実力が認められ、主人公ではなく僕が受け入れられました。
「では……はじめ!」
ドレイク師団長の合図により、近衛兵との立ち合いが開始された。
さて……当然ながら僕は盾のみなので、ひたすら相手の攻撃を受け止めるだけ。向こうから仕掛けて来るまで、僕はただジッと亀のように待つのみだよ。
もちろん。
「どうしたの? 君が攻撃してこなければ始まらないよ。僕は別に、ただ待っているだけだから構わないけど」
「っ!」
そうそう。僕は盾役なんだから、ちゃんとこうやってヘイトを溜めておかないとね。
おかげで近衛兵も、これでもかってくらい睨んでいるよ。
「うおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
ただでさえしびれを切らしてイライラしているところに、僕に煽られたものだから、たまりかねた近衛兵は、剣を上段に構えて突撃してきた。
正直隙だらけだし、これなら楽勝で攻撃を捌けるよ。
「バカモンが……」
僕の視界の端で、ドレイク師団長がかぶりを振って嘆いている。
戦場で冷静さを失ったら、それこそ命取りになるからね。
「っ!?」
「甘いよ」
本当は攻撃するつもりなんか一切なかったのに、あまりにも動きが遅くて隙しかなかったから、盾で思いきりぶん殴ってやった。
ただ、悲しいかな物理攻撃力が最弱のハロルドなので、全然効いている様子はないけどね。
「ほらほら、どうしたの? 盾なんかの攻撃を受けるなんて、本当にそれで近衛兵なのかなあ?」
「このおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
ますます冷静さを欠き、近衛兵が闇雲に攻撃を仕掛けてくるけど、僕はただ作業のようにそれを受け止め、躱し、いなす。
戦争もなく、実戦経験に乏しい近衛兵じゃ、これが限界なのかもしれない。
一方で、僕はヘンウェンやギガントスプリガン、ガルグイユといった大型魔獣達と、相棒のキャスとともに渡り合ってきたんだ。
モブ敵扱いの近衛兵なんか、相手にならないよ。
ただ。
「うわあ……僕、こんなに強くなったんだね……」
特訓相手はサンドラだし、それ以外にも戦った相手が相手だけに、モブ敵との差がこれほどあるとは思いもよらなかった。
しかも、通常『エンハザ』におけるモブ敵との戦闘は、常に複数を相手取っているから、こうやって一対一になればその差は歴然だ。
たとえそれが、難易度ベリーハードだとしても。
「くそ……くそおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
攻撃が全く通用せず、近衛兵は今にも泣きそうな表情で喚き、剣を振り回す。
ちょっと可哀想になってきたけど、僕だって負けるわけにはいかないんだから、しょうがないよね。
そして。
「それまで! この勝負……ハロルド殿下の勝ちじゃ」
とうとう近衛兵の心が折れてしまい、ドレイク師団長は僕の勝利を宣言した。
◇
「わっははははははは! まさかハロルド殿下がここまでの実力者だったとは、このブラッドリー=ドレイク、感服いたしましたぞ!」
「あ、あははー……」
近衛兵との立ち合いの後、どういうわけか酒盛りが始まってしまいました。
しかも。
「ハロルド殿下! 次はこの俺と闘ってください!」
「テメエ! 抜け駆けすんなよ!」
とまあ、他の近衛兵達から次々と勝負を挑まれる始末。
ただ、それは仲間が敗北したことによる敵討ち的なものではなく、僕と闘いたいっていう純粋な思いだということが分かる。
こんなことを言うと失礼かもだけど、ドレイク師団長をはじめ、近衛師団はただの脳筋だってことが分かったよ。
だって、実力さえ認めれば、たとえ『無能の悪童王子』であっても、こうして気さくに接してくれるんだから。
「ふふ……ここにまた、ハル様を理解してくださる方達ができて、本当によかったです」
「うん……」
はしゃぐ近衛兵達を眺め、隣に座るサンドラが嬉しそうに微笑む。
だけど、僕のことを最初に理解してくれたのはサンドラだし、ずっと信じ続けてくれているのも君なんだけどね。
そのことが、僕をどれだけ支えてくれていることか。
「ところで……実は、ここに見学に来たというのはもちろんそうなのですが、ウィルフレッドの奴が近衛師団を統括する立場になったことについて、みんながどう考えているのか知りたかったんです」
「ふむ……」
多少くだけてはいるものの、口調を敬語に戻した僕は、ドレイク師団長に尋ねる。
指揮系統が二つあるというこの異常な状況について、僕はこの目で確かめる意味で、ここに来たのだから。
「ハロルド殿下! そんなの、俺達が認めるわけがないじゃないですか!」
「そうですよ! いくら王命とはいえ、師団長を蔑ろにするような真似、到底許せません!」
分かり切っていたこととはいえ、近衛兵達は誰一人としてウィルフレッドを歓迎していなかった。
ただ無言で注がれた酒を飲み干すドレイク師団長も、同じ思いなのだろう。
「しかもですよ! ウィルフレッド殿下は近衛師団の統括に任命されてから、まだ一度もここに顔を見せたことがないんです! 所詮は俺達のこと、ただの道具くらいにしか思ってないんですよ!」
「ええー……」
オイオイ、さすがに組織のトップになったんだから、ちゃんと顔くらい出しておけよ……。
とはいえ、そのおかげで僕が近衛師団と親密になれたんだけど。
憤るみんなを眺め、そんなことを考えていると。
「これは何事だ!」
……よりによってウィルフレッドが、このタイミングで現れたよ。
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