主人公がパーティーを開催するとの情報提供がありました。
「ハア……三年間もここで過ごしていく自信がありませんわ……」
寄宿舎にある食堂で昼食を摂っている中、リゼが十回目の溜息を吐いた。
で、どうして彼女が、こんな台詞を呟いているかというと。
「リゼ、好き嫌いはいけませんよ? ちゃんとグリーンピースも食べないと、大きくなれません」
「だ、だけど、嫌いなものは嫌いなんですの!」
とまあ、非常にくだらない理由だったりする。というか子供か。
そういう僕もシイタケだけは苦手だけど、ありがたいことにこの世界にシイタケは存在しないのだ。勝った……って。
「うふふ。食事をご一緒してもよろしいでしょうか?」
クリスティアとカルラが料理を乗せたトレイを手に、僕達の席にやって来た。
「ええ、もちろん構いませんよ」
「ありがとうございます」
ということで、二人は僕達の正面に座る。
ふむ……含みのある表情から、何か僕に話があるのかな?
「ところで……同じクラスになった、ウィルフレッド殿下についてなのですが……」
少し身を乗り出し、クリスティアが小さな声で語り始めた。
どうやらウィルフレッドの奴、入学早々から女子生徒……しかも、『エンハザ』のヒロインに次々と声をかけているらしい。
何でも、親睦を深めるためにウィルフレッド主催のパーティーを開催するとのこと。
場所は、ウィルフレッドが暮らす離れの建物……そう、『ハーレム小屋』だ。
いやいや、いくらなんでも下心満載じゃない?
「……私達もお誘いを受けたのですが、既に聖王国としてウィルフレッド殿下とは袂を分かっております。とはいえ、ここはハロルド殿下のご意向を確認したほうがよいかと判断し、お伺いした次第です」
なるほど……僕のことを立ててくれているのはありがたいけど、それはそれで申し訳なくなっちゃうな。
だけど、ウィルフレッドのパーティーで何が起こるのかを知るためには、二人に潜入してもらうのが得策ではある。
「サンドラはどう思いますか?」
「私はハル様の利になることしか申し上げませんので、そうなると聖女様には潜入していただくという答えになってしまいます。ですが、あなた様はそうではないのですよね?」
そう言って、ニコリ、と微笑むサンドラ。
あ、あはは……僕の婚約者は、意外と手厳しい。
僕の気持ちも理解している上で、ちゃんと自分で判断させようとするんだから。
僕が、後悔しないように。
僕が、誰かのせいにして苦しまないように。
「……やっぱり僕は、聖女様とカルラ殿に、無理をしてほしくありません。どんな様子なのか気にはなりますが、ここは静観することにしましょう」
その結果、僕にとって不利な状況になる可能性は充分にある。
何せ、『エンゲージ・ハザード』という世界は主人公のためにあって、全てのヒロインは主人公と結ばれる運命にあるのだから。
だけど、だからといって僕が『大切なもの』を犠牲にするなんて、そんなことできないよ。
そのせいで、彼女達がウィルフレッドの奴に利用されて、僕達と剣を交えることになるなんて絶対に受け入れられない。
同じ後悔なら、『大切なもの』を守れる後悔を選ぶよ。
「……本当に、ハロルド殿下は素晴らしい御方ですね。我々聖王国が殿下を選んだことは、決して間違いではありませんでした」
「あ、あはは、買いかぶりすぎですよ」
「そんなことはありません。普通であれば、我々を利用することに躊躇はないものです。聖女様が申し上げましたとおり、ハロルド殿下は信頼するに相応しい御方。そのことは殿下と剣を交えたこのカルラが、誰よりも承知しています」
本当にさあ、みんなちょっと過大評価しすぎだと思うよ。
そんなに持ち上げられたら、僕はもっともっと頑張るしかないじゃないか。
オマケに、嬉しすぎてどうしても顔がにやけちゃうよ。
「ハル様は誰よりも不器用で、誰よりも優しい御方。私はあなた様の婚約者であることを……あなた様と添い遂げることができることを、心から嬉しく思います」
「そ、そっか……ありがとうございます……」
テーブルの下で、そっと僕の手を握ってくれたサンドラに、僕は自分にできる最高の笑顔で返したよ。
僕の、ありったけの感謝と想いを込めて。
だというのにさあ。
「…………………………」
どうしてこのタイミングで、ウィルフレッドの奴が食堂にやって来るかなあ。
しかも、さっき寄宿舎で揉めた騎士団長の息子、ウォーレンを引き連れて。
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