尊敬する主に、絶対の忠誠を誓って ※モニカ=アシュトン視点
■モニカ=アシュトン視点
「ふふ……ご覧になりましたか? 私のハル様が、今度は近衛師団をも手中に収めましたよ」
王都にあるシュヴァリエ家のタウンハウスの一室で、お嬢様が今日の出来事を嬉しそうにお話しになられております。
ですが、確かにお嬢様のおっしゃるとおり、ハロルド殿下はバルティアン聖王国の使節団のホストを見事に務めあげ、聖女様を通じて聖王国とのパイプを手に入れたばかりか、オルソン大臣を始め文官達の支持を得ました。
それに加え、カペティエン王国に親善大使という大役を任ぜられ、第一王女のリゼット殿下や第二王女のエリーヌ殿下とも友誼を結び、さらにはクーデター事件を解決に導いて、これ以上ないほどの成功を収めております。
そこにきて、今回の近衛師団の掌握。
ハロルド殿下はその実力を持って誇り高い近衛兵達の信頼を勝ち取り、ドレイク師団長からも剣を捧げられました。
この一年のハロルド殿下の活躍は目覚ましく、もはや王宮内においても殿下の影響力は絶大。
もし殿下が望まれるのなら、第一王子のカーディス殿下や第二王子のラファエル殿下を押し退け、次期国王の座をつかみ取ることも可能でしょう。
ただ、ハロルド殿下はそのようなものに一切興味をお持ちではない上、むしろシュヴァリエ家へ入り婿されることを望んでおられます。
知らない者が見れば、『欲がない』ように思われるかもしれませんが、最も傍でお仕えする私からすれば、殿下ほど強欲な御方はおられないでしょう。
それは、【竜の寵愛】を捧げるお嬢様よりも。
「そういえばお嬢様、よくお気持ちを抑えました。カペティエン王国でも、近衛師団でも、このモニカ、いつ暴走してしまうのかと気が気ではありませんでした」
「むう……わ、私だって成長しているのですよ? あの聖女の前でハル様に暴走した姿をお見せしてしまうという失態をしてしまいましたが、二度と同じ轍は踏みません」
プイ、と顔を背け、お嬢様は口を尖らせます。
ですが、お傍 で様子を窺っていた限りでは、暴走する寸前だったことは間違いありません。
瞳の色こそ赤く染まらなかったものの、瞳孔は細長く変化しておりましたから。
「いずれにしましても、ハロルド殿下と添い遂げたいとお思いでしたら、引き続きご注意ください」
「わ、分かってます!」
私はもう一度、お嬢様に念押しをします。
お嬢様にとって煩わしいかもしれませんが、何度でも諫言いたしますとも。
お嬢様とハロルド殿下の幸せこそが、私の幸せなのですから。
◇
「ねえねえ、モニカ……サンドラ、大丈夫だった?」
お嬢様のいらっしゃるタウンハウスから王宮に戻ってくるなり、ハロルド殿下が心配そうな表情でお尋ねになります。
はて……? お嬢様は今日もお元気……というか、ハロルド殿下と初めてお逢いされた幼い頃はともかく、【竜の寵愛】が発現してから一度たりとも風邪すら引いたことはありません。
悩みごとのような類もハロルド殿下のこと以外ありませんし、何一つ思い当たりません。
ですが、お嬢様の最愛の婚約者であらせられるハロルド殿下は、何かをお気づきになられたのでしょう。
「申し訳ございません、少なくとも私が見た限りでは、お嬢様は普段どおりだったと思われます」
「そ、そう。それならいいんだけど……」
「何かあるのですか?」
「あ……えーと……」
ハロルド殿下は少々戸惑ったご様子でしたが、意を決したのか、私にお話しくださいました。
近衛師団の幕舎を訪れた際、色こそ変化はなかったものの、お嬢様の瞳が爬虫類のようになっていたことを。
……ハロルド殿下もお気づきでしたか。
「モニカには以前話したけど、サンドラの瞳が赤くなって、聖女様に危害を加えようとしたことがあった。色こそサファイアのような青色のままだったけど、瞳孔は変化していたんだ……」
「そうでしたか……」
少しうつむくハロルド殿下に、神妙な面持ちで相槌を打った。
ですが、ふと疑問に思いました。
ハロルド殿下は【竜の寵愛】によって変化したお嬢様を、どのように思っておられるのかを。
「……もし」
「モニカ?」
「もし、お嬢様の本当のお姿が、以前ハロルド殿下がご覧になられたようなものだったら、どう思われますか……?」
よせばいいのに、私はそんなことを聞いてしまいました。
これでハロルド殿下は、私がお嬢様の秘密を知っている、そう思われたことでしょう。すぐに質問責めに遭うことは目に見えております。
そして、知っていたにもかかわらず『知らない』と言った私に、幻滅なさったことでしょう……。
ですが。
「んー……確かにサンドラがいつもの様子と違っていて、ちょっと驚いたことは事実だよ。もちろん、少しだけ怖いと思ってしまったことも」
「…………………………」
「だけどね、サンドラは僕のために怒ってくれたから、そうなってしまったんだと思う。つまり僕は、それだけ彼女に嫌な思いをさせてしまったということなんだ」
ハロルド殿下は真剣な表情で、丁寧に言葉を選んで、私にお話しくださいました。
その一つ一つに、お嬢様に対する愛情と思いやりが窺えます。
本当に……お嬢様は見る目がありますね。
これでは【竜の寵愛】が発現してしまうのも、無理もありません。
「だから僕は、あの姿が本当のサンドラだというなら、当然受け入れる……ううん、違うね。あのサンドラだって、僕の世界一大切な婚約者だよ」
そう言うと、ハロルド殿下は少し恥ずかしそうに、でも、嬉しそうにはにかみました。
「……お嬢様はハロルド殿下に愛されて、世界一幸せですね」
「そ、そうかなあ……あ、でも、サンドラには内緒だからね?」
「かしこまりました。本日のことは、このモニカの胸に秘めておきます」
悪戯っぽくおどけるハロルド殿下に、私は深々とお辞儀をしました。
この世界一素晴らしい主への、絶対の忠誠を誓って。
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