異世界のお偉いさんはこんな考えでした!
8話目です。
短めのお話になります。
よろしくお願いします。
目の前で息絶えた異世界の勇者を、王子達は見下ろしていた。
目障りな魔王も、忌々しい異世界の勇者も滅び去った事に、王子達は歓喜した。
全てが上手く行ったと、笑いが止まらなかった。
異世界の王国にて生を受けた王子達は、地位と血筋、類まれな美貌、魔力の全てを得ていた。
故に魔王が顕現しても、自分達がこの時代の勇者として、世界を救う存在となる事を疑いもしていなかった。
彼等の親である、王侯貴族全てがそう思っていた。
だが、実際に魔王が現れた時、勇者として選ばれたのは、唯の平民達であった。
彼等にとっては悪夢のような出来事であった。
何かの間違いだ、間違いであって欲しい、いや、間違っているに違いない。
そんな考えもあり、勇者達に対しての支援は殆ど行われなかった。
その結果が勇者パーティーの敗北。
やはりそうだった。
嘗ての勇者達はどんな困難であってもそれを跳ね除け、魔王を倒してきた。
だからこそ、負けた勇者達は偽物で、本物はこれから現れる……そう思っていた。
偽勇者達は言うなれば、真打が登場するまでの繋ぎに過ぎない。
そう思っていた彼等に、女神から告げられた残酷な真実。
敗れた勇者達は真の勇者であり、彼等が敗北した以上、この世界には魔王を倒せる者は存在しない。
女神が直接魔王を滅ぼすという選択は無い。
女神の直接介入は、その対となる邪神の介入を意味する。
そうなったら、人類も魔物も関係なく、この世界は終わる。
人類に出来る事は、新たな勇者が誕生するまでの間、耐え抜くだけという事だけである。
だが、現魔王の力は歴代でも突出していた。
勇者を欠いた人類ではとてもじゃないが対抗出来ない。
つまり、この世界の人類は詰んだのだ。
ある一点の方法を除いて。
その方法とは、異世界からの勇者召喚である。
この世界に魔王を倒せる存在が居なければ、他から喚び出せば良いという考えである。
色々な制約や問題があるが、成功すれば世界は救われる。
やらない手は無かった。
召喚の儀式は急ピッチで進められた。
召喚陣の錬成、魔力供給や触媒の準備等、国家が傾きかねない程の資材と人材、費用が消費された。
そして遂に準備が整った。
勇者召喚に際して、成否も勿論だが、召喚された勇者が正常に機能するかという問題もあった。
能力もそうだが、異世界の勇者が人類に牙を剥くような事が起きれば、目も当てられない事になるからだ。
そんな王侯貴族の訴え受けて、女神は勇者がこの世界の人類に危害を加えることが無いよう制限を課す事で、解決する事にした。
その結果、異世界の勇者は悲惨な最期を迎える事になったが。
勇者召喚は成功した。
だが、そこに現れたのは、彼らが想像していた、凛々しく逞しい、正に世界の救世主である勇者……とは、とても思えない人物だった。
背丈はそれほど高くなく、肌ツヤは悪くないが小太り気味で容姿も並以下。
挙動も威風堂々といったものでも無く、見るからに矮小な小物といった風情だ。
儀式に参加した王侯貴族や召喚魔法士達は揃って落胆した。
こんな者が勇者だとは、と。
それでも背に腹は代えられない現状である為、目の前の男を勇者として認め、使命を与えた。
勇者は今一現状を理解していないらしく、その察しの悪さに苛立つ。
そんな中、丁度タイミング良く、魔物が現れたので早速その場に勇者を送り出した。
戦闘は無様な物であった。
現れた牛頭の魔物は、ランク分けをするなら中程度の脅威であり、騎士数名であれば十分対処出来る程度の魔物であった。
その程度の相手に、丸まったまま、良い様にやられているのだ、溜息を吐きたくなる。
その後は何とか立て直し、魔物を屠ったが、一人で雄叫びを上げている様は滑稽であった。
ともあれ、勇者として魔物を倒す力はある事が確認できたので、魔王討伐に送り出した。
戦っていればその内もっと力を付けるだろうという考えと、さっさと問題を解決したかったが故であった。
その際、魔王を討伐するのは王子とその婚約者の令嬢、側近達であると喧伝した。
勇者は人相手にはまるで無力で、魔王討伐後には丸っきり役に立たない事は確定しているので、使い潰しても構わないという非人道的な考えだった。
勇者は魔物との戦闘になれば勝手に元気になるので、王子達はぞんざいに扱った。
魔物を倒す事しか価値の無い道具でしかないからだ。
自分達の腕を鈍らせないように、時々勇者に適当な魔物を此方に誘導させたり、少しでも反抗的ならばしっかりと立場を分からせた。
魔物相手には無敵の強さを発揮する勇者が、自分達にはまるで抵抗出来ない様は滑稽だった。
そして遂に、魔王は倒された。
万が一を考えて調査したが、杞憂であった。
これで世界に平和が訪れ、勇者は不要になった。
ゴミはとっとと処分するに限ると、調査後、速やかに勇者を処した。
『高貴なる身分の我々が、わざわざ処分してやるのだ、有難く思うが良い』そう言う頃には、既に勇者は死に体であった。
そして完全に息絶えた事を確認した後、その遺体を一瞬で消し炭にし、彼等は洞窟を出たのであった。
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