主人公との闘いが幕を開けました。
「では……はじめ!」
ドレイク卿の言葉で、僕とウィルフレッドの決闘が幕を開けた。
さて……ウィルフレッドはどう出てくるかな?
「…………………………」
へえ、突っかかってこないんだ。
むしろ僕がすり足で距離を詰めると、同じだけ後退したよ。
どうやら、この距離がアイツにとっての間合いみたいだな。
まあでも。
「どうした。手を出してこなければ、オマエが僕に勝利することはできないぞ」
「分かっていますよ。ですが、すぐに勝負を決めてしまっては面白くない」
そう言うと、ウィルフレッドはクスリ、と嗤った。
「なかなか減らず口を叩くじゃないか。だけど、その自信はどこから来るんだ? 僕が聖王国のカルラ殿との手合わせにおいて、彼女の攻撃を全て受け止めたことは、オマエも見ていただろう」
「兄上こそご存じない。あの時はお互いに木剣と木の盾という訓練用の武器だった。だが、この剣が俺の手にある時点で、兄上はただ斬られる運命にあるんですよ」
ああ、なるほど。
『英雄大剣カレトヴルッフ』の性能に頼って、僕に圧勝するつもりなんだな。
「じゃあ、試してみろよ。そんな逃げ回っていないでさ」
「ええ……そうさせてもらいますよッッッ!」
「っ! 来る!」
地面を蹴り、ウィルフレッドは一気に距離を詰めてきた。
「シッ!」
素早く放たれる、連続の突き。
『エンハザ』では、本編が始まった時点での主人公のレベルは一しかないので、ウィルフレッドがこんな攻撃を繰り出すことができたのは、ちょっと意外だった。
でも。
「なっ!?」
「何を驚いているんだよ。そんな攻撃、通用すると思っているのか」
僕が『漆黒盾キャスパリーグ』で全て防いで見せると、ウィルフレッドは目を見開く。
ただ、攻撃を受け止めたことに対してというより、『英雄大剣カレトヴルッフ』がこの盾を貫くことができないことに驚いているみたいだな。
「なんだ。ひょっとしてその剣、そんなにすごいものなのか?」
「……ええ、まあ。ですが兄上の盾も、この剣の攻撃を受け止めることができるだけの、優れたものだとは思いませんでしたよ。どんな悪事を働いて入手したのかは知りませんが」
「それを言うなら、オマエこそその剣をどうやって手に入れた。それは、簡単に手に入る代物じゃない」
そう……簡単に手に入ってたまるか。
僕が『エンハザ』で『英雄大剣カレトヴルッフ』を入手するために、課金ガチャにいくらつぎ込んだと思っているんだよ。
「俺はこの剣と共に託されたんですよ。『デハウバルズの王となり、この国の統治者になれ』とね」
「ふうん……それって、国王陛下に?」
「いや、違う」
「違う?」
あっさりと否定したウィルフレッドに、僕は思わず聞き返す。
じゃあ一体、どこの誰がコイツにUR武器まで渡して、そんなことを宣ったって…………………………あ。
この時、僕は似たような出来事を思い出した。
カペティエン王国でクーデターを起こした王太子のジャンも、『陽光聖剣デュランダル』をある男から受け取ったと言っていたな。
その名は。
「“ウリッセ”……」
「っ!? ……まさかハロルド兄上も、あの男からその盾を……?」
ええー……本当かよ。
まさかコイツまで、ジャンから聞いた男と繋がっていたなんて。
というか、『エンハザ』の主人公やシナリオボスに絡む“ウリッセ”という男は一体何者なんだ?
しかも、最低でもUR武器を二つ保有していたことになるし、さらにはレアアイテムの『ガルグイユの眼』だって。
ただ……少なくとも“ウリッセ”という男が、この『エンゲージ・ハザード』という世界の裏で暗躍していることだけは確かだ。
この決闘が終わったら、ウィルフレッドを問い質すとしよう。
「オマエと一緒にするな。僕の相棒は、そんな怪しい奴から入手したりなんてしない」
「なら、どうして……って、別にいいか。俺が勝てば、ハロルド兄上から吐かせればいい」
「っ!?」
ウィルフレッドの振るう剣の鋭さが増し、容赦なく僕に襲いかかる。
これ、防がなかったら確実に死ぬだろ。
とはいえ。
「ど、どうして……っ!?」
「無駄だよ。オマエの剣じゃ、僕には絶対に届かない」
剣撃を全て防いでみせると、ウィルフレッドがまたもや驚愕の声を上げた。
コイツの剣を受け止めてみて分かったけど、武器の性能はともかく、ウィルフレッド自身の能力は思った以上に大したことはない。
いや、マリオンよりは少し強いかもしれないけど、それでも、剣の腕前はカルラ以下だろうな。
「別に僕は、オマエの心が折れるまで続けてもいいぞ? ただ……オマエじゃ僕に勝つのは絶対に無理だよ」
「く……っ! このおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
今の言葉が逆鱗に触れたらしく、ウィルフレッドは狂ったように剣を繰り出す。
この展開、橙の腕章をつけた近衛兵と手合わせした時と同じだね。
そう、思ったんだけど。
「なっ!?」
「チッ……躱されたか」
ウィルフレッドが放った一撃をかろうじて避けることができたものの、頬の焼けるような熱さを感じながら、僕は目を見開いた。
だって……ウィルフレッドが使用したスキルは、『エンハザ』で主人公が使用できるスキルでも、『英雄大剣カレトヴルッフ』の持つ固有スキルでもなく、別のUR武器……『魔皇星銃サモントリガー』の固有スキル、【アビスアサルト】だったのだから。
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