ヒロインチェックをしてたら、ヤンデレ婚約者が嫉妬しました。
「今日から三年間、皆さんの担任を務めます“ミランダ=オードリー”です」
教室へとやって来た僕達は適当に席に着き、担任の先生から簡単な自己紹介と、王立学院における今後の授業や学院生活などについての説明を受ける。
なお、王立学院は全寮制となっており、それは王族であっても守らなければならない。従者なんてもってのほか……ではあるんだけど、結局のところ、同じ生徒として従者を入学させるため、いるも同然なんだけどね。
「ええと……ひい、ふう、みい……」
クラスにいる生徒を眺め、僕は指折り数える。
何をしているのかって? 同じクラスになったヒロインの確認をしているんだよ。
これから『エンハザ』のヒロイン達は、きっと主人公のウィルフレッドや噛ませ犬の僕と絡んでいくことになるだろうから……って。
「むううううううう」
「あ、いや、これはその!」
いけない、僕がヒロインチェックをしていたものだから、サンドラが思いきり拗ねてしまった。
もちろん、彼女も僕が女の子目当てにそんな真似をしているとは思っていないだろうけど、嫉妬してしまうことには変わりないよね。
なので、僕は必死に弁明という名の言い訳をして、決して他の女の子に目移りしていないってことを訴えましたとも。納得はしてくれなかったけど。
だけど、そんな僕の様子を見ていた者が、この教室にはいたわけで。
「よっ、なかなかお目が高いじゃねーか」
少し悪い口調で気さくに話しかけてきた、一人の男子生徒。
僕は、この男を知っている。知っているんだよ?
だけど。
「えーと……な、なんて名前だっけ?」
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は“ロイド=サンクロフト”って言うんだ。よろしくな」
僕が首を傾げると、彼……ロイドは右手を差し出した。
「ぼ、僕はハロルド。よろしくね」
もちろん僕も、フレンドリーに握手を交わしましたとも。
ちなみに彼は、『ガルハザ』の攻略キャラで、オープニングタイトルのイラストの中にいる一人だってこと以外は何も知らない。
ただ、雰囲気や口調からチャラいイメージが強く、きっと『ガルハザ』では三枚目の残念イケメンポジに違いない。いや、きっとそうに決まってる。
「ええと……俺の知ってる限りじゃ、ハロルドって名前でこの学院にいる男子は一人だけなんだけど……」
「あははー、多分それで正解だと思うよ」
「っ!? もも、申し訳ありませんでしたああああああああああッッッ!」
ようやく僕の正体を知ったみたいで、ロイドは慌てて平伏した。
ウィルフレッドと中央広場で決闘もしたっていうのに、僕って貴族の間でも顔の知名度は低いんだなあ……『無能の悪役王子』の悪評はみんな知れ渡っているっていうのに。チクショウ。
「僕達は同い年だし、これから三年間一緒に頑張っていくんだから、そんな敬語は必要ないよ。気さくにハロルドって呼んでくれると嬉しいな」
「え、ええと、その……ほ、本当にいいんですか?」
「もちろん」
僕は手を差し伸べ、ロイドを立ち上がらせた。
「へへっ。そういうことなら、普段どおりにさせてもらうぜ」
「変わり身早っ」
軽く笑うロイドに、僕は思わずツッコミを入れてしまった。
まあ、変に気を遣われるよりは全然いいけど。
「んで、さっきの話の続きだけど、俺的にはあの令嬢が……」
「ロイド様。申し訳ありませんが、ハル様をそのようなことにお誘いにならないでくださいませ」
おおっと、令嬢の品定めを始めたロイドに、サンドラが絶対零度の視線を向けているよ。
だけど、この程度で済んでいるってことは、彼女なりに我慢してくれているみたい。よかった、血の雨が降らずに済みそうだよ。
「な、なあハロルド殿下……こちらの令嬢は……?」
「僕の婚約者」
「アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエと申します」
「っ!? しし、支援者様のご令嬢!? し、失礼いたしましたあああああああああッッッ!」
さっきと同じように、ロイドがそれはもう綺麗な土下座を見せてくれたよ。
というか、クリスティアも土下座していたから、意外とこの世界でも土下座スタイルはポピュラー……って、そんなわけないから。
「ええと……今、サンドラのことを『支援者様のご令嬢』って言ってたけど……」
「お、おう……俺の家、バルティアン教会のデハウバルズ支部で、シュヴァリエ家から多額の寄付をいただいていて……」
ああ、なるほど。ロイドは聖職貴族なんだな。
だけど、デハウバルズ支部が実家ってことは、まさかサンクロフト大主教の息子? ちょっと驚き。
「サ、サンドラ。ロイドも悪気があったわけじゃないし、僕と君が婚約者同士だってことも知らなかったみたいだから、そのー……」
「……怒っておりません。ただ、ハル様には節度ある学院生活を送っていただきたいのです」
そう言うと、サンドラはプイ、と顔を背けてしまった。
どうしよう。今日一日で彼女をメッチャ嫉妬させてしまったよ。可愛いが過ぎる。
「あ、あはは……ロイド君も反省してるみたいだし、もうそんなことしないよね?」
「も、もちろん!」
僕のフォローにロイドが全力で首を縦に振り、必死にアピールする。
まだちょっと納得はしていないものの、サンドラは折れてくれたみたいだ。
なので。
「そ、そうだ。サンドラ、ちょっと……」
僕は彼女の小さな手を取り、教室を抜け出すと。
「あ……」
「僕はこれから先もずっと、サンドラだけですよ。たとえどんな女性が現れたって、絶対に目移りなんてするもんか」
サンドラを抱きしめ、耳元でささやいた。
「はい……絶対に、私だけを見ていてくださいね?」
サンドラは僕を抱きしめ返して、甘い声で答えてくれた。
ただ……ちょ、ちょっと、力が強すぎるんじゃないかな? もう少し手加減してください。
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