いじめられっ子の正体が判明しました。
「……本当に、目障りですね」
ウィルフレッドによるパーティーに参加した男子生徒の制圧から、ちょうど一週間後の休み時間。
女子生徒達に囲まれているウィルフレッドを見て、サンドラが吐き捨てるようにそう言った。
結局、あの一件については、ウィルフレッドが上級生男子生徒の暴走を止めて、女子生徒達を救ったとして、そのことが大々的に学院内に広まった。
もちろん、広めたのはウォーレンとマリオン、それに学院だ。
ウィルフレッドがエイバル王の寵愛を受けているから、学院側が勝手に忖度してそういうことをしても、別に不思議じゃない。それどころか、王宮からの指示だった可能性もある。
まあ、知ったことじゃないけど。
危惧しているのは、『エンハザ』のヒロイン達のウィルフレッドに対する好感度がさらに上がり、『恋愛状態』になって僕と争うことになる可能性が上がったってことだ。
……それ以上に、あの屑の毒牙にかかって、ヒロイン達がつらい思いをしなければいいんだけどね。
ちなみに、捕らえられた男子生徒達は、ラファエルによる指示のもと、今も事情聴取が行われている。
男子生徒達の親からは、釈放するように求められているらしいけど、全部突っぱねているみたいだ。
ラファエルとしても、何としてもウィルフレッドとウォーレンの関与を証明したいらしい。
「そういえば、彼……ウォーレンにいじめられていた、あの新入生は捕まった生徒達の中にはいなかったんだよねー……」
窓の外を眺め、僕はポツリ、と呟く。
僕達はあの日、確かに彼が建物の中に入っていく姿を目撃したはずなのに、どういうわけかあの場にいなかった。
上手く逃げたとも考えられるけど、こればかりは僕達にも分からないよ。
「できれば、彼からあの日のことを聞いてみたいんだけど……」
「残念ながら、あの者は病気療養中です」
モニカが表情も変えず、淡々と告げる。
その彼の名前は、“ユリシーズ=ストーン”。
デハウバルズ王国の最北端に位置するストーン辺境伯家の子息で、モニカの言葉どおり現在は領地で療養しており、まだ王立学院には入学していない。
じゃあ、あの日の彼は誰だったのかって話なんだけど、少なくともウォーレンは面識があるし、アイツの取り巻きにも事情聴取の際に聞き取ってもらって確認したが、ユリシーズ子息で間違いないみたいだし……訳が分からないよ。
ただ。
「どうして彼があれほどいじめられていたか、それは分かったけどね」
そう……彼の実家であるストーン家は、デハウバルズ王国の建国以前、かつてこのブリント島を支配していた“ノルズ人”の末裔だ。
海を渡ってブリント島に流れ着いたノルズ人は、先住民だった僕達の祖先を追いやり、瞬く間に“ノルズ帝国”という一大国家を作り上げた。
ただし、その歴史は長くは続かず、デハウバルズ王国初代国王“バトラーズ=ウェル=デハウバルズ”の手によってノルズ人は北の極寒の地に追いやられ、建国以来三百年もの間、迫害を受け続けている。
まあ、割と酷い話だ……って言いたいところだけど、ノルズ人が支配していた時は、逆にデハウバルズの人々が迫害を受けていたわけだし、一概には何とも言えないんだけどね。
「だけど、どうしてウォーレンはその彼……ユリシーズ子息のことを知っていたんだろうね」
「ギブソン伯爵家はデハウバルズ王国の騎士団長を務める一方で、この王都とストーン辺境伯家を線で結んだ位置に、領地を有しています。これは、ストーン家に対する備えとしてでしょう」
「ああ、なるほど」
サンドラの説明に、僕は頷く。
要は、アイツの実家は万が一ストーン家が反乱を起こした際の、防波堤としての役目を担っているというわけか。
マリオンの実家であるシアラー家を押し退け、王国の騎士団長を務めているのにも、そのあたりに事情があるのかもしれないな。
「いずれにしても、一度そのユリシーズ子息に会って話がしてみたいね。あの日の彼と同一人物なのか、確かめる意味でも」
「かしこまりました。それでは、ストーン家にハロルド殿下が訪問を希望されていることを伝えます」
「え? できるの?」
「もちろんです。かつての亡国の末裔とはいえ、形式上はデハウバルズ王国に仕える貴族なのですから」
いや、過去の経緯なんかもあるし、今だって迫害を受けている向こうからすれば、王族である僕の顔なんて見たくもないと思うんだけど……。
ま、まあいいか。モニカにお任せしよう。
「それじゃ、お願いできるかな?」
「お任せください。すぐに書状を送ります」
ということで、ストーン辺境伯家に訪問を打診してから一週間。
先方から、僕の来訪を歓迎する旨の返事が来た。
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