主人公がここでもやらかしてくれました。
「これは何事だ!」
……よりによってウィルフレッドが、このタイミングで現れたよ。
その後ろには、手で顔を覆ってしまったオカッパ頭の背の高い近衛兵の姿も。おそらく、『まずいところを見られたなあ』っていう心境なんだろう。
「サンドラ、モニカ。見つかると面倒なので、僕達は隠れましょう」
「「はい」」
ウィルフレッドの視界に入らないように、僕達は柱の陰に隠れ、様子を窺う。
ありがたいことに、僕達の動きを見て察してくれた近衛兵達が、それとなく壁を作ってくれた。
「ん? お主、誰じゃ?」
「っ! ……デハウバルズ王国の第四王子であり、お前達を管理するウィルフレッドだ」
僕の時と全く同じように、ドレイク師団長がウィルフレッドを煽る。
ウィルフレッドはまんまと乗せられそうになるけど、かろうじて堪えて名乗った。
「それはそれは……ワシは近衛師団の団長を務める、ブラッドリー=ドレイクですわい」
表情こそにこやかだけど、目は明らかに笑っていないドレイク師団長が、ゆっくりと右手を差し出す。
さて……ウィルフレッドは、どんな反応を見せるかな。
「そうか、これからよろしく……と、言いたいところだが」
ドレイク師団長と握手を交わしながら、ウィルフレッドはゆっくりと周囲を見回すと
「なるほど……近衛師団は、想像以上に堕落しているみたいだ」
「ほう?」
「王都を守護すべき存在であるにもかかわらず、このようなところで昼間から酒に興じ、役割を果たそうとしない。本来、有事の際には誰よりも先んじてその身を挺す、誇り高い存在だと思っていたんだがな」
確かに、ウィルフレッドの言葉にも一理ある。
近衛師団は、建国時より王国を支えてきた誇り高い集団だ。そのせいで変なプライドを拗らせて、ついさっき僕も絡まれたんだから。
だけど、僕の時とコイツでは、意味が違う。
言うなれば僕は部外者であり、近衛師団に対して何の責任も負っていない。
一方で、ウィルフレッドはエイバル王より正式に近衛師団の統括を任されているんだ。にもかかわらず、これまで一度だって近衛師団に顔を出さなかったくせに、いきなりやって来てこの台詞はないだろう。
自分達を蔑ろにしていた組織のトップなんかに、ホイホイついていく近衛兵なんているものか。
「ではウィルフレッド殿下は、どうなさるおつもりで?」
「決まっている。そもそも近衛師団をこのようにしてしまった、師団長の責任は重い。ましてやこの俺が近衛師団の統括となったんだ。ブラッドリー=ドレイク師団長は小隊長に降格、ここにいるその他の者も、全員一兵卒からやり直してもらおう」
「「「「「…………………………」」」」」
近衛兵達が射殺すような視線を向ける中、ウィルフレッドはそのことに気づいていないのか、ドレイク師団長を見やって鼻を鳴らした。
「コールマン副団長、後は頼んだぞ。俺が言ったとおり、この者達を処分するように」
「は……っ」
意気揚々とこの場から出ていくウィルフレッドに、背の高い近衛兵……副団長の“エリオット=コールマン”は、眉根を寄せて敬礼した。
◇
「ああもう……タイミングの悪い……」
ウィルフレッドがいなくなって酒盛りが再開される中、コールマン副団長が頭を抱える。
「まあまあ、気にするな。せっかくウィルフレッド殿下があのように言ってくれたんじゃ、ワシものんびりさせてもらうわい」
酒ビンを片手に、コールマン副団長の背中をバシバシと叩くドレイク師団長……いや、元師団長か。
というか、ウィルフレッドの奴があんな処分を下したっていうのに、妙にゴキゲンじゃない? まるで、どこか楽しんでいるように見受けられるんだけど。
「だから困っているんじゃないですか! いつもいつも、後始末する私の身にもなってくださいよ!」
「まあ、そこはホレ、副団長じゃから仕方あるまい」
「こんな時だけ都合のいいように……」
あっけらかんとするドレイク師団長を、コールマン副団長がジト目で睨む。
やり取りを見る限り、どうやらこれが日常茶飯事みたいだ。その証拠に、他の近衛兵達も二人を見て笑っているし。
「だけど、どうなさるんですか? 一応は、アイツもエイバル陛下に任命されて近衛師団を任されたんです。さすがにこのままでは……」
「わっはははは! なあに、心配には及びませんわい! ハロルド殿下にもお話ししましたとおり、近衛師団は王国に仕えておるのであって、王族に仕えてはおりませぬ。それは、たとえ国王陛下であっても、我等を従えることなどできませんぞ」
そう言うと、ドレイク師団長は口の端を持ち上げた。
なるほどね……仕えしは王国。王族ではないって、格好いいじゃないか。
「エリオットよ。そういうことじゃから、ワシは今日限りで近衛師団を抜けるぞ」
「っ!?」
「ハア……分かりましたよ……」
ええー……そんなあっさり師団長の座を捨てていいものなの?。
だけど、コールマン副団長も溜息を吐きながらも受け入れているってことは、そういうことでいいんだろうな。
「わっはははははははははは!」
「あ、あははー……」
豪快に笑うドレイク師団長を見て、僕は乾いた笑みを浮かべた。
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