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3/12

フレンドリーなのは末端の兵士だけ。フレンドリーファイアな援護射撃とかマジねーわ!

3話目です。

超絶チートタイム中でも、人間の魔法攻撃にはスペランカー並みに脆いです。

 こうして俺は、魔王を倒す旅に出された。

その旅に同行するのが、俺を召喚した国の王子とその婚約者の公爵令嬢、そして側近達とその他の世話係に護衛としての兵士達。

多すぎるわ!

日頃、RPGのパーティーの少なさにツッコミを入れていたもんだが、大人数での旅もそれはそれでツッコミたい。

勇者パーティーというか、魔王討伐隊と言ったところかね。

まぁ、国のお偉い様方のご子息、ご令嬢の旅なんだから大人数になるのも、一応理解は出来るけど。

ただ、俺にとってはハッキリ言って邪魔者でしかない。


 まず、事ある毎に俺に文句を付けてくる。

戦い方がなってない、判断が遅い、行儀がなってないなどなど。

俺を案じての小言でなく、心底見下した上でのダメ出しだ。

マジで凹む。


 魔物との戦いはタイマンなんて事は無く、基本的に集団戦だ。

魔物の群れに俺が突撃して倒していく。

数が多いので幾らか討ち洩らしが出てくるが、それを兵士達が処理する。

時々、王子達が出張って魔物を倒していったりするが、色々注文してきてウザい。


 腕が鈍るから、何匹かこちらに誘導しろとか、アレを倒したいからソイツだけ寄越せとか。

手を出さない時なんかは、さっさと倒しててこいとか五月蝿い。

魔物の数が多くて手間取ってると、罵倒や鉄拳制裁が降りてくる。

鉄拳制裁とはまさに読んで字の如く、金属製の小手を付けたままで殴られるのだ。


 魔物に対しては無敵のチートも、人間には発動しない。

人間相手では俺は普通の一般人に過ぎない。

そんな俺が鉄拳で殴られたらどうなるか。

まぁ、お察しだ。

頬を殴られた俺はもんどりを打ちながら地面へ叩きつけられ、そのまま気絶した。


 目を覚ますとそこにはテントの様な所だった。

旅は野営で過ごす事もよくあるが、王子達は魔法で作られたコテージで一夜を過ごしている。

俺を含めたその他は簡易テントで宿泊するのが常だった。


「よう、目が覚めたかい」


 目覚めた俺に声を掛けた人物は魔王討伐隊の兵士の一人だ。

クロードさんといって、お偉いさん方にいびられている俺をさり気なく助けてくれる、数少ない俺の味方と言って良い人物である。

どうやら殴られて気絶した俺を介抱し、テントで寝かせてくれたらしい。

俺はお礼を言おうと喋ろうとしたが、


「~~~~~ッッッ」


 顔に激痛が走り、言葉を発する事は出来なかった。


「ああ、無理しないでくれ。どうやら顔面を骨折しているみたいなんだ」


 そう言われて、激痛の走る頬を軽く触れてみたところ、テニスボールみたいに膨れ上がっている事が分かった。

鏡とか見たら相当酷い事になってるな、これ。


「その状態じゃ、やはり食事はキツそうだな。スープを持ってきたから、これは飲めそうかい?」


 声を出せない俺は頭を下げる事で感謝を表し、スープを頂く。

殆ど口を開けられないが、慎重に口に運び嚥下する。

相変わらず薄味でコクも無いし、冷めてるから味は酷いもんだ。

それでも空腹ではあったので、五臓六腑に染み渡るんだから泣けてくる。


「スープは大丈夫みたいだな。一応薬も置いていく。朝一になったら回復術士に治療をお願いしてみよう。今日はこのままゆっくり休んでくれ」


 そう言ってクロードさんはテントから出て行った。

マジで感謝しかない。

そしてあのクソ王子共は地獄に落ちろ。

はぁ、さっさと寝るか。

顔が痛むから寝られるかどうかわからないけど。

いっそ魔物の襲撃でも起きないかなー。


 朝になり、クロードさんが呼んでくれた回復術士の方に、治療をして貰った。

