黒幕の裏に、怪しげな男の存在が浮上しました。
「お……れ、は……」
ガルグイユが沈黙してから、およそ三分。
その巨体かつ禍々しい姿は失われ、残ったのは僕達の攻撃によってボロボロになり、白い砂へと徐々に変化してゆくジャンの身体だった。
「実の母親であるポーラ王妃の生命を奪い、僕達にあっけなく倒されたんだよ。もう、オマエに残された時間は、ほぼない」
「そう、か……」
現実を突きつけてやったけど、ジャンはどこかすっきりした表情で、そう答えた。
「結局……俺、は……ただ操られただけ……か……」
「なあ、ジャン。どうしてオマエは、準備も満足に整っていないこのタイミングで、クーデターなんて無謀なことをしたんだ?」
既に下半身が白い砂に変わり、残された時間は一分もないかもしれない。
それでも、僕はとうしても知りたかった。
『エンゲージ・ハザード』本編を含め、ただサロモン王が寿命で死ぬのを待てば、自動的に次の王になれるにも関わらず、なぜこの男は王位簒奪という道を選んだのかを。
「サロモン王は……父は……いつ……死ぬ、というのだ……」
「それは……」
「一、年後か? ……それ……とも、三年後……十年、後……あるいは、その……先、かも……しれない……その間、俺もまた年、を……重ねる……のだ……」
ハア……本当に、愚かだね。
もう少しまともな理由があるのかと思えば、自身の野望を叶えるために、ただ焦っていただけなんて。
大体、オマエの野望……世界征服なんて、たとえクーデターが成功していたとしても、オマエが生きている間に叶えることなんて不可能だというのに。
その結果がこれなんだから、結局は報われないまま終わるんだ。
僕みたいに、『エンゲージ・ハザード』のハロルドとは違う生き方を選べたら、違う景色が見れたかもしれないのに。
「もう一つ。『陽光聖剣デュランダル』と、液体に入った眼球……『ガルグイユの眼』を、どうやって入手した?」
UR武器も『ガルグイユの眼』も、少なくともカペティエン王国で入手できる代物じゃない。
ましてや、その存在すら知らないはずのジャンが、探すなんてことができるわけがないんだ。
「……“ウリッセ”」
「え……?」
「あの男、は……そう、名乗って…………………………」
ジャンは、これ以上話すことはなかった。
その身体が、全て白い砂となってしまったのだから。
「“ウリッセ”、か……」
ジャンが最後に教えてくれた、『陽光聖剣デュランダル』と『ガルグイユの眼』を渡したとされる人物。
どうしてウリッセという男がそれらを持っていたのか、それは分からない。
「ハル様……」
「うん……」
サンドラが、白い砂をつかむ僕の手に、そっと小さな手を添える。
彼女もまた、僕と同じ予感がするのかもしれない。
いずれ、ウリッセという男と、相まみえるその時を。
◇
「ジャン……馬鹿め……っ」
王宮の謁見の間において、僕から全ての顛末の一部始終を聞き終えると、サロモン王は絞り出すような声で呟いた。
その言葉からも、サロモン王はジャンに対して期待をかけていたのかもしれない。
「ジャン殿下は命を落とされましたが、騎士団長をはじめ、クーデターに加担した者がまだ多く残っております。今後、同じようなことが起こらないようにするためにも、サロモン陛下には厳正なる処分をいただきますよう」
「分かっておる……っ! 一歩間違えれば、この国が終わっておったかもしれんのだ! クーデターに加わったものは、一族郎党含め、ただでは済まさぬッッッ!」
顔を真っ赤にし、怒りで玉座のひじ掛けを殴りつけたサロモン王。
いや、本当に、しっかりお願いしますよ。
そうじゃないと、次の王……いや、女王か。リゼットが困ることになってしまうから。
「それと、今回のクーデター鎮圧において、リゼット殿下は見事に指揮を執られ、ご自身も勇敢に立ち向かわれました。このことは、カペティエン王国内に広く知らしめるべきかと」
「うむ! そのとおりだ! 王太子であったジャン亡き今、次を担うのはリゼットを置いて他には……」
「あら? そうなんですの?」
「お姉様!?」
今までずっと傅いていたくせに、急に立ち上がって微笑むリゼット。
おかげで隣にいるエリーヌが、困った顔をしているよ。
「でしたら、これからは王太女として贅沢し放題ですわね。ちょうど新しいドレスが欲しかったところですし、全部新調しようかしら。お金も全部、下々の者が貢いでくれますもの」
「な……っ!?」
ええー……リゼットめ、ここにきて悪女ムーブをかましてきたよ。
おかげでサロモン王、口をあんぐり開けているんだけど。
とはいえ、そんなことをした意味が分からないほど、僕達は馬鹿じゃないけどね。
「そういうことですので、ぜひともこの私を、王太女に任命してくださいませ。楽しみにしておりますわ、お父様」
「むむ……」
サロモン王も分かっているようで、頭を抱えているよ。
まあ、しょうがないから、僕も手を貸すかー……。
「サロモン陛下。活躍なさったのはリゼット殿下だけではありません。同じく、エリーヌ殿下の協力があってこそ、ジャン殿下達を追い詰めることができたのです」
「ハロルド殿下!? わ、私は何もしていないではありませんか!?」
いやあ、エリーヌには申し訳ないけど、今回はリゼットに加担させてもらうよ。
一人くらい、悪女の味方がいたっていいよね?
「ハア……もうよい。皆、下がれ」
こめかみを押さえ、サロモン王は追い払うような仕草を見せる。
僕達は立ち上がると、一礼して謁見の間を出た。
「……本当に、いいんですか?」
「いいのよ……悪女の私が女王なんて、それこそ国が滅ぶと思わない?」
そう言って、リゼットはおどける。
彼女は、自分が後継者となれば、貴族達が反発すると考えたみたいだ。
「不器用な女性ですね。まあ、親友としては嫌いじゃありませんよ」
「そう? ならよかったわ」
リゼットはどこかすっきりしたような、清々しい笑顔を見せた。
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