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僕は絶対にあの連中を許せませんでした。

「……まあ、方法がないわけではないですが」


 セドリックは糸目を僅かに見開き、口の端を持ち上げた。

 そういえば、以前に手合わせをした時に『シュヴァリエ家の中でも武よりも内政において才能を見出している』とか言い訳していたなあ。


 だから、意外とこういった悪だくみ……いやいや、策を練るのは得意なのかもしれない。


「お兄様、ではどうするのですか?」

「今の話だと、ウィルフレッド殿下のほかにウォーレン子息が(から)んでいるようだから、まずはウォーレン子息から崩していけばいいんだよ。そうだね……」


 セドリックは、僕達に説明してくれた。

 だけど……そんなに上手くいくかなあ?


「一応、このことはラファエル殿下にもお伝えし、いざという時に出張ってもらえるようにしておけば完璧だよ」

「は、はあ……」


 まあ、僕達にはそれ以上の策は思い浮かばないので、それに乗るしかないか。


「分かりました。義兄上、どうぞよろしくお願いします」

「任せてください」


 セドリックは胸を叩き、ニコリ、と微笑んだ。


 ◇


「上手くいくでしょうか……」


 セドリックが寄宿舎の交流スペースから去ってから、およそ二時間。

 僕とサンドラ、モニカは、引き続きこの場所でセドリックの報告を待っていた。


「分かりません。ですが、ウィルフレッドが交流パーティーを今夜開催する可能性も否定できません。なら、もう義兄上の策に賭けるしかない」

「はい……」


 僕の言葉に、サンドラは少し不安そうな表情で頷く。


 すると。


「やあ、待たせたね」


 セドリックは、ラファエルも一緒に連れて戻ってきた。

 まあ、二人は同い年だし、しかも第二王子と公爵子息という身分的にも一番近い関係だから、必然的に知り合いになるのも当然か。


「それにしてもハロルド、入学早々面白そうなことをするじゃないか」

「勘弁してください。僕だって、まさかこんなことになるとは、思ってもみませんでしたよ……」


 愉快そうに笑うラファエルに、僕は肩を(すく)める。

 だけど、ここに来たということは、僕達に協力してくれるという理解で問題ないみたいだ。


「お兄様、それで……」

「うん。ハロルド殿下が危惧されていたとおり、貴族の風上にもおけない奴だったよ」


 セドリックは顔をしかめ、説明を始める。

 まず、ウォーレンの取り巻きだった貴族子息に接触したセドリックは、パーティーの件について話を持ちかけて反応を(うかが)うと、やはり僕達が思っていたとおり、ろくでもないことを考えていた。


 それは……新入生の女子生徒達を、パーティーの場で食い物に(・・・・)する(・・)というもの。

 要は、前世でいうところの合コン……いや、もっと酷いこと(・・・・)をしようと考えているらしい。


 何より、まだ十五歳になったばかりの女子生徒達に、お酒を飲ませて酔わせようっていうんだから、本当に下衆(げす)だよね。


「……ちなみに、あの連中は去年も同じように、一部の女子生徒達を手籠めにしているらしい」

「本当に、よくもまあそんな真似ができるものだよ。……そのことに気づけなかった、僕達も同罪だけどね」


 セドリックだけでなく、普段は飄々(ひょうひょう)としてにこやかな表情を絶やさないラファエルまで、険しい表情を見せる。

 それだけ、今回の件はシャレにならないということだ。


「……念のためお伺いしますが、その……被害に遭った女子生徒は……?」

「分からない。私達もウォーレンの取り巻き達から聞き取っただけだし、かといって被害女性に接触するのも、それはそれで嫌なことを思い出させることになってしまう」


 そう言うと、セドリックはかぶりを振った。

 確かに、令嬢達からすればそんなことが(おおやけ)になってしまったら、最悪この国で居場所を失ってしまうおそれだってある。それどころか……いや、考えるのはよそう。


 とにかく。


「なら、絶対にこんなことは阻止しないと。もう、ウィルフレッドがどうこういう話じゃない」

「僕も同意見だ。それで、この後についてはセドリックと相談した結果、兵を動員して会場となるウィルフレッドの離れの建物に一気に乗り込むことにした」

「そ、それは……」

「心配しなくていいよ。女子生徒達は騙されただけだし、悪いことにはならない。その代わり……男子生徒のほうは、ただでは済まさないけどね」


 ラファエルは口の端を吊り上げ、不気味に微笑む。

 そういえば……『エンハザ』でもマーガレット絡みのシナリオで、こんな顔をしたことがあったな……。


「それと、パーティーは明日の夕方六時からだそうだ。それまでに、こちらも準備しておこう」

「はい」


 ラファエルとセドリックは、手をヒラヒラさせて男子棟へと入っていった。


 僕は。


 ――ダアンッッッ!


「絶対に……絶対に許すもんか!」


 僕は怒りに任せ、テーブルを思いきり叩いた。

 悲しいかな、僕は『エンハザ』キャラ最低の物理攻撃力なので、むしろ僕の手のほうが痛いけど。


 でも……被害に遭った女子生徒は、もっと痛かったはずなんだ。


 だから。


「サンドラ! モニカ!」

「はい。必ず……全員に、本当の苦しみを味わわせて差し上げます」

「お任せください。このモニカ、一切の躊躇(ちゅうちょ)なく刈り取ってみせましょう」


 サファイアの瞳に僅かに鮮血の赤を滲ませて瞳孔を縦に細めたサンドラと、ヘーゼルの瞳からハイライトが消えたまま優雅にカーテシーをするモニカ。


 僕達は明日、必ず連中を地獄に叩き落としてやる。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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