早速、王立学院を案内しました。
「ど、どうですか? 変じゃないですか?」
王立学院の制服に着替えたユリシーズが、何度も念を押して確認してくる。
変かどうかって言われれば、やっぱり既製品だけにちょっと身体のサイズに合っていないのと、やっぱり男子の制服を着てはしゃいでいる女子にしか見えないよ。
「い、いいんじゃないかな。ただ、やっぱりサイズが違うみたいだから、休日にでもユリシーズ君の制服を仕立てに行こう」
「は、はい」
うんうん。ウィルフレッドと違って素直に返事をしてくれるし、彼が僕の弟だったらと、心の底から思うよ。
まあ、この王立学院で知り合いが僕達しかいないから、しょうがない部分もあるんだけど。
それに……きっと彼、出自のせいで学院では友達を作ることが難しいだろうし。
「じゃあ、そろそろ授業も終わった頃だと思うから、学舎内を案内するね」
「は、はい!」
僕は体のいい言葉を告げると、ユリシーズは素直に頷いた。
本当は、ウォーレンにいじめられていた男子生徒が何者だったのかを、特定するためだけなのに。
……もちろん僕は、彼に酷いことをしていることくらい理解しているよ。
ただ自分の保身のために……この『エンハザ』の世界で生き残るために、本当ならサルソの街で穏やかに暮らすことができたはずのユリシーズを引っ張り出して、その人生を狂わせたんだ。
そう考えると、やっぱり僕は『無能の悪童王子』だね。
誰かを犠牲にする方法でしか、解決策を見いだせないんだから。
そうして僕は、人の好さそうな笑顔の仮面を貼りつけて、ユリシーズを連れて学舎を案内する。
途中、生徒の一部は彼を見て顔をしかめている者がいた。おそらく、彼がノルズ人だということに気づいたんだろう。
すると。
「ク、クッソオオオオオオオオオオオッッッ! 二か月ぶりに現れたと思ったら、なんでそんなに女子ばっかり侍らせてるんだよおおおおおお!?」
なんて情けない声を上げて絡んできたのは、同じクラスのロイドだった。
「いやいや。女子ばかりって、ちゃんと男子だって一緒に……」
「どこにいるっていうんだよ!? つーか、ちょっと王子だからって見せびらかしやがって!」
「ええー……」
どうやらロイドの目には、たとえ男性用の制服を着ていたとしても、ユリシーズは女子にしか見えないらしい。節穴か? 節穴だ……とも言い切れないか。
というか、確かに敬語とか気を遣わなくていいって言ったけど、実質僕とロイドの面識があった期間は今日を含めて十日程度だよ? 距離感バグってるし。
まあでも。
「仕方ないなあ……ほら、彼はユリシーズ=ストーン。僕達の同級生になるんだから、友達の君もよろしく頼むよ?」
そうやって馴れ馴れしく接してくれて、僕も嫌じゃないけどね。
「お、男お!? ほ、本当かよ……」
「本当だよ」
「そうか……俺はロイド=サンクロフト、よろしくな」
「は、はい。よろしくお願いしましゅ!?」
あ、ユリシーズが舌噛んだ。
僕を除けば、最初の同性の生徒だからね。違う意味で緊張しているのかも。
「それじゃ、僕達は引き続きユリシーズ君を案内してくるから」
「お、おお……それより、明日からは授業受けるんだろ?」
「もちろん!」
心配そうに尋ねるロイドに、僕は笑顔で答えた。
あはは、意外と彼も心配性……というか、面倒見がいいのかな? 多分、放っておけない性格をしているんだろうね。
ただ……ロイドのユリシーズに向けるいやらしい視線……だ、大丈夫だよね?
◇
「この上が、僕達の一学年上……つまり、二年生のクラスがある棟だよ」
一年生の棟の案内を終え、次に僕達が向かったのは二年生のクラスがある棟。
いよいよ、ウォーレンとユリシーズが顔合わせをする時がきた。
なお、リゼとカルラも合流し、リゼは僕に、カルラはクリスティアにジト目を送っております。
聖女はともかく、僕はそんな視線を向けられる謂れはないんだけど……。
「ハア……こんなことなら、私も授業をサボるんでしたわ」
「まったくです。勝手に教室を抜け出して、私が聖女様をどれだけお探ししたと思っているのですか」
うん、カルラは怒ってもいいと思う。
彼女の立場からすれば、護衛対象に勝手な行動をされたら堪ったものじゃないよね。
「ま。まあまあ、それじゃ行くよ」
僕達は二年生の棟に入り、廊下を練り歩く。
二年の生徒達は、何事かとこちらをまじまじと眺めているよ。
なお、例のウォーレンの取り巻き達は、先のパーティーの一件で昨年のパーティーでの悪事も判明されたことで、既に王立学院を退学処分。それどころか、実家も勘当され、今はただの罪人として裁判を待っている状態とのこと。
なので、僕達がアイツ等と出会うことはない。
そして。
「Aクラス……」
僕達は、ウォーレンのいるAクラスの前に差し掛かった。
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