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最高の成果を持ち帰ったら、主人公が出世していました。

 王太子のジャンによるクーデターは、僕達の活躍によって失敗に終わった。


 カペティエン王国はクーデターに加担した者を徹底的に調査し、その結果、騎士団長以下百人以上の関与が判明した。

 その結果を受け、サロモン王は百人全ての者に加え、一族郎党も処刑するという苛烈な処分を下す。


 二十を超える貴族家が取り潰しとなり、王国騎士団もほぼ壊滅状態。

 取り潰した貴族家から没収した財産によって国庫は潤ったものの、国の直轄領となった領地経営や王宮警備もままならない状態となっており、早急な人材の補填(ほてん)が急務となっていた。


 そして。


「エリーヌ=ヴァネッサ=ド=カペティエンを、王太女に任命する」

「このエリーヌ、確かに拝命いたしました」


 クーデターを阻止してからまだ二週間しか経っていないというのに、サロモン王は王太女の任命式を執り行ったのだ。

 もちろん、クーデター鎮圧の立役者としてエリーヌは王国内で大々的に喧伝(けんでん)され、国民も新たな後継者の誕生に大きな歓声で応える。


「それで、これからどうしますか?」

「そうねえ……あなた達と一緒にデハウバルズ王国に行くという話は、今回の件でなくなってしまったもの。しばらくは、妹の手助けでもしてあげるわ」


 任命式を見に来た民衆の中に紛れているリゼットが、肩を(すく)めて告げた。

 本来なら王族の席で出席するべきなのに、彼女が拒んだのだ。


「その後は?」

「その後……そうですわね。私、実はこのカペティエン王国から……いえ、この王都サン=ジュヌからすら外に出たことがありませんの。せっかくだから、ここ以外の場所がどんな所なのか、見て回るのもいいかもしれないわね」

「あはは、ですね」


 曇りのないアメジストの瞳で民衆に向かって笑顔で手を振るエリーヌを見つめ、リゼットは微笑む。

 どうやら彼女は、既にもうこれからの自分のあり方というものを決めているみたいだ。


「でしたら、なおさらデハウバルズに来ていただかないと。僕達は、親友(・・)のあなたを歓迎しますよ」

「もちろんよ。旅の始まりは、親友(・・)のあなた達がいる国からに決まっているわ」

「ふふ……リゼット殿下がお越しになられるのを、楽しみに……」

「“リゼ”」

「「え……?」」

「わ、私達は親友(・・)なんでしょう? でしたら、特別に“リゼ”と呼ぶことを許して差し上げるわ」


 顔を真っ赤にして、リゼット……いや、リゼは、尊大に告げた。

 あはは。こんなことがあっても、ツンデレな『ポンコツ悪女』は変わらないみたいだ。


「そうですね。だったら僕はハルで」

「私のことは、サンドラとお呼びください。リゼ様」

()も不要よ! ちゃんとリゼって呼んで! サンドラ!」

「仕方ありませんね、リゼ」


 民衆の歓声が響き渡る中、僕達はたくさん笑い合った。

 かつて敵国だった地で、『大切なもの』に出逢えた喜びで。


 ◇


「ふう……それにしても、色々あったものの、無事に親善大使としての役目を果たせて、ホッとしました」


 デハウバルズ王国へと向かう船の甲板で、僕は深く息を吐く。

 薄々こんな予感はしたものの、案の定『エンハザ』のヒロインであるリゼのシナリオが発生して、それを解決した上で彼女の留学の約束も取りつけることができた。


 サロモン王からも非常に感謝され、これ以上の成果は期待できないんじゃないかな。


「はい、さすがはハル様です。本当に、あの(くず)が今回の使節団に同行しなくてよかったと、心から思います。もしついてきておりましたら、間違いなく今回の訪問が失敗に終わったでしょうから」

「あ、あははー……」


 海を見つめ、クスリ、と微笑むサンドラ。

 辛辣な言葉に苦笑しつつも、彼女の言うとおりなので頷くばかりだよ。


「だけど、油断はできませんよ。僕達がカペティアン王国へと出立する時、ウィルフレッドの奴は何か思惑があるようでした。それを考えれば、戻った時に僕達にとって予想外のことが起きている可能性もあります。警戒しておくに越したことはないでしょう」

「そうですね……お兄様からは『王宮内でおかしな動きはない』と連絡をいただいているものの、姑息なあの(くず)のことですしね……」


 僕達がカペティエン王国に滞在している間、伝書鳩によってセドリックと手紙のやり取りをしているけど、彼女の言うとおりデハウバルズ王国は平穏という連絡と、サンドラを心配する内容のものしかなかった。


 だからこそ、僕は余計に不安に駆られてしまう……って。


「大丈夫です。たとえあの(くず)が何かを仕掛けてきても、私がおります。モニカが、キャスが、シュヴァリエ家が……いえ、これまであなた様が築いてきた全てのものが、きっとハル様を守ってみせます」

「……そう、ですね」


 僕の手を取って胸に抱き、サンドラは慈愛に満ちた瞳で僕を見つめる。

 それだけで僕は、あっという間に不安が消え去って、何でもできる気になるんだ。


「あはは! あと数時間で王国に帰るんです! しばらくは、今回の旅の疲れを癒すことにしましょう!」

「はい!」


 目の前に迫るデハウバルズの大地を見つめ、僕達は肩を寄せ合い微笑んだ。


 そして。


「ハロルド兄上。俺はこの度、父上……エイバル陛下から、近衛師団を任されることになりました」


 頼んでもいないのに僕達使節団を出迎えたウィルフレッドが、それはもう憎たらしい笑みを浮かべてそんなことを自慢してきたよ。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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