噛ませ犬は、主人公に勝利しました。
「なっ!?」
「チッ……躱されたか」
ウィルフレッドが放った一撃をかろうじて避けることができたものの、頬の焼けるような熱さを感じながら、僕は目を見開いた。
だって……ウィルフレッドが使用したスキルは、『エンハザ』で主人公が使用できるスキルでも、『英雄大剣カレトヴルッフ』の持つ固有スキルでもなく、別のUR武器……『魔皇星銃サモントリガー』の固有スキル、【アビスアサルト】だったのだから。
「っ! 審判、反則です!」
貴族席から僕達の闘いを見守っていたサンドラが、大声で叫んだ。
確かにウィルフレッドは、『英雄大剣カレトヴルッフ』と『魔皇星銃サモントリガー』の二つの武器を使用している。
でも。
「使用する武器の数に制限はない! よって、試合を続行する!」
「っ!? そんな!」
ドレイク卿が苦虫を噛み潰したような表情で、この会場にいる全員に宣言する。
まさかこんなルールの穴を突いてくるなんて、ドレイク卿も思わなかったんだろうな。というか、普通にこんな卑怯な真似、するとは思わなかっただろうし。
だけど。
「ふうん……これってつまり、魔法による攻撃も認められているってことでいいのかな?」
「……どうして今のが魔法だと?」
僕の指摘……というか確認に、ウィルフレッドは必死に取り繕って僕に尋ね返してきた。明らかに動揺してるの、バレバレだけど。
「いや、どうしても何も、その魔法の名は【アビスアサルト】で合っているよな? 以前、王宮の文献で読んだことがあって、知ったんだよ」
はい、もちろん嘘です。
前世の知識から、これが魔法にカテゴライズされていることを知っていただけですとも。
「まあいいや。とにかく、ルール上問題ないのなら、武器でも魔法でも好きに使えよ。『英雄大剣カレトヴルッフ』でも、『魔皇星銃サモントリガー』でも、それ以外の武器でも」
「…………………………」
どんな武器を使おうが、僕がすることは同じ。
他にも武器を隠し持っている可能性があることを最初から考慮しておけば、僕なら全て防いでみせるさ。
これまで放ったウィルフレッドの攻撃は全て、サンドラの攻撃の足元にも及ばないのだから。
「さあ、こいよ」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
ここからは、一方的だった。
案の定、ウィルフレッドが持っていた武器はこれだけではなく、他に三つも隠し持っていた。だけど、それらによる攻撃は全て僕には通用しない。
ただ防ぎ、躱し、いなす。
前世の記憶を取り戻し、サンドラと婚約してからの一年七か月、僕がずっと繰り返し続けたことの全てを、今まさに披露した。
エイバル王に、第一王妃のマーガレットに、第二王妃のローズマリーに、王の愛人サマンサに、カーディスに、ラファエルに、貴族達に、民衆達に……ここにいる、全ての者達に。
どうだ。これが、貴様達が見下していた『無能の悪童王子』の集大成の姿だ。
ねえ、見ていてくれているかい? 僕の『大切なもの』……サンドラ、モニカ。
僕は相棒のキャスと一緒に、こんなにも強くなれたよ。
だから。
「僕は勝つ! ウィルフレッドに……この主人公に勝利して、最低の未来をぶち壊してやるんだ!」
「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
どれだけ僕に防がれようとも、ウィルフレッドはそれ以上に攻撃を放つ。
その瞳には、僕に対する憎悪を込めて。
まあ、だけど……さすがは僕が愛してやまなかった『エンゲージ・ハザード』の主人公だよ。
この男が使用した武器は全部で五つだけど、それぞれ光属性、闇属性、地属性、火属性、風属性と全てバラバラ。他のキャラだったら、絶対にここまで使いこなすことなんてできない。
唯一無属性の、この男だからこそできる芸当だ。
惜しむらくは、ゲームの中では明かされなかったこの男の性格が、決して主人公じゃなかったこと。
普通に主人公として素晴らしい人格者であったならば、僕もこんなに争うこともないのに。
「くそっ! くそっ! 俺は神に……この世界に愛され、世界中の誰よりも優れた、選ばれた人間なんだ! こんな『無能の悪童王子』なんかに劣るはずがないんだ!」
「ああ、そうだ。オマエはこの世界に祝福された唯一の存在で、僕はただの噛ませ犬だ。でもな……僕にだって、オマエを穿つ牙くらい、持ち合わせているんだよ」
「黙れ! この虫ケラが! 俺はウィルフレッド=ウェル=デハウバルズ! いずれこの世界を統べる者だああああああああああッッッ!」
「「「「「…………………………」」」」」
コイツはそんなことを叫びながら、なおも攻撃を仕掛けてくるけど、ここには多くの観客がいるんだ。それすらも気づいていないけど。
ほら、見てみなよ。本性を曝け出したウィルフレッドに、みんなは冷ややかな視線を向けているよ。
『エンハザ』本編が始まり、ウィルフレッドがたとえ世界一の婚約者を連れてきたとしても、エイバル王を除けば誰もこの男を王とは認めないだろう。
もう……コイツは終わったんだ。
「キャス」
「分かったよ」
僕の意図を理解したキャスが、凛とした声で答えた。
先に魔法スキルを使用したのはウィルフレッドだ。反則だの卑怯だの、言い訳はできない。
「「【スナッチ】」」
無情に告げた僕とキャスの声に合わせ、巨大な漆黒の爪の幻影が、ウィルフレッドに襲い掛かる。
僕を痛めつけるために攻撃に特化したUR武器ばかりを用意したせいで、アイツにこの攻撃を防ぐ手立てはない。
「ぐあああああああああああああああああああああッッッ!?」
爪の一撃を食らい、ウィルフレッドは宙を舞う。
そして。
「勝負あり! 勝者、ハロルド=ウェル=デハウバルズ!」
ドレイク卿が右手を空に掲げ、僕の勝利を宣言した。
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