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前勇者パーティーはちゃんとしてたけど、上の奴等がカスだったって言うね……

5話目です。

世界を救う勇者にも、ちゃんとした支援は必要不可欠というお話。

 「そーいえば、前から気になってたんスけど、なんでクロードさん達は俺にこんなに良くしてくれるんでスか?」


 目の前の少年の問いに、クロードはどう答えたものかと思案する。

クロードとしては特別良い事をしているという訳ではない。


 王子達は自分達こそ真の勇者であると、周りに吹聴しているが、この少年こそが本当の勇者であろう。

実際、魔物との戦闘では一番のお功績を挙げている。

王子達は気紛れ程度しか戦ってくれない。

本物の勇者なら、もっと前に出て戦うはずだと皆、思っている。

王子達の手前、言えないだけだ。


 クロードは最前線で魔物と戦う勇者に対して、自分なりに出来る事をしているだけの話で、当たり前の事をしているに過ぎない。

というよりも、周りの状況が異常過ぎるのだ。

そもそも、目の前の少年は勇者だ。

この世界を救う救世主だ。

なのにこんな末端の兵士以下の扱いというのがおかしい。


 本来なら彼に感謝し、礼を尽くし、彼が十全に戦えるように努力する事が当たり前なのだ。

だが、王子以下の王侯貴族はそんな素振りは全く見せないどころか、勇者をいびり倒すような事をしている。

勇者の尽力によって多くの恩恵を受けている兵士達も、王子達の目を気にしてか、何もしようとしない。

狂っているとしか言えない状況で、ただクロードは自分がやるべきことをやってる、ただそれだけの話である。

もっとも、唯の一兵士に過ぎない自分では、助けるにしても微々たる事しか出来ないが。


 ケールとフランツも同じである。

フランツの場合は、前勇者との関りもあり、それが理由で勇者に魔法を教えている。

その事を話すと、勇者は話に喰いついて来た。


「え? 前の勇者を知ってるんでスか? 良かったら聞かせて下さいよ」


 勇者にせがまれ、フランツは前勇者達の事を語る。


 フランツは以前、魔物狩りを生業としていた。

魔法士としての資質があったフランツは、魔法学園に通い日々の研鑽の中で、実力を付けて来た。

基礎的な攻撃魔法を修め、将来的には国の魔法師団を目指していたのだが、直ぐに壁にぶつかった。

平民であったが故のコネと、後ろ盾の無さだけならまだ良かったのだが、それに加えて才能が足りなかった。

魔法学園に通う多くの生徒は貴族であり、平民でも才能があるものは居るには居るが、貴族と比べれば大分見劣りする様であった。

才能のある者同士を掛け合わせて、より強い資質を持つ者を生み出していくのが貴族である。

生れながらの貴族の魔法士としての才能は、平民よりも質も量も遥かな高みにいるのは当然の話だった。


 フランツは魔法士としては凡庸であった為、結局は底辺の成績のまま、学園を卒業する事になった。

憧れの魔法師団に入る事も出来なかったフランツは野に下り、魔物狩りとして生きて行くことになる。

それなりの経験と実績を積んだことで、フランツは一度、生まれ故郷へと戻った。


 その後、故郷で魔物狩りとして生活していた時に、魔物の群れが襲い掛かって来た。

絶体絶命のピンチに陥った時、それを救った者達が現れた。

それが前勇者パーティーだった。

 まだ学園の生徒であるような、幼さを残した少年少女が、圧倒的な力で魔物を駆逐する様は、まるで伝説その物であった。

彼等なら魔王を討ち、この世界に平和をもたらすだろうと確信した。

フランツは彼等に礼を言い、感謝の印として故郷の者達と共に精一杯のお持て成しをした。

その席の中で、前勇者達の話を聞いた。


 前勇者パーティーは勇者、魔法士、聖女、剣士の4人であった。

勇者の少年と魔法士の少女は同じ村の幼馴染で、聖女は教会に引き取られた孤児、剣士は騎士爵の家系だったとの事だ。

騎士爵だったということから、剣士の家は今は没落し、実質は平民であった。

つまり前勇者パーティーは平民で構成されたパーティーだという訳だ。

これには流石に驚かされた。

血を重ね、巨大な力を持った貴族の中からでなく、平民の中から救世主たちが現れたのだ。

同じ平民のフランツとしては痛快だった。

それから少しの間だが、フランツは彼等と交流を深めた。


 巨大な力を持ちながら、それに驕る事の無い彼等との交流で、フランツの中にあったヘドロの様な劣等感が洗い流されたようだった。

ただ、いくつか気になる所もあった。

まず、彼等は勇者、世界の救世主だ。

王侯貴族と同等か、それ以上のVIPであるにも拘らず、彼等をサポートするような者達が皆無な上、身に着ける装備も正直、余り大した物のようには見えなかった。

それに、圧倒的な力であったため、当初は分からなかったが、どうも魔法士の使う魔法は、何と言うか基礎がなって無いというか、洗練された感じでは無かった。

