北の辺境に向かいました。
「ううー……寒いよお……」
王立学院に二か月の休学届を提出し、僕はサンドラ、モニカ、そして相棒のキャスとともに、ストーン辺境伯の領地へと向かった。
というか、まだ入学して十日程度で休学届なんて出したものだから、王立学院にはメッチャ白い目で見られたよ。
同じく、リゼやクリスティア、それにカルラからも。
特にリゼときたら、『一緒に行く』と言って聞かなかったからなあ……。まあ、お土産を買って帰るので許してもらおう。
で、僕達が王都を発ってから既に三週間が経過し、今は五月になったというのに、この辺りはまだ雪がちらほらと積もっている。寒いはずだよ。
「キャスは猫の魔獣だから、寒さに弱いのは仕方ないね。ほら、おいで」
「うん」
僕は上着を広げて呼んでやると、キャスは胸元……ではなく、服の中に入ってきたよ。
「はふう……ぬくぬく」
「そ、それは何よりだよ」
キャスの温もりで僕も身体はぬくぬくではあるけれど、サンドラの恨めしそうな視線で心が凍えそうです。というか、子猫に嫉妬はよくないと思います。
「それで、ストーン辺境伯の領地にはまだ到着しないの?」
「いえ、もう領内に入っております」
おっと、ここはもうストーン家の領内だったか。
そうすると、警戒を怠るわけにはいかないね……って。
「ええー……」
まるで見計らったかのように、僕達を乗せた馬車目がけて、騎馬の集団がやって来たよ。
言うまでもないけど、盗賊だよね。
「ふふ……ずっと馬車の中でしたので、少々身体が鈍っておりました」
「そうですね。今日はかなり冷えますので、動いて温まりましょう」
「ええー……外に出たくないよお……」
待ってましたとばかりに『バルムンク』を手にするサンドラと、ダガーナイフを取り出して口の端を吊り上げるモニカ。だけど、今朝もキッチリと一緒に特訓しましたよね?
ハア……もぞもぞと服の中に潜るキャスだけが、僕の癒しだよ……。
まあ、だけど。
「せっかくだから盗賊を退治して、ストーン辺境伯への手土産にしようか」
「さすがはハル様です」
嬉しそうに褒めてくれるサンドラの手を取り、馬車を降りると。
「へっへっへ……死にたくなけりゃ、身ぐるみ置いていきな」
「おっと、そっちの薄っぺらいガキはともかく、そこのメイドは上玉じゃねえか。俺達が可愛がってやるよ」
とまあ、お決まりの下品な文句を吐く盗賊達。やられ役としては、これ以上ないくらいの登場の仕方だよ。悲しいね。
そんな、憐みの視線を向けていると……って。
「ふふ! 面白いことをおっしゃいますね! 誰が胸もなくて『薄っぺらいガキ』なのでしょうか!」
いやいや、盗賊達は胸のことは言ってなかったと思いますよ?
だけどサンドラも、意外と気にしていたのかなあ。僕としては、慎ましいお胸様も嫌いじゃないどころか、むしろ大好きですけど何か?
とはいえ。
「フン……口ほどにもありませんね」
「まったくです。これでは準備運動にもなりません」
憐れ盗賊達は二人に瞬く間に蹂躙され、息絶え絶えになっていた。
「ハロルド殿下、いかがいたしましょうか。さすがにこの人数を引き連れていくのは邪魔ですので、この者達の頭目だけを連れ、残りの者はここの土に帰すということで……」
「「「「「っ!?」」」」」
モニカの一言で、盗賊達の顔が真っ青になる。
「まま、待ってください! 皆様を襲ったことは謝ります! だから、どうかお慈悲を……!」
地面に転がっていた盗賊達は一斉に土下座し、必死に命乞いを始めた、それも、先程までの下品な言葉遣いは鳴りを潜めて。
一方で、頭目と思われる者だけは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
……ひょっとして、何かあるんじゃないか?
「ハル様、いかがなさいますか?」
「そうだね……僕としては、二度とこんなことをしないのなら、助けてあげるのもやぶさかではないよ」
「「「「「! ほ、本当ですか!」」」」」
僕の言葉に、盗賊達は色めき立つ。
この連中を始末するのだって、モニカの手を汚させてしまうことになるのだから。
「ハア……ハロルド殿下は相変わらず甘いですね。……嫌いではありませんが」
「あはは、どうだろ」
溜息を吐くモニカに、僕は苦笑する。
確かに甘いかもしれないけど、だからといって罰を与えないとは言ってないからね。
ということで。
「キャス」
「ニャハハハハハハハハハ! 久しぶりに災禍獣キャスパリーグ様のお出ましニャのだ!」
僕のSPをしこたま吸収して巨大化したキャスが、その爪で地面を抉る。
何のためにかって? もちろん、盗賊達を生き埋めにするためだよ。といっても、息ができるように首から上は勘弁してあげるけどね。
「うんうん、いい眺めだね」
「「「「「…………………………」」」」」
キッチリ等間隔に首から上だけを地面から生やした盗賊達の姿に、僕は満足げに頷く。
誰の仕業か分からないけど、これに懲りたらこんな真似はしないことだね。
「さて、それじゃ行こうか」
「はい」
僕達は馬車に乗り込み、縄で縛った頭目を荷台に放り込んで、再びストーン辺境伯のもとを目指した。
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