乙女ゲームの攻略キャラよりも、いじめられっこが気になりました。
「いい加減、みっともない真似はやめなよ」
どうして僕は、こうも余計なことばかりしてしまうんだろうね。
「なんだ、貴様は」
「『なんだ』とは失礼だな。そもそも、他人に名を尋ねる前に、自分から名乗るのがマナーじゃないのか?」
この台詞、人生で一度言ってみたかった台詞ランキングでもトップテンに入ると思う。
前世を含め、使う機会がここで訪れるなんて思いもよらなかったけど。
だけどさあ……やっぱりコイツ等も、僕の顔を知らないみたい。
どれだけ知名度低いんだよ。
いや待てよ? この赤髪の奴は、『ガルハザ』の攻略キャラだ。それは間違いない。
ということは、ハロルドが『ガルハザ』に登場していないから知らないってこと? いやいや、それはないでしょ。
そもそも貴族子息の分際で、同年代の自国の第三王子を知らないって、色々と終わってるし。
「フン! そのネクタイの色……貴様もコイツと同じ新入生か」
僕の黄色のネクタイを見て、赤髪の男は鼻を鳴らす。
いい加減、僕がハロルドだってことに気づいてほしい。いや、コイツの様子からすると無理か。
ちなみに、王立学院では僕達一年生が黄色、二年生が青色、三年生が赤色のネクタイを着用することとなっており、女子生徒はネクタイの代わりにブローチを胸に着けている。
「ならば、今日のところは見逃してやる。大人しく引っ込んでいろ」
「ハア……上級生なら、なおさら下級生の模範となるべきじゃないか。見たところ二年生のようだけど、もう少し弁えなよ」
横柄な態度の赤髪の男に、僕もぶっきらぼうな態度で返す。
こんな奴に、礼儀正しく接する必要なんてない。
「貴様……この俺が、”ウォーレン=ギブソン“と知ってのことか!」
「いや、誰だよ」
もちろん、ギブソン家は知っている。
王国の伯爵家であり、マリオンの実家であるシアラー家から取って代わり、以降は代々騎士団長を輩出することになった家系だ。
なので、今の騎士団長もギブソン伯爵が務めているんだけど、そうするとコイツは、その騎士団長の息子ということでいいのかな? いいんだろうな。
「まあいいや。とりあえず、やっと名乗ったみたいだから、こっちも名乗ってやるよ。僕はデハウバルズ王国第三王子、ハロルド=ウェル=デハウバルズだ」
「「「っ!?」」」
赤髪の男……ウォーレンと取り巻き達は、僕の名を聞いた瞬間慄き、一歩後ずさった。
「それで? 僕がオマエを知らなかったらどうなるんだ?」
「あ、いや……」
「まったく……ギブソン騎士団長の子息でありながら、どんな事情があるにせよこんな真似をして、恥ずかしくないのか」
「「「…………………………」」」
唇を噛み、悔しそうに僕を見るウォーレン。
まあ、言い訳しないだけましか。
「もういいよ。早くここから消えろ」
「し、失礼、します……」
ウォーレンは深々と頭を下げ、取り巻き達と一緒にこの場から逃げるように去った。
「さて……大丈夫だったかい?」
「あ……は、はい……」
これまでずっと黙っていた男子生徒に声をかけると、どこか申し訳なさそうに頷く。
んー……やっぱり、余計なことしちゃったかな……。
「あ、ご、ごめんね? 別に、僕が勝手にやったことだから、気にしないで。それより、さっきのことでもし君に迷惑がかかったなら、その時は僕に言ってくれれば……」
「そ、その、大丈夫です……それより、ありがとうございました」
男子生徒はペコリ、とお辞儀をすると、名乗りもせずにそそくさとこの場を去って行ってしまった。
「……あの男、無礼にも程がありますね」
「うわっ!? サ、サンドラ!?」
いつの間にか後ろにいたサンドラが、険しい表情で男子生徒が消えた男子棟の入り口を睨んでいる……。
というか、気配を消して僕のバックを取らないでほしい。心臓に悪いよ。
「モニカ、あの者達の素性について、すぐに調べなさい」
「調べるだけでよろしいのですか? 何でしたら、二度とあのような真似ができないようにいたしますが」
「ヒイイイイ!?」
瞳からハイライトが消え、ニタア、と口の端を吊り上げるモニカ。
僕は思わず、悲鳴を上げてしまったよ。
「そ、そんなことしなくていいから!」
「そうですか…………………………チッ」
「ほらほら、舌打ちしない。それより、もうお昼だから食事にしようよ」
不服そうな表情のモニカをたしなめ、僕達は食堂へと向かう。
だけど。
「? ハル様?」
「あ、ああいや、なんでもないです」
僕はもう一度、さっきの男子生徒のいた場所を見つめ、気を取り直して今度こそこの場を離れた。
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