主人公とは別のクラスになりました。
「……デハウバルズの名に恥じぬよう、全ての者の模範として三年間の学院生活を送ってまいります」
みなさんこんにちは。
つまらないエイバル王や学院長の挨拶、それに新入生代表のウィルフレッドの挨拶を聞いて、メッチャ眠いハロルドです。
「ニャア……ハル、退屈だよお……」
「もう少しで終わるから、ちょっと我慢してくれ」
ミニチュアサイズの『漆黒盾キャスパリーグ』に変身し、制服の胸ポケットに入っているキャスをなだめる。
まあ、僕達だって退屈なんだから、キャスは余計にそうだよね。終わって寄宿舎の部屋に入ったら、思う存分愛でてあげよう。
「……以上を持ちまして、王立学院入学式を終了します」
お、やっと終わったぞ。
「ハロルド殿下、この後はクラスへ移動です。学舎の入り口に、クラス分けの表が貼り出されているかと」
席を立つなり、モニカが僕の後ろに忍び寄って教えてくれた。
というか、普通に話してくれればいいのに。
「じゃあみんな、行こうか」
「はい」
僕はサンドラの手を取り、他の生徒達に続いてみんなで学舎へと移動する。
……よくよく考えたら、僕の周囲に『エンハザ』のメインヒロインが三人と、『ガルハザ』の主人公が一人。何より、ヒロインよりも可愛いサンドラとモニカがいるんだけど。
これ、他の男連中から見れば、ひょっとして僕はただのハーレム野郎に映っているのではないだろうか……。
い、いやいや、僕の婚約者はサンドラだけだし、『大切なもの』ではあるけれどモニカは専属侍女だし、リズだって親友枠だし、カルラは剣と盾を交えた仲ではあるけれど、クリスティアに至っては利害関係が一致しているだけだし。リリアナなんか、さっき知り合ったばかりだよ。
そういうことなので、僕は決してハーレム野郎じゃないからね? だからそんな目で見ないでください。お願いします。
「あ……ハル様、私達は同じBクラスです」
掲示板のクラス分けの表を指差し、サンドラが嬉しそうに告げる。
そうかー……僕は『エンハザ』のシナリオどおり、Bクラスになったか。
こういう事実を知ると、この世界には強制力が働いているんじゃないかと、どうしても考えてしまう。
「どうして私がCクラスなんですの!? 断固抗議するわ!」
「カルラ、私達はAクラスみたいですね」
「はっ」
三人も、やっぱり『エンハザ』と同じクラスに振り分けられている。
……僕のしていることは、無駄じゃないよね……って。
「サ、サンドラ?」
「……あなた様がどうしてそのようなお顔をされておられるのか、私には分かりません。ですが、苦しみを抱えていらっしゃるのであれば、どうかこの私にも分け与えてくださいませ。苦しみも、二人で分ければ半分こです」
僕の手をギュ、と握りしめ、サンドラがニコリ、と微笑む。
でも、それは僕のために無理して笑っているのであって、本当は僕のことをとても心配してくれていて。
ああもう、敵わないなあ。
こんなに素敵な婚約者が一緒にいてくれるのに、うじうじと悩んでいる僕が馬鹿みたいじゃないか。いや、馬鹿なんだけどね。
だって……僕はそんな素敵な婚約者を、この世界から何としても守り抜くって決めていたんだから。
「すみません。サンドラのせいで、ついさっきまで悩んでいたことが吹き飛んでしまいましたよ」
「あ……ふふ、私のせいになさらないでください」
僕はわざとらしく肩を竦めておどけてみせると、サンドラは今度こそ、咲き誇るような笑顔を見せてくれた。
うん……やっぱりサンドラには、この笑顔が一番よく似合うよ。
さっきはあんな顔をさせてしまって、僕は猛省するしかないね。穴があったら入りたい。いや、穴がないので自分で掘るか。
「このモニカも、お二人と同じクラスです」
「うわっ!?」
「キャッ!?」
僕とサンドラに思いっきり割って入り、主張するモニカ。
というか、何そのドヤ顔。同じクラスになれて嬉しいけど。
「そういえば、ええと……」
「あ、そうでした! 私はリリアナ=アボットっていいます!」
僕はわざと名前を知らないふりをすると、淑女らしからぬ仕草で自己紹介をした。
ふむふむ、これはちゃんとマナーを学ばせたほうがいい気がする。
だってさあ……よくある乙女ゲームの設定だと、元平民であることを盾にして『学院では平等じゃないんですか!』『そんなのおかしいです!』とか非常識なこと言って、色々と引っ掻き回しそうじゃない?
なら、早い段階で矯正しておいたほうが、お互いのためにいいと思うんだよね。攻略キャラのイケメンヒーロー達には悪いけど。
「じゃあ改めて。僕はデハウバルズ王国の第三王子、ハロルド=ウェル=デハウバルズ。そして彼女が、僕の一番大切な婚約者の、アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエだ」
「アレクサンドラです。どうぞお見知りおきを」
リリアナの無邪気で幼稚な自己紹介とは異なり、サンドラは優雅にカーテシーした。
その動きはとても洗練されていて、表情もまさに淑女……いや、違った。メッチャゆるっゆるだよ。
「それで、リリアナ嬢はどのクラスになったの?」
「はい! お二人と同じ、Bクラスです!」
「そ、そっか……」
おおう……つまり『ガルハザ』では、ハロルドと同じクラスだったのか。
にもかかわらず、『ガルハザ』にモブとしてすら登場しないハロルドって一体……。
ま、まあいいや。
それよりも。
「うふふ……ハロルド殿下、お任せください。私とカルラが、しっかり監視しておきます」
僕の様子を見て、意図を理解したクリスティアが、クスリ、と笑う。
そう……僕は一点のみを見つめていた。
『エンゲージ・ハザード』と同じく、Aクラスに記載された、ウィルフレッドの名を。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!