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専属侍女の覚悟を台無しにしました。

「…………………………」


 どうしてこのタイミングで、ウィルフレッドの奴が食堂にやって来るかなあ。

 しかも、さっき寄宿舎で()めた騎士団長の息子、ウォーレンを引き連れて。


 というかあの二人、どういう関係?


「ふふ……あの(くず)、ハル様の顔を見た途端に、負け犬(・・・)らしく隅のほうへと逃げていきましたね」


 僕をひと睨みするなり、無言のまま食堂の奥の席に座ったウィルフレッドを見て、サンドラがクスクスと(わら)う。

 そんな彼女の反応に、リゼは首を傾げ、トラウマを抱えているクリスティアが青ざめた。


「ひょっとして二人は、あのウィルフレッド殿下と仲が悪いのかしら?」

「仲が悪いどころか、僕達の()だよ」


 不思議そうに尋ねるリゼに、僕は眉根を寄せて答える。

 アイツはこれまでの不遇な弟としての仮面も外したし、互いに表立って敵対視しているしね。


「ふうん……」

「……まさかとは思いますが、リゼはあの(くず)に興味があるわけではありませんよね?」

「それこそまさか(・・・)だわ。ハルとサンドラの敵は、私の敵だもの」


 悪女のように澄ました表情で、リゼはドリルヘアーを手で払った。

 さすがは『エンハザ』きっての悪女ヒロイン、なかなか様になってるなあ。


「さあ、アイツの話はこれでおしまいにして、昼食を楽しむことにしましょう。せっかく、僕達の初めての食事会(・・・)なんですから」

「はい!」

「ま、まあ、私達は親友ですものね」

「うふふ、楽しいですね」

「ええ」


 ということで、僕達は気を取り直して昼食を楽しんだ。


 ただし。


「…………………………」


 モニカがただ一人、食事を行っている間、ずっとウィルフレッドを監視していた。


 ◇


「ハロルド殿下、お伝えしたいことがございます」


 みんなとの昼食を終え、とりあえず部屋に戻ってくるなり、モニカがいつになく真剣な表情でそんなことを言ってきた。

 ……まあ、そんな気はしていたけど。


「ひょっとして……いや、ひょっとしなくても、ウィルフレッドのことだよね?」

「はい。口の動きから、あの男達の先程の食堂での会話を確認しておりましたが、どうやらあの(くず)……いえ、屑以下(・・・)ですね。例のパーティーで、参加した女子生徒達に対して何かをする(・・・・・)みたいです」

「『何かをする』とは……?」

「分かりません。ですが、あの時の二人の下種(げす)な顔は、絶対によからぬことで間違いないかと」


 ハア……本当に、何をやらかすつもりなんだよ。


「分かった。そうすると、このまま捨て置くわけにもいかないよね」

「いえ、ハロルド殿下は何もなさらないほうがよろしいかと」

「? どういうこと?」

「あの男が何かを企んでいることは間違いありませんが、殿下が介入なさればより危険な目に遭う可能性があります。ですから……」


 モニカは急に身体を寄せ、耳元でささやいた……っ!?


「モニカ!」

「ハロルド殿下、それが最善の策です。どうかお聞き届けいただきますよう」


 モニカは胸に手を当て、深々とお辞儀をする。

 僕を見つめるヘーゼルの瞳に、覚悟を(たた)えて。


「……君は分かってるの? 僕にとって、どれだけ君が大切な存在なのか」

「もちろんです。私は過分にも、殿下からこれほどまでの親愛をいただいております。ですが、殿下こそご存知ありません。この私にとって、どれほどあなた様が大切な存在であるかを」

「う……」


 モニカの有無を言わさぬ声に、僕は思わずたじろいでしまう。

 だけど、僕はここで折れるわけにはいかない。


 何としてでも、モニカがウィルフレッドのパーティーに潜入することを止めないと。


「モニカ、これは命令(・・)だ。絶対に、そんなことはやめるんだ」

「……かしこまりました」


 唇を噛み、モニカはうつむく。

 僕は彼女の申し出を……覚悟を、僕の我儘(わがまま)で潰してしまった。


 罪悪感がないわけじゃないけど、それでも、同じ後悔をするならモニカが無事であるほうを選ぶに決まっている。

 ただ、見捨てることになったヒロインには、永遠に顔向けできないかもしれないな。


 だって、僕はメインヒロインよりもモブを選んだんだから。

 これじゃ、『エンハザ』ファン失格だね……って。


「本当に……本当に、あなた様は……っ」

「うん……だけど、ウィルフレッドのパーティーが始まるまで、まだ時間がある。他に方法がないか、もっと考えてみようよ」

「はい……」


 珍しく(・・・)胸に飛び込んだモニカを抱き留め、僕はそうささやく。

 そうだよ。僕とサンドラ、モニカ、それにキャスがいれば、どんなことだって切り抜けられるし、いつだって切り抜けてきたんだ。


 だから、今回も…………………………そういえば。


「うわあ……ハルゥ、ボクは知らないよ?」


 前脚で器用に顔を覆いながら僕達の様子を見ていたキャスが、そんなことを呟く。


「ちょ!? ご、誤解だよ! 誤解だからね!?」

「そんな……ハロルド殿下は、この私をお捨てになるのですか?」

「モニカ!? ここでその冗談はシャレにならないから!」


 打って変わり、よよよ、と泣き真似をするモニカ。

 僕は絶対にサンドラに告げ口されまいと、必死にキャスに説明しましたとも。

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