勇者死す! 絶望の未来へ、レディー! ゴーッ!
7話目になります。
よろしくお願いします。
タイトルに深い意味はありません。
「先ずは先手必勝! 破ああああああああッッッ!!!!」
気合を込め、全身の魔力を手に集中する。
そして集めた魔力を思いっきりブッパする。
放たれた魔力弾は魔王に着弾し、爆発を起こすが……。
「チッ、あんまり効いてないのか!」
本気で撃ったんだが、あんまりダメージは無い様だ。
そこらの大型魔物なんて一発でバラバラになる威力なんだけどな。
表面を抉っただけで、致命傷には全く至ってない。
しかも、なんか再生してきている。
「げっ、高耐久に高防御、更に再生持ちとか絶対長期戦になる奴じゃないですかー。ヤダー」
前勇者パーティーも長期戦でジリジリ押されて、やられたんだろうな。
こういうのはチマチマ削るよりも、高火力で一気に仕留めなければならない。
だが、最初の一撃が結構かなり本気の一撃だけに、大分厳しい戦いになりそうだ。
「GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNNN!!!!!!!!!!!!!」
叫び声を上げながら、魔王は触手のような物で攻撃をしてきた。
鞭のようにしなり、高速で飛んでくるその触手の威力は凄まじく、チートタイムの俺でもそうそう食らいたくない代物だった。
あと純粋にキモイ。
攻撃を掻い潜り、懐に入って渾身の一撃を叩き込みたいのだが、近づけない。
以前の俺だったら千日手、下手すると詰んでたかもしれない。
それだけ魔王は手強い相手だった。
だが、俺だって魔法を学び、それによって漫画やアニメの様な攻撃方法を会得している。
チート勇者の力を見せてやるぜ!
「チャクラムビット! いっけぇッッッ!!!!」
俺はチャクラムという武器の形をした魔力で出来た投げ輪を展開する。
複数生み出されたそれを触手目掛けて放った。
唯の投げ輪じゃないぞ。
極薄の魔力の刃は鉄すら容易に切断する。
「しかも脳波コントロール出来る!」
某宇宙世紀の新人類の様な、オールレンジ攻撃だ。
チートタイムによる頭脳の強化によって、パソコンの如くマルチタスクが可能となった俺は、チャクラムビットを巧みに操って触手を切り裂き、一気に接近し、魔王本体に直接打撃を撃ち込む。
インパクトの瞬間、魔力も同時にぶち込む、二重攻撃だ。
あれだな、『何とかの極み』って奴だ。
内部にも直接衝撃を伝えるその威力に、流石の魔王も怯んだようだ。
「まだまだ行くぜぇッ!」
こうして、ちょっとした小山くらいな平地になるくらいの攻撃を与えているんだが、魔王はそれでもくたばらない。
「なんてタフな奴だ。もっと技に磨きを掛けないと!」
と、言ってはみたが、マジでコイツ死なねーな。
最強無敵のチート故に、俺は長期戦を経験していない。
もし、俺のチートタイムに時間制限があったとしたら、このままでは不味い。
ダメージは与えているんだが、決定打には至っていない。
どうする? 時間を掛けるのは悪手に思える。
一度引いて見るか?
いや、そうなるとコイツも回復する。
万が一洞窟から出て来て、中継基地近辺で戦う事になったら絶対ヤバイ。
だから、コイツは此処で倒す。
内部にまで衝撃が浸透している攻撃が有効だが、それでもまだ浅いようだ。
やっぱデカいだけに奥まで浸透しないのだろう。
そうなるとどれが有効か……そう思った時、閃いた。
男の浪漫、ドリルである。
奴の土手っ腹に風穴を開けて、そこから内部に致命傷を与えてやる!
俺はトンネルを造る様な巨大なドリルをイメージする。
そのイメージに魔力を重ね、ドリルを実体化する。
流石チートだぜ、こんな事も出来る。
出来上がったドリルを高速回転させ、魔王の土手っ腹目掛けて打ち込む。
「GYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNNNNNNNNN!!!!!!!!!!!!!」
悍ましい叫び声を上げる魔王。
ドリルは霧散したが、風穴は空いた。
俺はその穴に、極限まで魔力を凝縮した魔力弾を放つ。
見事に穴の中に収まった魔力弾を俺は開放する。
瞬間、魔王の中でそれは大爆発を起こした。
腹の中を破裂された魔王は、彼方此方に臓物をばら撒いて行ったのにも関わらず、まだ生きていた。
「まだ生きてるのかよ……」
少しウンザリしていたが、これで最後だ。
全身全霊で魔力を集め、それを掌に集中させる。
「これで最後だ! 破あああああああああッッッ!!!!」
最大最後の一撃は、魔王の身体を飲み込み、跡形も無く消滅させた。
遂に決着が付いた。
長かった戦いもこれで漸く終わった。
それに安堵した瞬間、ふと思った。
あー、なんか必殺技っぽく名前を付ければ良かったなー。
「って、不味い!」
チートタイムが終わったら、俺はこの暗い洞窟で独りぼっちになっちまう。
そう思っている間にチートタイムが終わってしまった。
「ヤバッ、ヤバッ、どうしよう」
真っ暗な闇の中で1人……今の俺にとってこれほど恐ろしい物はない。
「うわあああああッッッ!! 誰かー、魔物でもいいから出て来てええええええッッッ!!!!」
ヤバイ、マジで心が折れそう。
魔王との戦いより絶望的な状況に俺は泣き叫んだ。
暗い洞窟の中で、俺は身動き出来ずに蹲っていた。
マジで真っ暗で何も見えない。
一歩でも歩いて前に進む事も出来なかった。
チートが無い状態の俺って、本当にダメダメである。
いや、普通の人間にこれは無理でしょ。
何だって神様はこんな扱い辛いチートを寄越したんだよ。
マジ怖えーよ、気が狂いそうだよ!
