仕方ないので『ガルハザ』の主人公も誘いました。
「…………………………チッ」
教室に戻る途中で、廊下からAクラスの様子が見えてサンドラが眉根を寄せて舌打ちをする。
もちろん、ウィルフレッドの奴が女子生徒に囲まれながら、笑顔を見せているからだ。
いや、ここまでくるとただのやっかみに近いけど、それでも、ヒロイン達がアイツの毒牙にかかるのかと考えたら、僕もウィルフレッドが痛い目に遭えばいいのにと思う。決して順調にハーレムを形成していることへのやっかみでは断じてない。本当だよ?
「……私は、アイツ嫌いだな」
「な、なら、俺も……」
ユリはともかく、ロイドはそういうこと言わないほうがいいと思うぞ? 腐ってもアイツ、エイバル王の寵愛を受ける第四王子だし。
「ですが、あの屑が主催したパーティー以降、目立った動きが何一つありませんね」
「うん……」
モニカの耳打ちに、僕は頷く。
そのことは、僕もずっと気にはなっていた。
ひょっとしたら、ラファエルまで使ってアイツ等の企みを阻止したことで警戒しているのかもしれないけど、これまでのウィルフレッドなら、何かしらの動きを見せてもおかしくはない。
「いずれにせよ、警戒するに越したことはないよ。モニカは引き続き、アイツとウォーレンには注意しておいてくれ」
「かしこまりました」
ということで、Bクラスの教室に戻り、僕達は席に着く……んだけど。
「うう……どうしよう……」
……『ガルハザ』の主人公が、まるで見せつけるように困った顔をしているんだけど。
一応、僕達はこれまでも、リリアナとは適度な距離感を保ちつつ、注意を払ってはいた。
何せ、彼女もウィルフレッドと同じ無属性。つまり、どんなスキルや武器でも使用できるだけのポテンシャルを秘めているんだ。
まさかガールズサイドが存在することで、チートキャラが二人も存在することになるなんて、噛ませ犬キャラの僕としては頭を抱えるしかないよ。
「ど、どうしたのかな?」
「あ……ハ、ハロルド殿下……っ」
瞳を潤ませ、縋るように見つめるリリアナ。
声をかけて失敗したと後悔するものの、今さらどうしようもない。
「そ、その、実は……」
仕方ないので、僕は授業中であるにもかかわらず彼女の話を聞く。
もちろん誤解されないように、僕と彼女の間にサンドラを挟んで。
だけど、聞いてみたものの、大した話じゃなかった。
どうやら彼女、夏休みに実家に帰るのが嫌なだけみたい。
というのも、母親の死後、アボット男爵に引き取られたのはいいものの、本妻であるアボット夫人と腹違いで一歳年下の妹がいる実家には、居場所がないとのこと。
おそらく、『ガルハザ』なら実家に帰りづらい主人公に、攻略対象のヒーロー達が『一緒に過ごそう』誘ってきたりするんだろうなあ。
「そ、そっか。君も大変だねえ……」
僕は攻略対象どころか、そもそも『ガルハザ』に登場させてもらえなかった悲しきハロルドなので、悪いけど聞かなかったことにしよう……って。
「ハ、ハロルド殿下、どうか私を救ってください! ……私達、お友達ですよね?」
あー……出たよ。乙女ゲーあるあるの、主人公による勝手にヒーローは全員お友達認定。
都合よく『お友達』なんて言葉を使ってほしくはないものの、さて、どうしたものか。
念のためサンドラをチラリ、と見ると……うん、サファイアの瞳が明確に拒否すると示しているよ。
「ええとー……夏休みは僕も、色々と……」
「決してハロルド殿下とアレクサンドラ様の邪魔をしたりなんかしません! いえ、そもそもこんなにも世界一お似合いのお二人を邪魔できるような人なんて、この世界にいるはずがありませんから!」
うわ、メッチャ必死だよ。
授業中だってことも忘れて、涙目で縋りついてくるし。おかげで僕達、先生から睨まれているんですけど。
すると。
「ふう……仕方ありませんね。リリアナさんは私とハル様の仲をよくご存知のようですし、他の方のように空気を読まないなんてことはなさらないでしょう。ハル様もそう思いませんか?」
「! ア、アレクサンドラ様!」
ああ、うん。サンドラはリリアナに持ち上げられて、気を良くしたんだね。
その証拠に、口元がゆるっゆるになってるし。
「じゃ、じゃあ、夏休みの間は僕達と一緒に過ごすことにしようか。あ、だけど、実家にはそのことはちゃんと伝えておいてね」
「あ、ありがとうございますううううううううう!」
リリアナが席を飛び降り、笑顔全開で平伏する。
というか、ロイドもそうだったけど、『ガルハザ』のキャラって軽々しく土下座しすぎじゃないだろうか。僕も人のこと言えないけど。
「わ、私だってハル君と一緒なんだからね!」
「あら……ユリシーズ様、いらっしゃったのですか?」
無駄に対抗意識を燃やすユリと、冷ややかな視線を送るサンドラ。
授業中なのにカオス状態となってしまい、僕は居たたまれなくて先生に土下座したよ。
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