僕は、この物語を覆しました。
とうとう第二部ラストです!
「勝負あり! 勝者、ハロルド=ウェル=デハウバルズ!」
ドレイク卿が右手を空に掲げ、僕の勝利を宣言した。
その瞬間。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」」」」」
観客席から、割れんばかりの歓声が沸き起こった。
結局のところ、僕はウィルフレッドの攻撃を完封し、しかもたった一撃で倒してみせたんだ。これって結構派手な勝ち方じゃない?
「わっはははははは! これでは、誰一人ぐうの音も出ませんわい!」
「あははー」
豪快に笑うドレイク卿の視線の先には、僕の勝利を認めざるを得なかったカーディスが用意した審判の一人と、その先の向こうにある席……エイバル王をはじめとした王族達のしかめた顔があった。
あ、ラファエルと第二王妃のローズマリーは、涼しい顔をしているけどね。
さて……これでウィルフレッドとの決闘は終わった。
なら、もうここには用はないので、残りの諸々をさっさと済ませてしまうとしよう。
「国王陛下。このハロルド=ウェル=デハウバルズ、弟であるウィルフレッドに勝利いたしました」
「う、うむ……」
傅いて勝利を報告する僕に、エイバル王が重苦しい表情で頷いた。
その隣には、息子の醜態を晒されて吊り上がった目をしているサマンサもいる。
何だよ、『エンハザ』では母親には愛されていないって設定だったのに、メッチャ愛されてるし。僕とは大違いだ。
だけど。
「…………………………」
「…………………………」
ええー……僕、いつまでこの体勢でいないといけないんだろう。
早く何かしらの声をかけてくれないかな? そうじゃないと、僕が退場できないんですが。
ちなみに、僕に倒されたウィルフレッドは、兵士に抱えられて既に退場している。
今頃は手厚い治療でも受けていることだろう。知らんけど。
「……陛下。何かおっしゃっていただかないと、この場を締めることができません」
「分かっておる……っ」
いつの間にか後ろにいる宰相に耳打ちされ、エイバル王は思いきり顔を歪めた。
そんなに僕の勝利を認めたくはないらしい。
「ハロルドよ……見事だった」
「ありがとうございます」
エイバル王の短い賛辞に、僕も短く答える。
別にこんな王に褒められたところで嬉しくないし、興味もない。
そんなことより、早くここから退散したいよ。
「……陛下、褒美を」
「分かっておるッッッ!」
また宰相に耳打ちされ、今度は語気を荒らげた。
その異様な様子に、見守っていた観客達もざわつき始める。
「先に約束したとおり、この闘いの勝者には、なんでも褒美を与えることとしている。ハロルドよ、お主は何を望む」
何を望む、か……。
僕の望みは、『エンゲージ・ハザード』の噛ませ犬という役割からさっさと逃れて、最推しの婚約者と静かに余生を過ごすこと。
そのために、臣籍降下してシュヴァリエ家に婿養子になること、なんだけど……。
エイバル王と同じように、席から僕を睨んでいるカーディス。
それとは正反対に、ますます物欲しそうに僕のことを見つめているラファエル。
マーガレットは、どこか顔を青くしているね。ひょっとしたら、これまでの僕に対する仕打ちについて、後悔……なんて、するはずないか。
考えているのは、僕が台頭したことによる、カーディスの立場が悪くなることへの危惧ってところだろう。
とにかく。
「であれば、たった一つだけお願いが」
「……申してみよ」
「はっ! 現在デハウバルズ王国には、王位継承権を持つ者が僕を含めて四人おります」
ここにいるみんなに聞こえるように、僕はできる限り大きな声で話す。
エイバル王が、後で言い逃れできないように。
「まさかとは思うが、自分を次の王にせよと言うのではあるまいな?」
「それこそまさかです。そのような恥知らずなこと、申し上げるつもりはありません」
早速釘を刺してきたエイバル王に、僕は少し大袈裟なくらい勢いよく首を左右に振った。
そんな勘違いされても困るし、そもそも僕は、次期国王の座になんて興味ないんだよ。
「ならば、何を求める」
「僕が求めるもの……それは、陛下の後継者を決めるに当たって、正当な評価を以て相応しい者を選んでください。間違っても、『世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする』ような真似だけは、絶対におやめいただきたいのです」
そうだ。僕は『エンゲージ・ハザード』という物語のきっかけとなるこの言葉を、本編が始まる前に全否定してやる。
ただウィルフレッドを……主人公を王にするためだけに用意された、都合のいい言葉を。
あはは、まさかこんな願い事をされるとは思ってもみなかったんだろうね。
心の内を読まれ、エイバル王はこれ以上ないほど険しい表情をしている。
一方で、観客達は僕がどうしてそんなことを願ったのか理由が分からず、ポカン、としているよ。
だけど、今から一年三か月後……みんな、知ることになる。
願わくば、『無能の悪童王子』が、ただ間抜けな願い事をしたということだけが、記憶として残る未来であってほしいけど。
「国王陛下」
「……相分かった。ハロルドの願い、聞き届けるとしよう」
「ありがとうございます」
もちろん、この口約束が守られる保証なんてない。
ウィルフレッドのために……『エンゲージ・ハザード』という物語をスタートさせるために、約束を反故にしてエイバル王が宣言する可能性はもちろんある。
だけど、ここにいる全ての人が、今のやり取りを聞いているんだ。
仮にそんな真似をすれば、少なくともエイバル王は求心力を失い、そんな条件で選ばれた次の王への信頼も得られることはないだろう。
まあ、だけど。
「ハル様」
いつの間にか、観客席から移動してこの舞台の出入口に笑顔で待ってくれている最推しの婚約者こそが、『世界一の婚約者』に決まっているけどね。
だから。
「あはは! サンドラ! サンドラ!」
「ふふ! ハル様! ハル様!」
僕は小さなサンドラを両手で掲げ、舞台の上をクルクルと回った。
噛ませ犬以下の僕が主人公に勝つという、決められていたストーリーを覆したことを祝って。
――この世界一大好きな、最推しの婚約者とともに。
お読みいただき、ありがとうございました!
とうとう……とうとう、第二部が完結いたしました!
ここまで駆け抜けることができたのは、応援・お読みいただいた皆様のおかげです!
本当に、ありがとうございます!!!
この後、幕間を2話ご用意しておりますが、第三部を執筆してすぐに皆様にお届けするためにも、どうかお力をお貸しいただけないでしょうか!
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この後の第三部も皆様に楽しんでいただけるよう、全力で頑張ります!
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