あの男の考察をしました。
「モニカ。ギブソン伯爵家に、ウォーレンの不敬について正式に抗議してくれるかな」
「お任せください。ハロルド殿下に対してあのような無礼を働いたこと、必ず後悔させてみせます」
胸に手を当ててお辞儀をするモニカに、僕は不安で仕方がないよ。
抗議だって言ったのに、斜め上のことをしそう。例えば、屋敷に火を放つとか。
なお、僕達は今、夕食を終えて僕の部屋に集まっている。
といっても、リゼやクリスティア、それにカルラは自分の部屋に戻っており、ここにいるのは僕とサンドラ、モニカ、キャスだけだ。
本当は女子生徒を部屋に連れ込んではいけないんだけど、ま、まあその、大事な話だし、そんなことを交流スペースなんかで話して、誰かに聞かれたら大変だからね。
とはいえ、初めて彼女を部屋に連れてきたから、メッチャ緊張していますとも。モニカとキャスもいるけど。
「それで……ユリシーズ君は?」
「もうお休みになられているかと。屑二号のせいで、嫌な思いをされましたので」
「そっか……」
モニカはそう言うけど、嫌な思いをさせたのはこの僕だ。
こうなることが、分かった上で。
「ハル様。今は彼のことは置いておきましょう。それよりも、私達が見たあの男は、結局何者だったのか。それを考えるほうが先です」
「う、うん、そうだね」
サンドラはすぐそうやって僕の気持ちを汲み取って、気遣ってそんなことを言ってくれるんだ。
本当に、彼女が婚約者ってだけで、四人の兄弟の中で絶対に僕が一番の勝ち組だと思う。それだけは自信を持って言えるよ。
「だけど、ウォーレンはどちらもユリシーズ君だと認識していたのは間違いない。顔が全然違うのに、だ」
「そうですね……」
サンドラが視線を落とし、テーブルを見つめる。
彼女も、どうしてそんなことが起こり得るのか、分からないんだろう。
すると。
「……方法が、ないわけじゃないよ」
「キャス?」
「ボク達魔獣の中には、人を操る能力を持っている者だっているんだ。もし、ハル達が出会ったその怪しい男が、同じように人を操れる能力を持っていたら、その男のことをユリシーズだって思っちゃうことも、あり得るんじゃないかな」
「あ……」
そうか……僕は、あの男子生徒の見た目だけを捉えて考えすぎていた。
二人の外見が全くの別人だから、なおさら。
だけど、キャスの言うとおり、男子生徒がウォーレンやその取り巻き達に、自分をユリシーズであると認識させているとしたら……。
そして、『エンゲージ・ハザード』にはそれを可能にするスキルが存在する。
期間限定イベント『オデュッセウスの苦難その⑤』において登場するレイドボス、“幻惑の魔女キルケー”が使用する、闇属性スキルの【誘惑の魔眼】がそれだ。
成功率は五パーセントとそれほど高くはないが、主人公やヒロイン達がこの【誘惑の魔眼】にかかると幻惑状態となり、味方キャラを攻撃するというもの。
つまり、キルケーに操られていることを意味する。
だけど、【誘惑の魔眼】というスキルはキルケーだけの固有スキルであり、ヒロインはおろか無属性の主人公ですら習得することはできない。
でも、ここは『エンハザ』の世界ではあるものの、主人公を含めた登場キャラ以外については、どんなスキルを持っているのか分からないんだ。
なら、【誘惑の魔眼】のスキルを持つ人がいたとしても、おかしくはない。
結果として、ウォーレンや取り巻き達は【誘惑の魔眼】をかけられ、あの男子生徒をユリシーズであると騙された、ということだ。
「あの男子生徒が、何の意味でそんなことをしたのかは分かりませんが、いずれにせよやるべきことは一つですね」
「はい……あの男を見つけ次第捕らえる、ですね」
「ええ」
とはいえ、再び僕達の前に現れるかは怪しいけど、少なくともウォーレンにあんなことをしたということは、アイツと何かしらの因縁があるんだろう。
これからはウォーレンを監視し、また接触してきたところを一網打尽にするしかない。
「お待ちください。何もあの屑二号を狙っているとも限りません。あの男が、あえて私達にその姿を晒した可能性もあるのですから」
「あ……」
確かにサンドラの言うとおりだ。
わざと僕達に見せつけることで、あの男子生徒が怪しい人物であると認識させていたとも考えられる。
じゃあ、何のために?
僕達がユリシーズと別人であるあの男を認識したとして、一体何の目的が…………………………あ。
「ひょっとして……」
「何かお分かりになったのですか?」
「あ、ああいえ、僕の思い過ごしかもしれませんが……」
僕は閃いた内容を、みんなに伝える。
そう……僕達はあの男がユリシーズ=ストーンだと知り、その存在の確認を行った。
その結果、僕はユリシーズをこの王立学院に連れてくることとなったことを。
「……つまり、あの男の目的は、ユリシーズ君だったんじゃないかと」
「確かにハル様のおっしゃることも、考えられます。ですが、彼をここに連れ出したかった意味はなんでしょうか?」
「一番可能性として高いのは、ノルズ人に対してよく思っていない連中の仕業、でしょうか。要は、見せしめとして彼に危害を加えようという」
「なるほど……」
今日、学院内を案内した時も、ユリシーズがノルズ人だと知った途端、生徒達は忌避と侮蔑の視線を向けていた。
それだけ、デハウバルズの人間にとって、ノルズに対する差別意識は根深い。
「とにかく、ストーン辺境伯との約束もあります。僕達は彼に危害が及ばないよう、学院を卒業するまではしっかりと守るようにしましょう」
「「はい」」
僕達はそのことを確認し、頷き合った。
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