイバル王の贔屓なんて、アイツをカーディスの派閥に入れたことで薄々気づいていただろうに。
「もちろん僕は、国王陛下の思惑を素直に受け入れるつもりはない。それは、ウィルフレッドとの決闘に勝利し、あのようなことを褒美として求めた、お前も同じだろう?」
ああ、そうだ。
僕は、絶対にウィルフレッドを次の王になんてさせてたまるか。
そんなことになったら、それこそ誰もが不幸になる未来しか残されなくなってしまう。
「ですが、僕が生徒会に入ることに、どんな意味があるんですか?」
「決まっている。ハロルドは、僕の要請を受けて生徒会入りした。それだけで、あとは周囲が勝手に判断してくれる」
なるほど……これまで無関係だと思われていた僕とラファエルが、実は手を組んでいるのだと明確に示すことが目的か。
「それに、ハロルドが欲しい思いはずっと変わらないし、お前の能力を王族の中で最も評価しているのは僕だ。なら、生徒会長としてお前を求めるのは当然だろう?」
「あ、あははー……」
ラファエルにここまでグイグイ来られて、僕は苦笑するしかない。
だけど。
「分かりました。このハロルド、微力ながら兄上のお手伝いをさせてください」
「よく言ってくれた。僕は……いや、生徒会は、ハロルドを歓迎するよ」
お互い利用し合う立場ではあるけれど、ウィルフレッドを蹴落とすという目的は同じだ。
なら、僕達が共闘するのは、当然の成り行きだよね。
笑顔を見せるラファエルと、僕は握手を交わした。
◇
「二人とも、待っていてくれたんだね!」
生徒会室を出ると、サンドラとモニカが僕を出迎えてくれた。
結構な時間、ラファエルと話し込んでいたというのに、待たせてしまって申し訳なかったな……。
でも、すごく嬉しい。
「ハル様。ラファエル殿下との話し合いは、上手くいきましたか?」
「ええ。ここでは何ですので、僕の部屋に行きましょう」
「ふふ……はい」
嬉しそうに手を握るサンドラを、寄宿舎の僕の部屋へと連れてくると。
「結論から言いますと、僕はラファエル兄上の要請で生徒会に入ることにしました」
生徒会室での、ラファエルとの会話の内容について二人……と一匹に説明する。
キャスはきっと政治的な話なんて興味ないと思うけど、相棒だけ除け者にするのも違うよね。
そのことが分かっているからか、キャスは一生懸命に耳を傾けてくれているし。あとでメッチャ愛でるとしよう。
「……というわけなんです」
「なるほど……ですが、カーディス殿下のその反応は意外でしたね」
「僕もそう思いました。いくらショックを受けているとはいえ、僕達兄弟の中で誰よりも王になることを求めていたのは……いえ、違いますね。王になることを求められていたのは、他ならぬカーディス兄上でしたから」
そう……カーディスを王にと、誰よりも求めたのは、カーディスではなくて母であるマーガレットだから。
「いずれにせよ、これから慌ただしくなりそうですね。ハル様とラファエル殿下の共闘により、周囲はますます迷うことになりそうです」
「ですね」
僕とサンドラは、クスリ、と微笑み合う。
少なくともこれで、王位継承争いは僕又はラファエルとウィルフレッドの争いになり、カーディスは脱落したと見るだろう。
その時、カーディス派の貴族達は、果たしてどちらに与することになるのか。
僕の予想では、ウィルフレッドではなく僕達にすり寄って来ると考えている。
というのも、カーディスの右腕として存在していたウィルフレッドは、派閥内でよく思われていない。
何せ、いきなり派閥に加入したと思いきや、自分達を押し退けて右腕というポジションに収まり、挙げ句の果てには下につけってことだからね。
プライドの高い貴族なら、そんなこと受け入れられないだろう。
もちろん、前世の記憶を取り戻すまでのハロルドも、ウィルフレッドと同じような立場……いや、それよりも酷いか。とにかく、少なくとも僕の下にはつかないだろうけど、ラファエルなら文句なしだ。
結果、カーディス派の貴族の大半をラファエルが吸収し、パワーバランスは大きく崩れる。
「みんな、これから大変になると思うけど、力を貸してね」
「はい!」
「お任せください」
「うん! もちろんだよ!」
僕達は決意を込め、力強く頷いた。
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