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パーティー会場を完全包囲しました。

「ラファエル兄上、義兄上、お待たせしました」


 今日のパーティー会場の制圧のために用意された兵の指揮官と打ち合わせを行っている二人に、僕は声をかけた。

 なお、兵達は既に会場である学院敷地内の離れの建物を取り囲んでおり、あとは号令を待つばかりだ。


「やあ、遅かったな。ひょっとして、後ろの聖女様達が原因かな?」

「あ、あははー……」


 クリスティア達と僕を交互に見やり、ラファエルは含みのある笑みを浮かべる。

 事実だけに、僕としては苦笑するばかりだ。


「まあ、心配はいらないよ。彼女達が加わっても、危害が及ばないようにこちらとしても万全を期しているし、いざとなれば僕とセドリックもいる。なあ?」

「え、ええ……」


 ラファエルに話を振られ、セドリックが微妙な顔をしている。

 何せ、一年以上前に僕と手合わせをして、負けているからね……。『称号』を手に入れ、サンドラの攻撃をほぼ防げるようになった今の僕とは、さらに差がついたはず。なんだかゴメン。


「それで、ウィルフレッド達に動きは?」

「まだ開始時刻まで一時間あるからね。令嬢達にとっては、最初に来たら負け(・・)ってところがあるから、少なくとも時間ぎりぎりまで来ないと思うよ」

「そうなんですか?」


 僕は思わず聞き返すと、ラファエルは苦笑して頷いた。

 どうやらそういうことらしい。


「フフ……ハルは、もう少し社交界のことを学んだほうがいいですわ」

「はい……」


 リゼに忠告され、僕はうなだれていると。


「あれは……?」


 セドリックが何かを見つけたようで、僕達もそちらに視線を移す。

 なんだ、マリオンが建物にやって来ただけだった。


「……おかしいですね」

「サンドラ?」

「見てください。あの(くず)の侍女である彼女が、なぜか辺りを見回してから建物の中に入っていきました。これは、何かある(・・・・)とみたほうがいいでしょう」


 確かに、主人の建物に入るのに、周囲を警戒するのはおかしい。

 サンドラの言うとおり、知られてはまずいものがあるんだろう。


「なら、その何か(・・)とやらを確認するとしよう」

「義兄上……?」


 僅かに糸目を見開き、セドリックが口の端を持ち上げてこの場を離れようとした。

 え、ええと、どこへ行くつもりなんだろう……。


「ハロルド殿下、忘れましたか? 私は、今日のパーティーに参加する子息達に誘われていることを」

「あ……」


 ひょ、ひょっとして、パーティーに潜入する気なの!?


「さ、さすがにそれは危険です! ここは、慎重に……っ!?」

「ハロルド、心配いらない。何かあればすぐに動けるようにしているし、セドリックだって以前の(・・・)彼じゃない(・・・・・)

「え……?」

「つまり、成長したのはお前だけじゃないってことだ」


 ……どうやら、僕はセドリックと言う男を見誤っていたみたいだ。

 僕が強くなるために努力していたのなら、セドリックだって同じように努力していることだってあるのに。


「それに、彼も最愛の妹と、その婿()にはいい格好を見せたいだろうしね」


 そう言って、ラファエルはおどけた。

 だけど今、はっきりと『婿』って言ったよね?


 それってつまり、ラファエルは僕の思惑……シュヴァリエ家の婿養子になるつもりなのを知っているってこと、なんだけど……。


「さあ……いよいよ人が集まり出した。もうすぐ、パーティーの始まりだ」


 ……ラファエルがそのことを知っている件については、後回しだ。

 今は『大切なもの』を守り抜き、ヒロイン達を救うためにも、作戦に集中しないと。


 現れたウォーレンの取り巻きに、セドリックが気さくに話しかける。

 取り巻きの子息達も、下卑(げひ)た笑みを浮かべているよ。


 そして、セドリック達も建物の中に入っていった。


「そういえば、ウォーレン子息の姿がないですね」

「多分、大物ぶって遅れてくるつもりなんじゃないか? あの男は、普段から騎士団長の息子であることをいいことに、態度が悪いからね。僕もよく、生徒達から苦情を聞くよ」

「なるほど」


 やっぱり普段から、ろくでもない奴だったんだな。

 あれで『ガルハザ』の攻略キャラなんだから、運営はもうちょっとキャラ設定を真面目に考えたほうがいい……って。


「あ、あれ!?」


 こんな場所に現れた、意外な人物。

 それは、昨日ウォーレンに絡まれていた、気弱そうな男子生徒だった。


「どうして彼が、この場所に……」


 僕は思わず、ポツリ、と呟く。

 少なくともウォーレンとの関係は最悪っぽかったし、あの下衆なパーティーに参加するようにも思えない。


 なら、考えられるのはウォーレンの奴にいいように使われて(・・・・)いる(・・)ってことかな。


「……助けるだけ、無駄でしたね」

「まあまあ。まだ連中の一味なのかどうか、分かりませんから」


 吐き捨てるように呟くサンドラ。

 僕は彼女をなだめ、もう一度建物を見やった。


 実を言うと、助けた時から何となく、彼のことが気になるんだよなあ……。


 そうこうしているうちに、着飾ったヒロイン達も次々とやって来て、建物の中へと入っていく。

 だけど、結局最後までウォーレンは姿を見せなかった。


 ひょっとして、僕達の動きに感づいている……?

 いや、まさかね。初対面のアイツの印象として、そこまで気が回るような男じゃない。何より、乙女ゲームの騎士団長の息子キャラは、脳筋というのが相場なのだ。


「さあ、パーティーが幕を開けた。僕達も同じように、幕を開けるとしようか」


 ラファエルのその言葉で、兵士達……そして僕達は、身構える。

 この際、ウォーレンについては別の機会に断罪してやろう。


 そして。


「全員、突入!」


 ラファエルの号令とともに、ウィルフレッド達がいる建物の中へ、一斉に突入した。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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