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主人公の師匠(予定)とエンカウントしました。

「……お兄様。どうしてあの(くず)が近衛師団を任されたことを、教えてくださらなかったのですか?」


 はい、ハロルドです。

 僕は今、ジュヴァリエ家のタウンハウスにて、サンドラから絶対零度の視線を向けられているセドリックを、横で眺めております。


「し、心配はいらないよ、アレクサンドラ。近衛師団には、シュヴァリエ家の息のかかった者も多くいるからね。それに……彼では、近衛師団をまとめることなど絶対に不可能だ」

「というと?」

「近衛師団には、“ブラッドリー=ドレイク”師団長がいる」


 あれ? ブラッドリー=ドレイクって名前、聞いたことが……って。


「ああああああああああああああ!?」

「っ!? ハ、ハル様、どうなさいました!?」


 その名前を思い出して叫んでしまった僕の顔を、サンドラが心配そうに(のぞ)き込む。

 いや、すっかり忘れていたよ。


 彼……ブラッドリー=ドレイクという男は、『エンゲージ=ハザード』において主人公の師匠となる人物だ。

 軍人の(かがみ)といえるような壮年の男で、厳格ではあるものの柔軟な思考も持ち合わせているという設定で、主人公に『試練』という名の経験値やクレジット、強化素材などを入手するためのイベントにおける、管理者的な立場として存在している。


 いやあ、まさかそんなキャラが、近衛師団長をやっているなんて思いもよらなかった。

 そうすると、むしろ主人公との相性もよさそうだし、セドリックの『心配はいらない』という言葉が一切当てにならないんだけど。


 というか。


「そ、そのー……ウィルフレッドが近衛師団を統括する立場になったのに、師団長がいるというのはおかしくはないですか? これでは、指揮系統が二つ存在することになると思うのですが……」

「そのとおりだ。私が『心配いらない』と言ったのも、この点に尽きる。そもそも、近衛師団の兵達は全員ドレイク師団長を慕っており、今回のことをよく思っている者は一人もいない」

「あー……ですよね……」

「それに、万が一のことがあった時のために、副団長を務める“コールマン”子爵には話をしてある。『決して、ウィルフレッド殿下のいいようにさせてはならない』とね」


 セドリックは糸目を少し開け、口の端を持ち上げた。

 どうやら既に、根回しも万全みたいだよ。


「そういうことでしたか……では、あの()は近衛師団ではただのお飾り以下に成り下がる、ということですね」

「いやいや、もっと酷い扱いを受けることになるだろうな」


 いやあ、僕の婚約者と義理の兄が、とても悪い顔をしているよ。

 でも……『エンハザ』では師弟関係にあった二人だ。セドリックの言ったように、上手くいく保証はない。


 ということで。


「へえ……ここがそうか」


 僕はサンドラとモニカ、それにキャスを連れ、王宮から馬車で二十分の場所にある、近衛師団の幕舎へとやって来た。

 事前に聞いたモニカの説明によると、ここには千人の近衛兵が常駐しており、有事に備えて日々訓練を重ねているらしい。


 この近衛兵になるためは厳しい選抜をくぐり抜ける必要があり、志願者は多いものの、その倍率はおよそ百倍と、かなりの狭き門だ。

 一言で言ってしまえば、王国の軍事エリート集団ってところかな。


「お、やってるやってる」


 近衛兵達が訓練をする様子を、僕達は遠巻きに眺める。

 うん、まあ……サンドラの特訓のほうが、比べ物にならないほど厳しいんだけど……って。


「こりゃあああああッッッ! もっと気合いを入れんかあああああッッッ!」


 訓練を黙々とこなす近衛兵の中に、ひと際大きな声で叫ぶ、白い髪と髭の壮年の男性。

 間違いない。彼こそが、近衛師団長のブラッドリー=ドレイクだ。


 僕は周囲を確認すると……うんうん。ウィルフレッドの奴は、ここにはいないな。そういうことなら、遠慮はいらないね。


「失礼します。ちょっと見学をさせてほしいんですけど……」

「そこ! もっと腰を入れんかい! ……って、ん? なんじゃお主、新兵か?」


 どうやらドレイク師団長は、僕のことを知らないみたいだ。

 だけど、それも当然か。だって彼は、少なくとも僕が出席した王室主催の行事に、一度だって顔を出したことがないから。


 とはいえ。


「……失礼ですが、師団長というものは、この国の第三王子であらせられるハル様に対し、新兵呼ばわりするという不敬が許されるほど、偉いお立場なのでしょうか?」


 僕の最推しの婚約者が、許すはずないよねー……。

 もちろん、僕は別にドレイク師団長に喧嘩を売りに来たわけじゃないので、彼女を全力でなだめておりますよ?


「なんと、これは失礼いたしました。ワシは近衛師団で兵達を預かっております、ブラッドリー=ドレイクと申します」


 ドレイク師団長は慌てて(ひざ)をつくものの、声色やその表情などを見ても、全然謝ってないよね? むしろ、僕のことを馬鹿にしているのがありありと分かるんだけど。

 まあ、だからといってそのことを(とが)めるつもりもないし、そもそも僕は、ここには興味本位で来てみただけだからね。


 だけどさあ……。


「「「「「…………………………」」」」


 他の近衛兵達から、馬鹿にするような視線を受ける筋合いはないんだよ。


「ところで、ハロルド殿下……であっておりますかな? 殿下はどうして、このようなむさくるしいところへ?」

「別に。弟がここの責任者になったって聞いたから、どんなところなのか興味があって来てみただけだよ。だって……アイツでもできる程度の役割なんだろう?」


 なおも僕を舐めるような態度を取るドレイク師団長に対し、僕も敬語をやめて、あえて小馬鹿にしてやったよ。

 案の定、近衛兵達は殺気立ったけど。


「そうですなあ。確かにハロルド殿下のおっしゃるとおり、この連中の上に立つことは難しくないかもしれませぬ。ただし」


 それまでの飄々(ひょうひょう)とした態度から打って変わり、ドレイク師団長が殺気を込めた鋭い視線を向ける。


「我々近衛師団、仕えしはデハウバルズ王国のみ。たとえこの国の王子であろうと、易々と従えることができるとは夢にも思わぬことですな」


 なんだ。セドリックの言っていたとおり、やっぱりウィルフレッドが自分達の上に就いたことを、快く思っていないんじゃないか。

 ひょっとしたら僕に対しての失礼な態度も、そのことが根っこにあるのかもしれないね。


「知らないよ。別に僕が近衛師団を預かるわけじゃないんだし。ただ……その無礼な態度を見過ごせるほど、『無能の悪童王子』である僕は、人間ができてはいないんだよ」

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