騎士団長の息子で検証してみました。
「Aクラス……」
僕達は、ウォーレンのいるAクラスの前に差し掛かった。
まだ今日の授業は終わったばかり。おそらく、ウォーレンはまだ教室内にいるだろう。
「……上級生がどんな授業を受けていたのか気になるし、ちょっと覗いてみようか」
もちろん嘘だ。
二年生の授業なんて全く興味がないし、そもそもこの世界においては、僕の前世よりもかなり遅れているということ。歴史はともかく、見たところで、得るものなんてほとんどないよ。
ただ、ウォーレンとユリシーズを会わせるためだけに、僕は教室を覗くんだ。
「さてさて、どんな感じかなーっと」
白々しくも、僕は教室の中を覗き込む。
すると…………………………いた。
「っ!? …………………………」
女子生徒達と談笑していたウォーレンだったが、僕に気づいてメッチャ顔をしかめたよ。
それにしても、アイツの周囲に女子生徒がいるのって、『ガルハザ』の攻略キャラよろしく長身イケメンだってところが大きいんだろうけど、それ以外に、あのパーティーで不良生徒達を叩きのめして活躍したからっていうのもあるんだろうな。
その証拠に、教室内にいる一、二人の女子生徒は、ウォーレンに対して呪い殺すかのような視線を向けているから。
つまりその女子生徒は、昨年のパーティーでアイツに弱みを握られた被害者なのだろう。
まあいいや。
いずれアイツも地獄に突き落とすことだけは間違いない。だからそれまで……あと少しだけ、我慢してほしい。
そのために、ユリシーズをこの学院に連れてきたんだから。
「やあ、女子生徒と楽しそうに話をしているな。僕も混ぜてくれないか?」
僕は笑顔を貼りつけ、ウォーレンに話しかけた。
当然、コイツは嫌な顔をするけど、知ったことじゃない。
それより、いつ気づくかなあ?
ここに、オマエがいじめていた、ユリシーズ=ストーンがいることに……って。
「っ!? ……デハウバルズ王国の第三王子でありながら、その者と付き合っておられるのですか?」
「僕の交友関係について、オマエに口を挟む資格はないだろう。というか、彼が誰なのか知っているのか?」
忌々しげにユリシーズを睨むウォーレンを、僕は逆に睨んでやり、低い声でそう告げた。
「ええ、もちろんですよ。この男はユリシーズ=ストーン。かつてデハウバルズの民を陥れた罪人……野蛮なノルズ人の末裔だ」
その一言で、教室内がざわつき始める。
この国の者なら、ノルズ人のことを知らない者はいないから、しょうがないか。
「ふうん……それで?」
「『それで』、ですと?」
「そうだよ。そんな三百年以上も前の話なんて知ったことじゃないし、何より、ストーン家は今は辺境伯という爵位を与えられ、この王国のために尽くしている。というか、いつまで根に持っているんだ?」
僕はユリシーズを庇うように前に立ち、ウォーレンを煽る。
とはいえ、僕は平静を装ってはいるものの、先程から心臓がうるさくて仕方ないよ。
だって……あの日の男子生徒とは顔も、髪も、瞳の色も全然違うのに、コイツは彼のことをユリシーズ=ストーンだとはっきり認識しているのだから。
「モニカ、悪いけどユリシーズ君を教室の外に連れて行ってくれ」
「かしこまりました」
モニカは恭しく一礼すると、どこか怯えた様子のユリシーズを連れて教室を出て行った。
彼には悪いことをしたけど、『大切なもの』と僕自身を守るためだ。そう割り切るって決めたんだ。
だから、後悔なんてしない。
「ふう……『無能の悪童王子』とは、よく言ったものだ」
「黙り……っ!?」
「サンドラ」
「……申し訳ありません」
僕は詰め寄ろうとするサンドラの前に右手を出して制止すると、彼女は唇を噛んでうつむいた。
このまま放っておいたら、きっとサンドラは、鮮血のような赤の瞳でウォーレンを蹂躙してしまうだろう。そうなったら、彼女に危害が及びかねない。
「騎士団長の子息でありながら、入学式の日のように弱い者いじめしかできない奴に言われたくないね。それと、そんな不敬を許しているのは、ひょっとしてウィルフレッド……ということでいいのかな? なら、僕は兄として、アイツに罰を与えないといけない」
「っ!? ……申し訳ありません。言葉が過ぎました」
「今さら遅いよ。それと……あの日だけでなく、今日もまた同じように僕の友人を侮辱したんだ。覚悟しておくんだね」
吐き捨てるようにそう言うと、僕は踵を返す。
それにしても、入学式の日のあの男子生徒とユリシーズが同一人物であると暗に言っているのに、ウォーレンの奴は否定しなかった。
だけど、僕とサンドラ、モニカは、あの男子生徒とユリシーズが別人であると、はっきりと認識している。
にもかかわらず、ウォーレンは同一人物だと思っているんだから、これはますます分からなくなってきたぞ。
とにかく。
「サンドラ、みんな、行きましょう」
「…………………………」
まずは状況を整理し、考えることにしよう。
僕だけだったら分からなくても、みんなの……『大切なもの』の力を借りれば、きっと答えを導き出せると思うから。
僕達は射殺すような視線を向けるウォーレンを無視し、教室を出た。
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