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最推しの婚約者との特訓の成果を見せつけてやることにしました。

「知らないよ。別に僕が近衛師団を預かるわけじゃないんだし。ただ……その無礼な態度を見過ごせるほど、『無能の悪童王子』である僕は、人間ができてはいないんだよ」

「っ!?」


 まさか僕が、これだけの殺気を向けられてもなお、こんなふうに返してくるとは思ってみなかったんだろう。

 ドレイク師団長は、あからさまに面食らっているよ。


「まあいいや。こんな人を馬鹿にすることしかできないような近衛師団なんだ。なら、なおさらアイツにはお似合いだね。行きましょう、サンドラ」

「ふふ……はい」


 なぜかサンドラは、どこか熱を帯びた視線を向け、嬉しそうに僕の手を取った。

 むしろ僕、ドレイク師団長に対してかなり生意気で失礼な態度だったと思うんだけどなあ……。


 僕は首を傾げつつ、サンドラ達と一緒にこの幕舎を後にしようとして。


「えーと、邪魔なんだけど」

「……せっかくですから、ハロルド殿下も我々の訓練に参加してみてはいかがですかな? 我々近衛師団を誤解されておられるようなので、我々がどういうものか身をもって知っていただくのが一番かと」


 ふうん……訓練にかこつけて、僕を痛めつけようって魂胆なのかな。

 だけど、僕はこの後サンドラとのいつもの特訓を控えているから、そんな時間はないんだけどなあ……って。


「え、ええとー……」

「ハル様、せっかくドレイク卿がお誘いくださったのですから、お受けするのも一興かと」


 僕の手を引き、サンドラはニタア、と口の端を吊り上げてそんなことを告げた。

 どうやら彼女は、逆に痛い目に遭わせるつもりらしい。


「ハア……僕の婚約者もそう言っているので、せっかくですから参加させてもらうよ」

「おお! さすがはハロルド殿下ですな! 話が分かる!」


 僕は溜息を吐いてそう言うと、ドレイク師団長は目を見開いた後、愉快そうに僕の肩をバシバシと叩いた。

 このオッサン、主人公の師匠ポジだけあって、メッチャ力が強いなあ。痛い。


「じゃあ、訓練着に着替えてくるから」

「お待ちしておりますぞ! これ、殿下を案内するのだ」

「はっ!」


 近衛兵の一人を案内役として、僕達は更衣室へと向かう。


「……こう申し上げてはなんですが、ハロルド殿下では俺達の訓練についていけないですよ?」


 余計な気遣いなのか、それとも、その言葉を真に受けて逃げ出す僕を嘲笑(あざわら)いたいのか、近衛兵はそんなことを忠告した。


「まあ、訓練の邪魔にならないように、適度に頑張るとするよ」


 僕は近衛兵に向けて、余裕の表情を浮かべた。


 ◇


「ほう……ハロルド殿下は盾のみ(・・・)で、本当によろしいのですな?」

「もちろん」


 訓練着に着替えた僕に、ドレイク師団長が何度も念を押す。

 どうやら彼も、カルラと立ち合いをした時のカーディスや他の面々と同様、馬鹿にするつもりなんだろうな。


 そう、思っていたんだけど。


「あんな盾だけで、どうするつもりなんだよ」

「それでうちの師団長に、あれだけの啖呵(たんか)を切ったんだから、やっぱりハロルド殿下は噂どおり……」

「静かにせんかッッッ!」

「「「「「っ!?」」」」」


 驚いたことに、僕を見て嘲笑(ちょうしょう)を浮かべている近衛兵達に対し、ドレイク師団長が怒鳴りつけた。ちょっと意外。


「ハロルド殿下、部下が失礼いたしました。お許しくだされ」

「いや、慣れている(・・・・・)から別に構わないよ」


 最初の時とは明らかに違い、ドレイク師団長は真摯に謝罪した。


「それで、近衛師団の訓練はどうすればいいのかな?」

「おっと、そうでしたな。我々近衛師団は、基礎の出来ていない新兵はともかく、主に実戦形式での手合わせを中心に行っております。なのでハロルド殿下には、まずは基礎から……」

「そういうことなら、僕も手合わせをさせてもらうとするよ」


 ドレイク師団長は僕が素人だと思っているみたいなので、そうではないのだと暗に告げると。


「わっはははは! そうですな! 殿下が素人であったなら、わざわざ盾など選びますまい!」


 豪快に笑うドレイク師団長に背中をバシバシと叩かれ、僕は思わずジト目を向けた。

 というか、もう少し力加減を考えてほしいんだけど。


「では、ハロルド殿下の相手は、あの者に務めさせましょう」


 そう言ってドレイク師団長が指差したのは……へえ、まさか橙色の腕章を着けている近衛兵が相手とはね。


 『エンハザ』におけるドレイク師団長の『試練』イベントには、当然ながら難易度が設定されており、敵として登場する近衛兵達は、最も簡単なイージーの場合は青の腕章を、最大難易度のアルティメットでは赤の腕章を身に着けている。

 なので、橙色の腕章を着けている近衛兵は、難易度はベリーハードという位置づけだ。


 これは、僕に痛い目に遭わせるためにレベルが違う相手をぶつけるという趣旨なのか、それとも、僕の実力がベリーハードに達していると評価したということなのか、ちょっと判断がつきかねるけど。


「これは、楽しみになってきたわい」


 あ、どうやら後者みたいだ。


「よろしくね」

「…………………………」


 右手を差し出すものの、近衛兵は握手を交わすことなく、仏頂(づら)で木剣を構えた。

 べ、別に無視されたって、悲しくなんかないからね!


 だけど、いつの間にか他の近衛兵達は手を止め、僕の手合わせを見ようと取り囲んでいるよ。

 おそらく、盾しか持たない僕が、どんな闘いを見せるのか……どんな無様な姿を見せるのか、注目しているんだろうね。


 なら、その期待を裏切ってやる。

 今も僕の勝利を疑わず、真っ直ぐな瞳で見つめてくれている、僕の『大切なもの』達のために。


 僕の……最推しの婚約者のために。


「では……はじめ!」

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