話を聞くと、彼等は勇者として神託を受けて直ぐに魔王討伐の旅に出されたという。

最低限の資金と装備すらも渡されずに……。


 何の準備期間も無しに、いきなり放り出されたそうだ。

フランツは思った、上の連中はバカしかいないのではないかと。

剣の戦いは門外漢だが、魔法の基礎についてはそれなりに出来るフランツは、前勇者パーティーに自身の知識を伝授した。

彼等はフランツに感謝し、また旅立って行った。


 フランツは迷った。

このまま彼等を送り出しても良いのかと。

まだ年端も行かない上に、真面な戦闘訓練も受けないまま、旅に出された彼等の前途に不安を覚えたからだ。

最初に有った、魔王を倒せるだろうという確信も今は揺らいでいた。

だが、フランツは魔法師団にも入ることが出来なかった落ち零れだ。

彼等の旅に付いて行こうにも、足手纏いにしかならないのは明白だった。

彼等はまだ未熟ではあったが、それでもフランツよりも遥かな高みにいる存在なのだから。


 結局フランツは、彼等に付いて行く事は無く、無事を祈るだけで故郷に留まる事を選択した。

それからしばらく後に、前勇者パーティーが魔王に敗れたという知らせが彼の元に届いた。


 フランツは後悔した。

自分が付いていたからと言って、何が出来たかは分からなかったが、それでももしかしたら……という想いを抱えてしまった。

故に今回の魔王討伐隊に従事する兵士の募集を見た時、彼は飛び付いたのだった。

ただ、勇者と思われる人物が、徒手空拳による近接オンリーな戦い方しかしていなかったので、どう声を掛ければ良いのか分からなかった。

そんな時、同僚となったクロードから勇者に、魔法の基礎を教えてやって欲しいと頼まれたのは、渡りに船だった。


「はえ~、そうだったんスか。なんか前の勇者達も苦労してたんでスね」


 現在進行形で苦労というか、苦行を強いられている勇者の言葉に目が潤みそうになるフランツだった。

フランツの話を聞いていたケールが突然、泣き出した。


「~~~ッッッ、何という事だッ! そんな事になっていたなんて……ああ、すまない、僕は……僕はッ!!」


 いきなりの事で面食らう3人だった。

とりあえずケールを落ち着かせ、話を聞いてみる。


 ケールは実は、前勇者パーティーの聖女が暮らしていた孤児院を運営する、教会の見習いをやっていたのだった。

聖女とケールは面識があったのだ。

聖女が暮らしていた孤児院は貧しく、教会の見習いであったケールは雑務をこなしつつ、孤児院の子供達の世話をしていた。

そんな中で、孤児院に捨てられ、赤ん坊の頃から暮らしている聖女の事は良く知っており、他の子供達と同様に大切に育てて来た。

ケールはどんなに苦しくても弱音を吐かず、下の子供達の面倒を良く見て、お祈りも毎日欠かせなかった聖女には幸せになって欲しいと願っていた。

ある時、神託が下り、聖女が救世主として選ばれた。

ケールは喜んだ。


 清らかな心を持つ彼女こそが、この世界を照らす光だと、女神様がお墨付きを与えたのだから。

だから、迷っている聖女を優しく諭し、その背中を押した、押してしまった。

後の結果は、知っての通り、勇者達は魔王に敗れた。

女神によって選ばれた光の救世主達が、闇にその命を奪われた。

激しい後悔がケールを襲った。


 こんなはずでは無かった。

勇者達は魔王を倒し、彼等はその功績を称えられ、幸せな一生を送る……ハズだった。

現実はそうでなく、逆に敗れた彼等は王侯貴族や平民すらからも役立たず、期待外れだと罵倒される存在に成り下がってしまった。

どうしてこうなってしまったのか。


 その理由として、ケールは自分が聖女の背中を押してしまった事が原因だと思った。

聖女はとても優しく、争い事にはまるで向いていないない性格だった。

そんな彼女を諭し、死地に送り込んだのは紛れもなく自分だった。

王命がある以上、ケールが何を言った所で結果は変わらなかったが、それでも非は自分にあるとケールは思い込んだ。

教義上自殺する事は禁止されていた為、それを実行出来ずに悔恨の日々を送るケールはある日、魔王討伐隊の募集を知る。

聖女たちが成し得なかった魔王討伐を果たす為、ケールは微力ながらも力を尽くそうと考え入隊した。


 それからケールは自分なりに傷付いた仲間達の治療の為に奔走していたが、勇者の扱いの酷さに困惑していた。

今現在の唯一の希望である勇者がこの様である、では前勇者パーティーも一体どんな扱いをされていたのかと。

それが今日知れた。

訓練、資金、装備の提供といった支援も殆ど無く、4人だけの強行軍で魔王を討伐せよなど、狂気の沙汰としか思えない。

聖女達が魔王に敗れたのは、本人達の所為では無く、何もしない国の所為ではないかとケールは嘆き悲しんだ。


「やっぱ、アイツ等クソだわ」


 勇者がポツリと漏らした一言に、3人は心の底から同意した。

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