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辺境伯の子息の王立学院への入学が決定しました。

「ストーン閣下、僕達デハウバルズの者が信用できないことは理解できます。ですが、ユリシーズ殿は僕と同い年。その若さでこんな狭いところに閉じ込めるのは、果たして彼のためになるのでしょうか?」


 僕は肩を(すく)め、ストーン辺境伯とユリシーズを交互に見やった。

 まあ、要は彼を王立学院に入学させようというわけだ。


「わはは、面白いことをおっしゃる。確かに我々ノルズの民は、かつてはこの島の全てを手中に収め、栄華を極めておりましたが、今はこれ以上のものを求めてはおりませんよ」

「それはストーン閣下の考えでしょう。ユリシーズ君、君はどうなのかな? この壁と海に囲まれた土地から飛び出して、もっと見聞を広めてみたいとは思わないのかい?」

「え……?」


 いきなり応接室に呼ばれ、まじまじと検分されて、挙げ句こんな話をされるとは思わなかったのだろう。どうしていいか分からず、目が泳いでいるよ。

 だけど……彼の琥珀(こはく)色の瞳には、間違いなく期待の色が(うかが)えた。


「もちろん、ストーン閣下のご懸念はもっともです。なので、彼が王立学院において危害が及ばないように、このハロルド=ウェル=デハウバルズの名にかけて、必ずお守りします」


 なんて言ってはみたものの、ストーン辺境伯からすれば、僕だって王族。信用なんてこれっぽっちもしていないだろうね。


「ストーン閣下。ハロルド殿下だけでなく、このアレクサンドラ=オブ=シュヴァリエの名にかけて、シュヴァリエ公爵家の全てをもってお守りすることをお約束いたします」


 胸に手を当て、サンドラが告げた。

 僕を、後押しするために。


「ふむう……ハロルド殿下のお言葉だけならともかく、シュヴァリエ公爵家からもそのようにお約束をいただけるのであれば……」


 お、ストーン辺境伯がちょっとだけ乗り気になったみたいだぞ?

 父親なら、大事な息子をここに閉じ込めたくないって考えるだろうし、ストーン家としても、後継者には見聞を広めてもらいたいだろうしね。


「ち、父上! 私も行ってみたいです! も、もちろん、このサルソに不満はありませんし、ノルズの民としての誇りもあります! で、でも……私は……」


 勢いよく身を乗り出すユリシーズだけど、最後のほうはかなり尻すぼみになり、消え入る声になっていた。

 おそらく彼は、引っ込み思案の性格なんだろうなあ。ちょっと親近感。


「……この街から一歩でも外を出れば、どうなるか分からん。それこそ、命の保証すらない」

「…………………………」


 ストーン辺境伯に鋭い視線を向けられ、ユリシーズは押し黙った。

 僕的には王立学院に連れて行きたいのはやまやまだけど、ここでしゃしゃり出て余計な助け船を出したら、それこそストーン辺境伯は認めてくれないような気がする。


 だってこれは、ユリシーズ自身が覚悟(・・)を見せなければいけないのだろうから。

 そうじゃなきゃ、ストーン辺境伯だって不安で仕方ないよね。


「それでもお前は、王都へ行くのか?」

「……行きたい。私は……私は、行きたい!」


 ユリシーズがそう告げた瞬間、ストーン辺境伯が目を見開いた。

 この反応を見る限り、これまでユリシーズは、父親に意見をしたことがないんだろうなあ。どこか気弱そうだし。


「そうか……なら、私は何も言わん。好きにするがいい」

「父上! あ、ありがとうございます……っ」


 よし! これでユリシーズは、王立学院に入学することになったぞ!


「ハロルド殿下、アレクサンドラ嬢……どうか息子を、よろしくお願いします」

「い、いえ。こちらこそ、大切なご令息をお預かりします」


 深々と頭を下げるストーン辺境伯に、僕達も同じように頭を下げた。

 だけどさあ……これ、確かに僕達が背中を後押しした形になっているけど、意外とあっさり許可してくれたから、ユリシーズがお願いしていたら、最初から王立学院に入学できたのでは?


 僕は空気が読めるので、口に出したりはしないけど。


「わはは! 今夜はユリシーズの成長と門出を盛大に祝うぞ!」

「はっ」


 瞳に涙を溜め、ストーン辺境伯が侍従に指示を出す。

 ひょっとしたら、ユリシーズが一歩目を踏み出すのを、父親として待っていたのかもしれないな。


「ハロルド殿下も、どうか今夜の壮行会にご同席くだされ!」

「あ、あははー……喜んで」


 手を強く握りしめるストーン辺境伯に、僕は若干引き気味に頷いた。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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