表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/333

主人公がここでもやらかしてくれました。

「これは何事だ!」


 ……よりによってウィルフレッドが、このタイミングで現れたよ。

 その後ろには、手で顔を覆ってしまったオカッパ頭の背の高い近衛兵の姿も。おそらく、『まずいところを見られたなあ』っていう心境なんだろう。


「サンドラ、モニカ。見つかると面倒なので、僕達は隠れましょう」

「「はい」」


 ウィルフレッドの視界に入らないように、僕達は柱の陰に隠れ、様子を(うかが)う。

 ありがたいことに、僕達の動きを見て察してくれた近衛兵達が、それとなく壁を作ってくれた。


「ん? お主、誰じゃ?」

「っ! ……デハウバルズ王国の第四王子であり、お前達を管理(・・)するウィルフレッドだ」


 僕の時と全く同じように、ドレイク師団長がウィルフレッドを(あお)る。

 ウィルフレッドはまんまと乗せられそうになるけど、かろうじて(こら)えて名乗った。


「それはそれは……ワシは近衛師団の団長を務める、ブラッドリー=ドレイクですわい」


 表情こそにこやかだけど、目は明らかに笑っていないドレイク師団長が、ゆっくりと右手を差し出す。

 さて……ウィルフレッドは、どんな反応を見せるかな。


「そうか、これからよろしく……と、言いたいところだが」


 ドレイク師団長と握手を交わしながら、ウィルフレッドはゆっくりと周囲を見回すと


「なるほど……近衛師団は、想像以上に堕落しているみたいだ」

「ほう?」

「王都を守護すべき存在であるにもかかわらず、このようなところで昼間から酒に興じ、役割を果たそうとしない。本来、有事の際には誰よりも先んじてその身を(てい)す、誇り高い存在だと思っていたんだがな」


 確かに、ウィルフレッドの言葉にも一理ある。

 近衛師団は、建国時より王国を支えてきた誇り高い集団だ。そのせいで変なプライドを(こじ)らせて、ついさっき僕も(から)まれたんだから。


 だけど、僕の時とコイツでは、意味が違う。

 言うなれば僕は部外者であり、近衛師団に対して何の責任も負っていない。


 一方で、ウィルフレッドはエイバル王より正式に近衛師団の統括を任されているんだ。にもかかわらず、これまで一度だって近衛師団に顔を出さなかったくせに、いきなりやって来てこの台詞(せりふ)はないだろう。

 自分達を(ないがし)ろにしていた組織のトップなんかに、ホイホイついていく近衛兵なんているものか。


「ではウィルフレッド殿下は、どうなさるおつもりで?」

「決まっている。そもそも近衛師団をこのようにしてしまった、師団長の責任は重い。ましてやこの俺が近衛師団の統括となったんだ。ブラッドリー=ドレイク師団長は小隊長に降格、ここにいるその他の者も、全員一兵卒からやり直してもらおう」

「「「「「…………………………」」」」」


 近衛兵達が射殺すような視線を向ける中、ウィルフレッドはそのことに気づいていないのか、ドレイク師団長を見やって鼻を鳴らした。


「コールマン副団長、後は頼んだぞ。俺が言ったとおり、この者達を処分するように」

「は……っ」


 意気揚々とこの場から出ていくウィルフレッドに、背の高い近衛兵……副団長の“エリオット=コールマン”は、眉根を寄せて敬礼した。


 ◇


「ああもう……タイミングの悪い……」


 ウィルフレッドがいなくなって酒盛りが再開される中、コールマン副団長が頭を抱える。


「まあまあ、気にするな。せっかくウィルフレッド殿下があのように言ってくれたんじゃ、ワシものんびりさせてもらうわい」


 酒ビンを片手に、コールマン副団長の背中をバシバシと叩くドレイク師団長……いや、()師団長か。

 というか、ウィルフレッドの奴があんな処分を下したっていうのに、妙にゴキゲンじゃない? まるで、どこか楽しんでいるように見受けられるんだけど。


「だから困っているんじゃないですか! いつもいつも、後始末(・・・)する私の身にもなってくださいよ!」

「まあ、そこはホレ、副団長じゃから仕方あるまい」

「こんな時だけ都合のいいように……」


 あっけらかんとするドレイク師団長を、コールマン副団長がジト目で睨む。

 やり取りを見る限り、どうやらこれが日常茶飯事みたいだ。その証拠に、他の近衛兵達も二人を見て笑っているし。


「だけど、どうなさるんですか? 一応は、アイツもエイバル陛下に任命されて近衛師団を任されたんです。さすがにこのままでは……」

「わっはははは! なあに、心配には及びませんわい! ハロルド殿下にもお話ししましたとおり、近衛師団は王国に仕えておるのであって、王族に仕えてはおりませぬ。それは、たとえ国王陛下であっても、我等を従えることなどできませんぞ」


 そう言うと、ドレイク師団長は口の端を持ち上げた。

 なるほどね……仕えしは王国。王族ではないって、格好いいじゃないか。


「エリオットよ。そういうことじゃから、ワシは今日限りで近衛師団を抜けるぞ(・・・・)

「っ!?」

「ハア……分かりましたよ……」


 ええー……そんなあっさり師団長の座を捨てていいものなの?。

 だけど、コールマン副団長も溜息を吐きながらも受け入れているってことは、そういうことでいいんだろうな。


「わっはははははははははは!」

「あ、あははー……」


 豪快に笑うドレイク師団長を見て、僕は乾いた笑みを浮かべた。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼8/19に書籍第1巻が発売します! よろしくお願いします!▼

【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