ほんの少しだが、痛みは引いたように思う。


「すまないね。僕の術ではこれくらいが精一杯だ」


 この回復術士さんはケールさんといって、クロードさんとは同期の方だ。

この人もクロードさん同様、俺の味方になってくれている。

正直彼等がいなかった俺はもっと嫌な目にあってただろうな。


 薬も塗ったし、歩く事は出来そうだ。

朝食はスープしか無理だったけど、一応パンは懐にでも入れておく。

このパン、マジでレンガみたいに固い上にパサパサでスープに浸さなければ食えたもんじゃないんだよね。

今の状態ではとてもじゃないが食べられない。


 俺達が食う食事は基本的に保存食の干し肉や、矢鱈と固いパンと、ちょっとしたスープが基本だからな。

時々野生の動物を狩る事で、新鮮なお肉が手に入るが、それ等はお偉いさん方の胃袋に収まる。

魔法によって保存された食材があるのに、アイツ等は権力を笠にそれを奪っていく。

いや、献上されるのが当たり前だと思ってるんだろうな、クソが。

アイツ等は魔法のコテージでストレス無く旅をして、時々気紛れに魔物を討ち、それを国民にアピールして勇者だ救世主だと崇め称えられる。

多くの戦いは俺や兵士達が担ってるのにな。

ホント、世の中不公平だよ。


 痛む顔を抑えながら先に進んでいくと、魔物の群れが発見された。

チャンスだ。

俺は一直線に魔物に突貫する。

魔物との戦闘時のみ、俺のチートは発動する。

この状態ならば、顔の怪我も直ぐに治るし、ついでにあのクソ固いパンも簡単に噛み砕ける。

戦闘中、痛みに対して耐性が付くので、腫れ上がった頬を切り裂いて、膿や血を出し切る。

血で汚れた頬を軽くタオルで拭けば、それでもう完治した。

そして戦いながらパンを齧り、腰の水筒を開けて流し込んだ。

チート発動時は空腹も感じないけど、それが終わったら普通に腹が減るからな。

今の内に栄養補給だ。

怪我も治って腹も満たされた俺は、渾身の一撃で魔物を屠る。

そして今に至るって訳だ。


「あ~、痛ってぇ……」


 戦闘が終わり、トボトボと持ち場に戻る俺。

折角頬の怪我が治ったのに、今度は頭に瘤が出来やがったよ。

魔物との戦いより、味方側から受ける被害が大きいってどうなんだ? コレ……。

万事こんな感じで俺は日々を過ごしていった。


 魔物と戦いながら旅を続けるが、別にずっと山や平原にいる訳ではない。

ちょっとした街を拠点とし、そこで暫くの間魔物の討伐をすることがある。

一刻も早く魔王を倒すべきだとは思うが、ある程度魔物を駆除していかないと、街も危険だし、魔王討伐隊もずっと戦いっぱなしで疲弊してしまう。

主に疲弊するのは、俺や兵士達だが。


 魔物の駆除をしつつ、休息や食料品や消耗品の補充を兼ねるには、街にしばらく滞在するのが良いのだ。

簡易テントとは違い、安宿でもちゃんとしたベッドがあると大分違うもんだ。

だから、俺の宿……光が入らず薄暗くて、変な臭いがして、空気が淀んで、ベッドもなんか湿気ってるけど問題無いよな!

クソが……。


 何だかんだでキッチリ眠れたのは、この世界に適応していってるからなのかね~。

ちょっと背中が痒い気がするが、野営してる時もこんな感じだ。


 ……現代日本の何気ない日常って、この上ない贅沢だったんだな。

野営の時よりはちょっとマシな食事を終え、街の散策でもしようかなと思っていた矢先に、招集が掛かった。

なんでも近くに魔物の群れを確認したとの事だ。

チート発動するからマシだけど、ちょっとは休ませて欲しいわ。

 

 何時も通り俺が魔物の群れに突貫して、取りこぼしを兵士達が処理する流れなんだが、アイツ等が出て来やがった。

街の人達に露骨にアピールして拍手喝采を浴びている。

そりゃ、偉いさん方としてはこうやって鼓舞して、戦意高揚を煽るのは必要な事なんだろうけどさ。

そこ、本来は俺が居るべきポジションなんですがねぇ?


