『大切なもの』とともに、一方的に蹂躙しました。
「わ……私だって、カペティエン王国第一王女、リゼット=ジョセフィーヌ=ド=カペティエン! 兄の不始末は、妹であるこの私が後片付けをして差し上げますわッッッ!」
僕の後ろで、このシナリオのメインヒロインであるリゼットが、高らかに……尊大に吠えた。
「い、いやいや!? 何をしているんですか! 早く逃げてくださいよ!」
「逃げる? ハロルド殿下、馬鹿なことを言わないでちょうだい。この私が、少々大きくなった角の生えたコウモリごときに、背中を見せるわけがないでしょう?」
振り返って叫ぶ僕に、リゼットは口元に手の甲を当ててクスクスと嗤う。
ああもう、こんな時に悪女ムーブなんて求めてないから! というか、『少々大きくなった』って、明らかに十メートル近くあるからね? ……って!?
「ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアッッッ!」
「チッ!」
僕ではなくリゼットに向けて放たれた火球を、僕は慌てて防いだ。
ああもう、しょうがないなあ……。
「リゼット殿下! そこにいられたら守れません! モニカと一緒に、早く僕の後ろに!」
「! 分かったわ……って、キャアアアアアアアアア!?」
「お任せください」
モニカがリゼットを抱え、素早く僕の後ろへ身を隠した。
さすがは僕の専属侍女。揶揄う癖さえなければ、メッチャ優秀だよ。
「それで、エリーヌ殿下は?」
「ご安心ください。無事に退避を終えております。この場にいるのは、私達のみです」
よし、これで心置きなく、ジャンを……いや、ガルグイユを倒せる……んだけど。
「その……リゼット殿下。おそらくジャン王子を救うことは、もう……」
「余計な気遣いは無用よ。元々、私とお兄様の間に、家族の情のようなものはありませんもの。遠慮はいりませんわ」
そう答え、リゼットは寂しく微笑む。
ジャンを救えないことに対してのものなのか、『家族の情のようなものはない』と言ったことへの侘しさなのか、それは分からない。
だけど……僕にできることは、この戦いをすぐに終わらせて、少しでもリゼットが悲しまずに済むようにするだけだ。
「サンドラ! キャス! モニカ! そして……リゼット殿下! あの魔獣を、僕達で倒すんだ!」
「はい!」
「うん!」
「お任せください」
「オーッホッホッホ! 当然ですわ!」
といっても、僕がやるべきことは変わらないので、『漆黒盾キャスパリーグ』でガルグイユの攻撃を防ぎ、愚直に前に進むだけ。
でも、それでこの『大切なもの』を守れるんだから、最高の役目だよ。
「ふふ……ハル様の背中に守られるというのは、こんなにも嬉しく、こんなにも幸せなのですね……」
「任せてください。これからもずっと、僕が君を守り続けます」
「はい。私はあなた様の婚約者で、本当に幸せです……」
サンドラの心から嬉しそうな声を聞けて、僕はますます張り切ってしまう。
そうだよ。彼女がいるだけで、僕は何だってできるし、どこまでも頑張れる。
たとえハロルドに、バッドエンドしか用意されていないのだとしても。
それでも僕は、彼女との幸せのために、それすらも乗り越えてやる。
「ッ!?」
「到着、だよ」
火球の弾幕をくぐり抜け、ついに僕達はガルグイユの足元まで到達した。
あとは……ただ、蹂躙するのみ。
「みんな……行けえええええええええええええええッッッ!」
「はい!」
「お任せください」
「ボクだって! 【スナッチ】!」
僕の声に合わせ、サンドラとモニカが左右から飛び出し、災禍獣キャスパリーグの巨大な爪の幻影がガルグイユに襲いかかる。
あはは、ここまで接近されてしまったら、スキルを放つ前にこちらが一方的に攻撃するだけだよ。
「ッ!? グアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?」
サンドラの『バルムンク』によって斬り刻まれ、モニカのダガーナイフが容赦なく急所を捉え、キャスの爪が無慈悲に抉る。
ガルグイユはなす術もなく、悲鳴を上げるだけ。
「あ……圧倒的、ですわ……」
「ええ。ですが……これが、僕の『大切なもの』です」
そのあまりの光景を見て呟くリゼットに、僕は誇らしげに頷いた。
どうだい、みんなすごいよね。『エンハザ』のヒロインじゃなくても、名前すら登場しないモブでも、UR武器でなくても、噛ませ犬以下の存在でも、僕達は誰にも負けないよ。
たとえそれが、主人公やラスボスであったとしても。
そして。
「ガ……グ……オ……オ……」
原型を留めないほどに全身を弄られたガルグイユは、地面にその身を投げ出し、溶岩のように燃え滾る鮮血を流して沈黙した。
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