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やっぱり主人公は、噛ませ犬である僕の宿命の敵でした。

「お、お待たせしました……」

「あ……」


 支度を整えて現れた最推しの婚約者の姿に見惚れてしまい、思わず僕はみっともなく口からお茶を(こぼ)してしまったよ。

 だけど、それは仕方ないというものだ。


 黒と青のドレスに身を包み、普段のものよりもぴったりとフィットするシルエットのドレスで、幼さの残る彼女とのギャップがすごすぎる。

 オマケに、スカートの部分にはスリットまで入っていて、男連中がサンドラに釘付けになってしまわないかと、僕は今から気が気じゃないよ。


「そ、その……セルウェイ夫人の最新のデザインとのことで、わ、私も攻めすぎているのではないかと思うのですが……」

「いいえ。何一つ問題ありません」


 むしろこんなデザインを用意したセルウェイ夫人……グッジョブ! これからは、メッチャ贔屓(ひいき)にしますとも。


「ア、アレクサンドラ、さすがにそれはまずいのではないか? その……い、色々と露出が多い気が……」

「そんなことはありません。むしろ、サンドラの美しさを際立たせる斬新なデザインです」


 セドリックよ、悪いけどあなたの言葉は全て否定させてもらうよ。

 万が一、サンドラが思い直して他のドレスに着替えてしまったら、これ以上彼女の姿を拝めなくなっちゃうじゃないか。


「まあまあ、早速ハロルド殿下を(とりこ)にしたわね」

「お母様!?」


 ノーマ夫人が満面の笑みでサムズアップし、サンドラは顔を真っ赤にさせる。

 それどころか、露わになっている肩や太ももまでほんのりと赤くなっていて、その……思春期真っ只中の僕は、メッチャ興奮していますが何か? 中身は十九歳の大学生だけど。


「で、では、まいりましょう。モニカやキャスも、あなたが来るのを心待ちにしています」

「は、はい……」


 ゴクリ、と唾を飲み込み、ゆっくりとサンドラの小さな手を取る。

 うう……静まれ、僕のハロルド。このまま醜態を(さら)して、幻滅されるわけにはいかないんだよ。


 僕達は緊張したまま馬車に乗り込み、王宮に到着するまで終始無言だった。


 ◇


「何事もなかったなんて……さては殿下、ヘタレですね?」

「うぐ!?」


 王宮に戻ってくるなり、どうして僕は専属侍女からジト目を向けられなければいけないんだろうか。

 いや、彼女の指摘どおり、ヘタレであることは否定できないけれども。


「もしくは殿下が、実は淑女ではなく殿方に興味がおありとか……」

「モニカ!?」


 モニカめ……絶対にこれ、僕で遊んでるだろ。

 久しぶりに、彼女の面倒な性格が前面に出ているよ。


 それよりも。


「そ、そんな……まさかハル様が、殿方に興味がおありだったなんて……」

「いやいや、真に受けないでください」


 絶望の表情を浮かべるサンドラを、僕は無表情でなだめる。

 大体、僕がどれだけ君に心を奪われているのか、いい加減理解してほしい所存。


「とにかく、もうすぐ祝賀会の始まる時間ですので、僕達も会場へ向かいましょう」

「は、はい」


 気を取り直し、僕はサンドラの手を取って会場へと向かう。

 なお、モニカは給仕として祝賀会に参加することになっており、キャスに料理を届けるという役目もあるので、後から会場で合流することになっている。


 すると。


「ハロルド兄上……」

「ウィルフレッド……」


 運悪く、ウィルフレッドの奴と廊下でバッタリと会ってしまった。

 ちなみに、案の定というか予定調和というか、ウィルフレッドのパートナーはマリオンだよ。何だか久しぶりに登場した気がする。メインヒロインなのに、扱いがサブヒロイン以下だよ。


「義姉上……と、お呼びしてはいけなかったでしたね」

「いいえ。『義姉上』と呼ぶ以前に、そもそも私と口を利くことを認めた覚えはありません」


 遠慮がちに話しかけるウィルフレッドに対し、サンドラが辛辣に言い放った。

 そんな二人のやり取りを、マリオンはまるで空気にでもなったかのように見ているよ。以前の立ち合いでサンドラに死の恐怖を与えられたせいで、可哀想なくらい小刻みに震えているけど。


「兄上……先日ご相談した件について、考え直していただけませんか?」

「くどいよ。僕がオマエと手を結ぶなんてことは、永遠にない」


 僕は『エンハザ』に登場する噛ませ犬以下の第三王子、ハロルド=ウェル=デハウバルズ。

 前世の記憶を思い出した直後は、いかにしてこの主人公とヒロインから距離を置くことばかりを考えていたけど、サンドラにまで危害が及ぶ可能性が出てきた今となっては、戦う覚悟はできている。


 主人公にも、ヒロインにも……いや、この『エンゲージ・ハザード』の世界にも。


「そういうことだから、今日の祝賀会では絶対に話しかけるな。もちろん、こちらの様子を(うかが)うことも、視界に入ることも認めない」

「……ハロルド兄上はどうして、そこまで俺を嫌うのですか?」


 射殺すような鋭い視線を向け、ウィルフレッドが問いかける。

 この男は、何を言っているんだろうね。


 幼い頃の、僕の名を(かた)ってのサンドラへの仕打ち。

 前世の記憶を取り戻してからの、僕やサンドラに対する不遜極まりない態度。


 それだけでも、嫌悪するには充分だというのに。


 まあでも、やっぱりそういう(・・・・)こと(・・)だろうね。


「オマエが、僕の宿命の敵(・・・・)だから」


 そう言い放つと、僕はウィルフレッド達を置き去りにし、サンドラと一緒に会場の中へと入った。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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