どれ位の時間が経ったのか分からない。
俺はただ、震えながらその場にいた。
そんな時、何処からか声が聞こえて来た。
この声は……クロードさん達の声だ!
うおおおおおおお! 地獄に仏とはこの事だ!
「クロードさーん! ここです! ここにいますうううううううッッッ!!!!」
俺の叫び声を聞いたクロードさん達は、直ぐに来てくれた。
この暗闇の中でボッチ体験を強いられていた俺は、そりゃあ盛大に泣いた。
恐怖と安堵と感謝の気持ちで感情がグチャグチャだった。
ようやく落ち着いた所で、空腹だったことに気付いた。
こんな事もあろうかと、食料も持って来てくれていた。
マジ感謝リスペクトっす。
その後3人と共に洞窟を出る所だったんだけど、前勇者が使っていたと思われる剣の話をし、他に遺留品が無いか探してみた。
結局見つかったのは折れた剣だけだった。
ケールさんが祈りの言葉を唱え、俺達は黙祷を捧げた。
「あ~、空が明るい……やっぱ人間は日の光の下で生きて行けるんじゃあ~」
久しぶりの日光に感動する俺。
「改めてお礼を言います。本当にありがとうございました」
俺の言葉に、クロードさん達は、
「礼を言うのは俺達の方だ。魔王を倒して、世界を救ってくれてありがとう」
お互いに礼を言い合い、今日という日を喜んだのも束の間、クソ王子達から呼び出しがかかった。
爽やかな気分が一瞬で台無しである。
いや、でも流石に魔王を倒したんだから、何かしらの報酬は出るよな。
もしかしたら、その話かな?
一晩休んだら、あの魔王の居た洞窟の探索とかマジやってらんね。
理由は魔王が完全に死滅したかを調査する為だとさ。
魔王を倒した後、そこら中にあった嫌な気配、瘴気っての? それが無くなって、魔物の狂暴性が薄れたらしいってのに、何を疑っているんだか。
確証を持ちたいのは分かるけど、俺の報告がそんなに信じられないのかよ。
で、俺は万が一の為に、同行させられた。
折角全部終わったと思ったら、またトンボ返りである。
ちゃんと灯りを点けて居るけど、あの暗闇マジでトラウマもんなんだよ……しかもチートタイムじゃ無いから、移動がキツイ。
それにクロードさん達は同行を許可されなかったから、俺だけしかいない。
アウェイ感が半端ない。
漸く最深部に着き、魔王の残骸を調べているクソ王子達。
実際アレコレ調べれるのはお付きの調査員だけど。
俺は特に何もする事もなく、ただそこに居るだけ。
暇だ……正直寝たい。
でもそんな事をしたら、クソ王子達に折檻されるからそれも出来ない。
漸く調査も終わり、魔王は無事に討伐されたと結論付いた。
やれやれ、やっと終わったか。
安堵していた俺の前にクソ王子達がやって来た。
あんまり関わりたくないけど、もしかしたら今までの謝罪とか、魔王討伐の労を労う言葉でも出してくれるのかな?
いや~、そうだったらどうするかなー?
働きに応じた褒美が出るなら、俺としても吝かじゃないしー?
爵位を賜るのも悪くないけど、面倒事になりそうなら、お金と住む所を用意して貰うのも良いかな。
そんで、可愛くてスタイル抜群で、俺の事を甘やかしてくれるメイドさんとか……ウィヒヒ。
そんな風に夢が広がっていた時、ドンッと何か衝撃が走った。
「……あ……? グェ……ハァッ……!」
尋常じゃない程、腹が熱かった。
腹を抑えていた手は真っ赤になっていた。
膝から崩れ落ち、頭から倒れた。
周辺から誰かの声が聞こえたが、何を言っているのか分からない。
何か喋ろうと思ったけど、口から出るのは血反吐だけだった。
文字通り、死ぬほど苦しかったが、やがて急速に意識が薄れて行き、自分は間もなく死ぬんだと思った。
そして、そうなった。
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