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寄宿舎でトラブルを発見しました。

「んー……っ、やっと終わったあ……」


 王立学院についての説明や生徒達の自己紹介、その他諸々を終え、僕は伸びをした。

 いやあ、前世では授業なんて(コミュニケーション以外は)苦痛じゃなかったけど、久しぶりだから疲れるね。


「ええと、本格的な授業は明日からだし、今日のところは寄宿舎に真っ直ぐ帰ろうか」

「はい」


 ということで、僕はサンドラ、モニカと一緒にこれから三年間お世話になる寄宿舎に足を踏み入れた……んだけど。


「わ、私も一緒ではないのですか!?」

「お嬢様……もちろん、男女別でございます」


 絶望の表情を浮かべるサンドラに、モニカが無表情で諭す。

 だけどサンドラは、どうして一緒に住めると思ったんだろう。そんなことをしたら、生徒達が間違いを犯してしまうに決まってるじゃないか。


 僕達も十五歳を迎えて成人になり、そういうこと(・・・・・・)が大好きなお年頃なんだ。

 特に婚約者がいる生徒は、他の相手にお手付きなんてした日には、それこそ大問題に発展してしまうよ。


「で、ですが、モニカは問題なく男子棟に入れるというのはおかしいでしょう!?」

「私は生徒ではありますが、ハロルド殿下の専属侍女でもあります。殿下のお世話のために、事前に許可をいただいております」


 なおも納得できないサンドラは詰め寄るけど、モニカはそれはもう盛大にドヤッた表情でお辞儀をした。

 相変わらず、自分の主人に対して容赦ないなあ。


「あ、あはは……少し落ち着いたら、またここで合流しましょう」

「ぜ、絶対ですからね? 約束ですからね!」


 ずっと『こんなはずじゃなかった』と呪詛(じゅそ)のように吐き続けるサンドラを玄関ホールに置き去りにして、僕はモニカと一緒に自分の部屋に向かった。


「へえー……」


 割り当てられた僕の部屋に入ってみると、なかなか広くて過ごしやすそうだった。

 王宮の僕の部屋に比べたら、質素ではあるけれど。


 だけど、前世ではしがない大学生だった僕としては、このほうが断然落ち着く。

 第三王子のハロルドだけど、中身は庶民なんだから仕方がないよね。


「キャスは気に入った?」

「うん! ボクとしては、部屋の広さはこれくらいのほうが好き!」

「お、気が合うね」

「えへへ」


 僕とキャスは、コツン、と前脚と拳を合わせる。


「ところでモニカ……アイツ(・・・)の部屋は?」

「ご安心ください。双方からのたっての願いにより、あの(くず)はこの寄宿舎とは別の、離れの建物となっております」

「へ……?」


 モニカの言葉に、僕は思わず呆けた声を漏らした。

 い、いやいや、『エンハザ』の初期段階においては、ウィルフレッドはこの寄宿舎に住むことになっているはずじゃないか。


 モニカの言う離れの建物って、ガチャで獲得したヒロインや武器が増えすぎて枠がなくなった場合に課金によって拡張可能となる、通称『ハーレム小屋』のことを言ってるんじゃないよね……?


「そういうことですので、ハロルド殿下は学院内のプライベート空間において、決してあの(くず)と顔を合わせることはございません」

「そ、そうですか……」


 なんだろう……ちょっとアイツに負けた気分。

 きっとアイツは、同級生として入学した専属侍女のマリオンや、ここで数々のヒロインを『恋愛状態』にして『ハーレム小屋』で(はべ)らせて、これからいい思いをするんだろうなあ……メッチャ腹立つ。


「ま、まあいいや……それじゃ、サンドラを待たせちゃ悪いし、玄関に向かおう」

「はい」


 普段着に着替えた僕達は玄関に来ると、モニカが女子棟の中へと入っていく。

 もちろん、自分の着替えとサンドラに声をかけるために。


「さて……待っている間、暇だなあ……」


 玄関ホールにある椅子に腰かけ、ボーっとしていると。


「フン……貴様のような奴が、よくこの学院に来れたな」

「…………………………」


 背の高い赤髪ショートの男を含めた三人の生徒が、気弱そうな男子生徒をホールの隅で取り囲んでいるのが視界に入った。

 というか、あの赤髪の奴……たしか『ガルハザ』のオープニングタイトルのイラストの中にいた奴、だよなあ……? 名前は知らんけど。


「いいか、この王立学院は貴族の中でも選ばれた者だけが入学できるのだ。貴様の家のような卑しい身分の者が来ていい場所じゃない」


 ……随分と失礼なことを言う奴だな。

 王立学院に通うのは、全ての貴族の子息令嬢としての義務だし、形式上とはいえ学院内においては身分などによる差別は認められていない。


 ハア……あんな奴が『ガルハザ』の攻略キャラだなんて、人気が出ないのも頷けるなあ。今の僕の台詞(セリフ)、全て『エンハザ』にブーメランが刺さるけど。


 いずれにせよ知ったことじゃないし、第三王子の僕が生徒同士のいざこざに関わったりなんかしたら、それこそ色々と()めることになってしまうよね。

 だから、ここは静観しているのが得策なのだ。


 だというのにさあ。


「いい加減、みっともない真似はやめなよ」


 どうして僕は、こうも余計なことばかりしてしまうんだろうね。

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