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盛大な茶番劇をやらかした主人公に、決闘を申し込まれました。

「ここにいるサマンサ=オールポートを、余の第三王妃とする!」

「「「「「っ!?」」」」」


 衝撃的なエイバル王の宣言により、会場が凍りついた。

 うわー……『エンハザ』のあの(・・)台詞(セリフ)じゃなくてホッとしたけど、それに負けないくらいのご乱心だよ。


 よりによって王国内の全ての貴族が一堂に会す新年祝賀会の場で、しかも二人の王妃が後ろに控える中で、愛人に過ぎない女に王妃の座を与えることを宣言したんだからね。


「まあ! 陛下、とても嬉しいですわ!」

「うむうむ、そうであろう!」


 喜ぶのはエイバル王とサマンサのみで、鬼の形相のマーガレットと諦めの境地にいるローズマリー。

 貴族達に至っては、これ以上ないほど白けているよ。


 ……いや、一人だけ喜んでいる奴がいた。


「母上……っ!」


 感極まった表情の、愛人サマンサの息子であるウィルフレッドが。

 だけど、『エンハザ』では主人公は母親から愛情を受けることが一切なく、攻略したヒロイン達の献身によって心が救われるってストーリーがあったはず。


 だというのに、ウィルフレッドがサマンサに対して曇りのない目で喜んでいるこの姿を、どう捉えたらいいんだろう。もう訳が分かんない……って。


 まてよ? そういえば、サマンサがエイバル王の愛人だということは『エンハザ』でもちゃんと描かれていたけど、そもそもサマンサってウィルフレッドの回想シーンで語られるだけで、メインシナリオには一切登場していなかったかも。

 そう考えると、ひょっとしたら『エンハザ』本編開始時には、第三王妃の座に君臨していたということも考えられる。


 うわあ……『エンハザ』のヘビーユーザーだった僕は、想像していたのと違う裏設定に驚かされっぱなしだよ。というか、前世の記憶を思い出してからこんなのばっかり。


「さあ皆の者! 今宵(こよい)は新年と新たな王妃の誕生を祝うのだ!」

「「「「「…………………………」」」」」


 楽しそうなのはエイバル王とサマンサ、それにウィルフレッドくらいのもので、僕達を含めそれ以外の者は微妙な空気の中、祝賀会の幕が開けた。


 ◇


「サンドラ、これも美味しいですよ?」

「本当ですか? はむ……美味しい!」


 エイバル王の、乱心したとしか思えない宣言の後、僕とサンドラは祝賀会のために用意された料理に舌鼓を打っていた。

 あ、もちろん、ちゃんとモニカが毒見してくれてあるよ。


 だというのにさあ……。


「みんな、聞いてほしい! 国王陛下から発表があった後だが、私達からも皆に伝えたいことがある!」


 カーディスが会場であるホールの中央で、いきなり大声で(のたま)い出したよ。

 もちろん、例の『僕達兄弟、メッチャ仲いいんだぜ』宣言ですとも。


 ただし、丁重にお断りした僕は、その中に含まれていないけど。


「……陛下に引き続き、今度はカーディス殿下ですか」

「いやはや、今年の祝賀会は、一体どうなっているのだ……」


 でも、周囲の貴族達から漏れ聞こえてくるのは、呆れと不安の声。

 エイバル王があれだけやらかした後だというのに、それでも実行しようというのだから、ある意味称賛に値するよ。


「今日はあなた様との祝賀会を楽しみに来たというのに、陛下とあの方々のせいで台無しですね」

「あははー……」


 露骨に顔をしかめるサンドラ。僕も苦笑いしているけど、心の中ではかなり不機嫌だよ。


「これまで私とラファエルは、国王陛下の偉業を引き継がんとして、互いに、その……切磋琢磨(・・・・)をしてきたが、この度、私達の仲を取り持ってくれた者がいる。ウィルフレッド」

「はい」


 カーディスに呼ばれ、ウィルフレッドがホールの中央へと歩み出る。

 また、苦笑しつつグラスを片手にカーディスのもとへ向かうラファエルの姿も。


「ウィルフレッド、そしてラファエル……これからは兄弟手を取り合い、デハウバルズ王国を盛り立てていこうぞ!」

「はい!」

「アハハ……」


 カーディスを真ん中にして、ウィルフレッドとラファエルも、肩を組んだ。


 いやあ、茶番もここまでくると笑うしかないね。

 実際のところ、貴族の半分は乾いた笑みを浮かべているし。


 残りの貴族達? もちろん、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているよ。

 だって貴族達からすれば、自分達の利益のために、これまでカーディスあるいはラファエルを次の国王にするために支持してきたんだ。


 ところが、いきなり争っていた兄弟同士が手を取り合う姿なんか見せられても、もしそれが本当なら自分達を(ないがし)ろにされたと考えるだろうし、ただのポーズだと思っている貴族は、つまらない演劇を見せられている気分だろうからね。


 だけど、貴族達もすぐに気づいたようで、みんなが僕のほうに視線を向けてきた。

 唯一人、兄弟の輪から弾かれた僕を。


 特にみんなはこう思うだろうね。『どうしてカペティエン王国との外交を成功させたハロルド殿下が、輪の中に加わっていないのか』と。


 もちろん、僕自身が拒否したんだけど、それでも、以前の『無能の悪童王子』の時とは違い、僕だって実績を積み重ねてきた。

 それだけじゃない。文官達にオルソン大臣をはじめ、元師団長のドレイク卿も僕を支援してくれている。

 何より、婚約者であるサンドラの実家は、王国最大貴族のシュヴァリエ家だ。


 馬鹿な貴族じゃない限り、文官と軍属に大きな影響力を持つ二人と、シュヴァリエ家を手中に入れた僕を無視することなんて、決してできないということを理解しているよ。


「サンドラ、(きょう)が削がれてしまいましたね。少し寒いですが、夜風に当たりませんか?」

「ふふ……はい」


 彼女の小さな手を取り、三人を無視してバルコニーへと向かう。


 その時。


「ハロルド兄上! このウィルフレッド=ウェル=デハウバルズ、あなたに決闘を申し込む!」

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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