 で、魔物の群れとご対面したわけだが……めっちゃ多いな。

幾ら俺がチート勇者であっても、身体は一つしかないんだから、かなりの数が抜けられるぞ。

だが、アイツ等が街は一切危険に晒さないと大見得切ったもんだから、取りこぼしは不味い。

こうなった以上、アイツ等にも本腰入れて戦って貰うしかない。


 腐っても王侯貴族なだけあって、戦闘力は高いんだよな、ムカツク事に。

それでいて美男美女と来たもんだ。

文武両道で民の為に命をかけて魔王を討伐する、正に勇者と呼ぶに相応しい存在ってのが、一般人から見たアイツ等だ。

内情を知っている俺からすると、只のクソ野郎共だがな。

っと、話が逸れた。

とりあえず、めっちゃ頑張ってみるが、どうしようもない時はマジでフォローをして貰わなければやっていけねぇ。

戦う前から気が滅入ったが、兎に角やれるだけやってみようと、俺は魔物の群れに突貫した。


「おりゃああああああッッッ!!!!」 


 気合を込めた一撃で、周囲にいる魔物を薙ぎ払っていく。

更に大きく踏み込んだ特大の一撃を放ち、多くの魔物を蹴散らしていく。

確実に数を減らしていくが……如何せん数が多い。

なるべくこちらに引き付ける様にしているが、それでも抜けていく魔物はそれなりに出てくる。


 俺の攻撃方法って基本的に素手による打撃オンリーだ。

最初は武器を使ってたけど、チートタイム中に使うと直ぐに破損する。

それで武器を無駄にするなって殴られた。

また、通常時に武器を持ってるのも負担なので、結局素手になった。

だから、多数を相手にするのは不向きだ。

それでも無双ゲームみたいに敵を倒せているけど。


 魔法による範囲攻撃とかも使えれば良いんだけど、出来ないんだよな、チート勇者なのに。

言い訳させてもらえるならば、訓練とかそういうの一切なしで来てるってのもあると思う。

街に滞在中、何とか魔法の講義を受けられるようにしないとな。

多分、コツさえ掴めば出来るはずだろ、チート的に考えて。

兎に角、目の前の敵を何とかしないと。


 数は減らせているが、魔物の勢いが止まらない。

不味い……このままだとクロードさん達では処理しきれない恐れがある。

そう考えていた時、不意に近くで爆発音が聞こえた。

後方からの魔法による遠距離攻撃だった。

漸く援護射撃が来たかと思ったのも束の間、何だか様子がおかしい。

何か、最前線で戦っている俺の事を気にせずに、魔法攻撃が撃ち込まれている様な……。


「お構い無しって事かよッ!? クソがッ!!」


 信じられねー、アイツ等頭おかしいんじゃないか?

幾ら魔物との戦闘でチートタイムに突入してるからって、俺は人間の攻撃にはまるっきり無力なんだぞ?

人間の攻撃は俺に、普通に『通る』。

一発でも喰らったらお陀仏なんだよ!


「~~~~ッッッ!! 畜生ッ!」


 何とか味方? からの攻撃を避けつつ魔物を倒していく。

爆発によって粉塵が巻き上がるから、視界が悪くて仕方が無い。

チートで五感も精神面も強化されているので、漫画の盲目キャラよろしく、気配を感じながら戦う。

爆風舞う中での戦闘、はやっぱ辛ぇわ。


 流石に数も減り、自分達の不利を悟ったのか、魔物達が退散していくのが分かる。

漸く戦闘が終わるのだが、完全に終わってしまうと俺のチートタイムも終わり、味方? のフレンドリーファイアで人生も終わる。

慌てて戦線から離脱し、クロードさん達が抑えている魔物共を蹴散らした所で戦闘終了。

巻き上がった粉塵も収まり、後に残ったのは魔物共の死骸だけである。

魔王討伐隊の勝利である。


 勝鬨を上げるクソ王子共だが、魔物の半数以上は俺が倒したんですがねぇ?

ぶっちゃけ、お前等の魔法攻撃は俺にとっては援護射撃になってねーんだよ!

そう文句を付けたいけど、それも出来ない。

ホント、マジでクソだな。

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