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とうとう実の母親とエンカウントしました。

「さ、寒い……」


 木枯らしの吹く、朝の訓練場。

 僕は自分の身体を抱きしめ、身震いする。


 ハア……前世から寒がりだったから、この寒さは(こた)えるよ……。


「ふふ、身体を動かせば、すぐに温まりますよ」

「そ、そうなんですけどねー……」


 クスクスと笑うサンドラに、僕は肩を(すく)めた。


「わっはははは! ハロルド殿下、この程度の寒さで情けないですぞ! ほれ! こうして手拭いで身体を(こす)って身体を鍛えるのですじゃ!」

「ちょ!?」


 いつものように朝早く王宮に来ているドレイク卿が、僕の訓練服を脱がしにかかってるんですけど!?

 というか、サンドラの目の前でやめてよ!?


「ほれ! いち、に! さん、し!」

「うう……」


 強引に上半身を裸にされてしまった僕は、恥ずかしさで顔を真っ赤にして身体を擦っているよ。

 だけどさあ……。


「ハア……ハア……ドレイク卿……これは、とても素晴らしい鍛錬法ですね……!」


 サファイアの瞳を輝かせ、食い入るように僕……の身体を見つめるサンドラ。しかも、メッチャ息が荒い。

 どうしよう。僕の最推しの婚約者が、どんどん変態になっている気がする。


「……お嬢様、画家をご用意いたしますか?」

「! さすがはモニカです。すぐにお願いするわね」

「かしこまりました」


 モニカが余計なことを言ったせいで、どんどんおかしな方向になりそうだよ。勘弁して。

 ただでさえ僕は、痩せて貧相な身体をしているんだから、絵画なんかにされてしまったら、間違いなく恥ずか死ぬ。


「そ、そういえば、もうすぐ新年祝賀会がありますね」


 とにかく少しでも話を逸らそうと、僕はそんな話題を振ってみた。


 デハウバルズ王国では、毎年元日に王室主催の祝賀会を開催している。

 今年もサンドラと一緒に参加して、楽しい思い出をたくさん作ることができたから、実はメッチャ楽しみにしているのだ。


「はい! 今度の祝賀会も、ずっと心待ちにしておりました!」


 サンドラは手を組み、パアア、と表情を輝かせた。

 よしよし、思惑どおり画家を呼んで僕の裸を描かせるという話は、綺麗に吹き飛んだみたいだぞ。


「せっかくですのでお嬢様、あのことをハロルド殿下にご相談してみては?」

「そそ、そうですね……」


 モニカの一言で、サンドラの顔が真っ赤に染まる。

 僕に相談って、一体何だろう……。


「こ、今度の祝賀会に合わせ、新しくドレスを仕立てようと考えているのですが、その……」


 サンドラは指をこちょこちょさせながら、上目遣いで僕の顔色を(うかが)った。

 普段と違う彼女の仕草、メッチャ可愛い。今すぐに画家を呼んで絵にしたい……って、僕もサンドラと発想が同じだったよ。


「ハロルド殿下。お嬢様は、殿下とお揃いの衣装にしたいとのことです」

「っ!? 私が申し上げようと思ったのに!?」


 モニカに台詞(セリフ)を横取りされ、思わず声を上げるサンドラ。そんな彼女もますます可愛い。モニカ、よくやった。


「もちろん大歓迎です! というより、僕も君とお揃いの服にしたいです!」

「! ほ、本当ですか! よかったあ……」


 頬を染めて嬉しそうにはにかむサンドラに、僕は白米を何杯でもおかわりしてしまいそうだよ。


「では、今日の特訓が終わったら、早速王都の仕立て屋へ行きましょう。モニカ、お願いしていいかな?」

「お任せください。王都一のデザイナーを手配いたします」


 うんうん、祝賀会がますます楽しみになってきたぞ。


「……モニカ、画家も忘れないでくださいね?」

「もちろんです」


 残念ながら、僕の婚約者はちゃんと覚えていたよ。チックショウ。


 ◇


「ふふ……楽しみですね」


 僕達は馬車に乗り、王都一のデザイナーである“アンジェラ=セルウェイ”男爵夫人がオーナーを務める仕立て屋へと向かっている。

 ちなみに、僕のサンドラはお揃いのドレスを仕立てることになったので、終始ゴキゲンだとも。


「そうだ。せっかくだからキャスも、衣装を仕立ててもらうか?」

「えー……ボクはいいよ。服なんて着たら、毛づくろいができないじゃないか」


 どうやらキャスは、あまり興味はないみたいだ。

 前世では飼い主が猫に服を着せたりしていたから、ありなのかと思ったけど、猫の本音としては余計なお世話なのかもしれないな。


「皆様、どうやら到着したようなのですが……」


 モニカが言葉を濁し、車窓から建物を見やる。

 あれがセルウェイ夫人の仕立て屋で間違いないみたいだけど、馬車が一台停まっているな……って。


「あれは……」


 なるほど、モニカが躊躇(ちゅうちょ)するはずだ。

 あの馬車にはデハウバルズ王家の紋章がある。つまり王族の誰かが、僕達と同じ目的で、この仕立て屋に足を運んだということ。


「不思議ですね……通常、王族であればわざわざ足を運ばずに、王宮に呼び寄せると思うのですが……」


 サンドラの言うとおり、王族はみんな服を仕立てる時はデザイナーを呼びつける。

 今回、僕はサンドラとお揃いの衣装を仕立てるという目的もあったし、何よりデート気分を味わいたかったという思惑もあるので、こうして馬車でやって来たけど、普段は王宮御用達のデザイナーに来てもらっている。


 じゃあ、誰がセルウェイ夫人の仕立て屋に……?


「ハロルド殿下、いかがなさいますか?」

「うーん……」


 さて、どうしたものか。

 サンドラとわざわざここまで来たんだし、いちいち他の王族に気を遣う必要もないから、このまま店に入ってもいいと思うけど、もし来ているのがウィルフレッドだったりしたら、それだけで気分は台無しになってしまう。


 モニカに誰が来ているのか確認してもらってもいいけど、もし向こうに見つかったら、それはそれで面倒なことになりそう……って。


「サンドラ?」

「ハル様、まいりましょう。仮にあの(くず)がお客として来ているのだとしても、こちらが相手にしなければ済む話です」

「え、ええ……」


 ウィルフレッドを最も嫌っているサンドラがそう言うんだから、僕としても否やはない。

 僕達は馬車を降り、店の中へ入ると。


「あら……ハロルドじゃない」

「母、上……」


 客として来ていたのは、デハウバルズ王国第一王妃、マーガレット=ウェル=デハウバルズ……僕の母親だった。

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