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本物かどうか品定めしました。

「包み隠さず、単刀直入に申し上げます。僕は入学式の日に、ユリシーズ=ストーン本人と会っているんですよ」


 身を乗り出して尋ねるストーン辺境伯に、僕ははっきりと告げた。

 ここへ来た、本当の理由を。


「わはは、ご冗談を。ここから王都カディットまで、どれだけ距離がおありだと思っているのですか」

「ここまで馬車で来ましたので、それは身をもって分かっています。ですが……これは事実です」


 僕は、入学式の日とその次の日のことについて、つぶさに説明した。

 もちろん、ウォーレンやその取り巻き達も、いじめた彼がユリシーズ=ストーンであると認識していることを申し添えて。


「ふむう……信じられん話ではありますが、ギブソンのところの小倅(こせがれ)がそう言っておるのなら、あながち嘘ではないのでしょう。余計に訳が分からなくなりましたが」


 ストーン辺境伯は顎をさすり、納得できないといった表情で息を吐いた。


「そのー……ストーン閣下は、ウォーレンのことをご存知なのですね」

「もちろんですよ。ギブソン伯爵領がうちと隣同士というのもありますが、あの小僧、こちらが何も言わないことを調子に乗って、事あるごとにけしかけてきますからな」


 そう言うと、ストーン辺境伯が顔をしかめる。

 アイツのことについては、かなり腹に()えかねているみたいだ。


 だけど、過去のことがあったとはいえ、今はストーン辺境伯もデハウバルズ王国の貴族。しかも、ギブソン伯爵家は王都における最前線の防波堤とならなければならない立場だ。

 それなのに、挑発行為なんかして本当に戦にでもなったりしたら、どうするつもりなんだろう。馬鹿かな? 馬鹿なんだろうな。


「まあ、私にも守るべき領民が……ノルズの民がおりますからな。軽々しく報復したりなどはしませんが」

「……デハウバルズの王族として、謝罪します」


 ウォーレンにそんな真似を許しているギブソン騎士団長にも、そのことについて(とが)めようとしないエイバル王にも、僕は何とも言えない気持ちになってしまう。

 王都に帰ったら、このことを宰相とオルソン大臣にちゃんと報告するとしよう。


「いやいや、私はハロルド殿下に謝罪してほしいわけではありません。ですが、王族の中にも我々の気持ちを()み取ってくださる御方がいらっしゃることが分かっただけでも、本当にありがたいですよ」


 先程まであった張りつめた緊張がなくなり、ストーン辺境伯は笑顔を見せる。

 ようやくこれで、話も前に進みそうだ。


「それよりも、殿下のご用件はうちのユリシーズに会うことでしたな。すぐに呼ぶとしましょう。これ」

「はっ」


 (そば)にいた初老の侍従はストーン辺境伯に耳打ちされ、音もなくこの応接室を出て行った。

 あの侍従、相当の手練れみたい。その証拠に、モニカがずっと意識を向けていたし。


 そして、待つこと数分。


「父上、お呼びとのことですが……」


 部屋に現れたのは、どこか気弱そうな一人の少年。

 白色の髪に、琥珀(こはく)色の瞳。

 女性と見紛(みまご)うばかりの端正な顔立ちをしており、やせ型で、背も見たところ一六〇センチにも満たないようだ。


 何より。


「ハロルド殿下、いかがですかな?」

「……いえ、僕が出会った()とは違います」


 僕は、ゆっくりとかぶりを振る。

 王立学院でウォーレンにいじめられていた彼は、髪の色は黒だったし、瞳の色も同じく黒。まるで正反対だ。


 じゃあ、彼……あの男は、一体何者なんだ?

 しかも、取り調べによって取り巻き達にも確認したけど、ウォーレンは確かにあの男をユリシーズ=ストーンだと認識していたことは間違いない。


 いずれにせよ、考えられるのは、ストーン辺境伯が嘘を吐いているか、もしくは、あの男がスキルか何かによってユリシーズ=ストーンであると偽っていたか。


 だけど……『エンゲージ・ハザード』において、認識阻害のスキルはあっても、別人になりすますスキルは存在しない。


 すると。


「お話のところ、申し訳ありません。ユリシーズ様はこのようにご健勝とのことですが、どうして王立学院に入学されないのでしょうか? デハウバルズ王国において、特別な事情がない限り入学は義務のはずですが」


 今まで静かに僕達のやり取りを見守っていたサンドラが、ストーン辺境伯に尋ねた。


「それは、私が先程ハロルド殿下にお尋ねしたことが全てです。私の後継者を……いえ、ノルズの次の王を、デハウバルズ王家に狙われるわけにはいきませんからな」


 ああ、なるほど。

 王立学院に入学すれば、ストーン辺境伯の庇護を受けられなくなり、ユリシーズを守ることができなくなってしまう。

 だから、病と称して入学を拒否していたというわけか。


 でも……サンドラのおかげで、良い案が思い浮かんだよ。


「ストーン閣下、僕達デハウバルズの者が信用できないことは理解できます。ですが、ユリシーズ殿は僕と同い年。その若さでこんな狭いところに閉じ込めるのは、果たして彼のためになるのでしょうか?」


 僕は肩を(すく)め、ストーン辺境伯とユリシーズを交互に見やった。

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