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異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】  作者: 南澤まひろ
第4章 異世界ラジオのまなびかた、ふたたび
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第75話 「異世界ラジオのつくりかた」のつくりかた・1③

「わたしたちは、みなさんの前から勝手にいなくなったりはしませんよ~。せっかく出会った大切な友達と離れたり、みんなとともに作り上げているものを投げ出すなんて~、もったいないにも程があるじゃないですか~」


 いつもののんびりとした言葉に加わる、ほんの少しの力強さ。真面目モードじゃなくていつも通りに伝えるその声には、不思議と説得力があった。


「よっぽどのことがない限り、わたしたちは週末になったら必ずこちらへ来ますから~。ルティもピピナちゃんも、わたしもリリナちゃんも、もちろん、アヴィエラさんも時間が合えばこちらへとお連れしますよ~」

「フィルミアさん……ありがとうございます」

「いえいえ~。むしろ、こんなに素敵な〈ばんぐみ〉のことを考えていただいたのですから、わたしこそお礼を言わなくては~」


 軽く頭を下げる先輩に続いて、フィルミアさんも浅めに頭を下げる。ほとんどいっしょに上げた顔を見合わせると、どちらともなくくすりと笑って、かすかに肩を震わせながらしばらくのあいだ笑い合っていた。


「わたしったら、心配しすぎていたのかもしれませんね」

「いえいえ~。わたしも、ルイコさんとサスケさんのお気持ちはよ~くわかります。サスケさんとカナさんの試験で2週間ニホンへ行かなかったときには、みんなドヨウビになったらためいきばかりついてましたから~」

「フィルミアさんたちもですか」

「はい~。みなさんとお会いできないというのは、なかなかにさみしいものでして~」


 頬に手をあてて、ちょっと恥ずかしそうに笑みを浮かべるフィルミアさん。レンディアールのみんなも、そう思ってくれていたんだ。


「でもでも、ルイコさんが企画した〈ばんぐみ〉のためなら、いつでもこちらへは参りますよ~。ピピナちゃんとリリナちゃんのおかげで、時間はある程度融通が利くようになりましたし~」

「ふふっ。ずいぶんやる気ですね、フィルミアさん」

「もちろん~。こちらでも、ルティとピピナちゃんのお手伝いができるんですから~」

「そう言っていただけると、わたしも考え甲斐があります」

「なら、考えついでに俺からひとつ提案してもいいですか?」

「うんっ、もちろんいいよ」


 勢いのいい先輩の返事……ってことは、ここで言質がとれるかもしれない。


「ラジオドラマには、先輩もいっしょに出てください」

「えっ」


 だから、ここでちゃんと言いたいことを言っておこう。


「トークパートのほうに出ない理由は、さっきの説明でよくわかりました。でも、ラジオドラマにも先輩が出ない理由なんてどこにもないじゃないですか」

「だ、だけどっ、ドラマとトークパートの人員は合わせないと――」

「そうですね~。ルティからもルイコさんの〈ばんぐみ〉がきっかけということは聞いてますし~、やはりルイコさんにも〈らじおどらま〉には参加していただかなくては~」

「ええっ!?」


 おおっ、フィルミアさんがいい形で乗っかってくれた。よしっ、このままの勢いで巻き込んでいこう。


「きっかけになる番組だって、俺らの番組よりも先輩の番組のほうがずっといいに決まってます。俺たちにとっても、先輩の番組はホームなんですよ?」

「わたしの歌声と、ルティの声が流れた上に~、サスケさんとカナさんがよくお手伝いしている場ですもんね~」

「そういうことです。だから先輩、裏方に回るだなんて言わないで、いっしょにラジオドラマへ出ましょうよ」

「うーん……」


 フィルミアさんといっしょにひと押ししてみても、先輩の表情は浮かないまま。困ったように首をかしげて、ヘアゴムでまとめられた先輩の髪がふわりと揺れる。


「いいの?」

「へっ?」


 続く突然の問いかけで、俺は思わずマヌケな声を上げた。小首をかしげながらのそれはかわいらしい仕草だけど、それ以上に何を問いかけてるのか――


「みんなよりちょっと年上だけど、いっしょに出てもいいの?」

「あ、当たり前じゃないですか!」


 ま、まさかそれを気にして!?


「つーか、そんな理由で自分からラジオドラマを外れたんですか!?」

「『そんな』じゃないよっ。みんなは13歳から16歳なのに、わたしだけ21歳じゃ絶対に浮くもん」

「いやいやいやいや、絶対に浮きませんって。このラインナップなら、先輩は十分に先生役とかになれるじゃないですかっ」


 ぷくーとむくれる先輩を説得するように、俺は企画書の続きを人差し指で指し示した。


 *   *   *


【予定している番組内容】

・ラジオづくりのラジオドラマ

・番組制作会議

・会議を元に番組を作って実際に放送


【各回予定】

※()内は担当アシスタント

★第2回からリリナさん、第3回からフィルミアさんが登場

第1回「ラジオのことを知ろう!」(松浜・有楽)

第2回「お互いのことを知ろう!」(リリナ・松浜)★

第3回「いっしょにトークをしてみよう!」(有楽・フィルミア)

第4回「取材へ行こう!」(フィルミア・リリナ)

第5回「アナウンスに挑戦しよう!」(リリナ・松浜 予定ゲスト:山木さん)

第6回「演技に挑戦しよう!」(フィルミア・有楽)

第7回「届いたメールでトークをしよう!」(松浜・有楽)

第8回「番組テーマ曲をつくろう!」(フィルミア・リリナ 予定ゲスト:赤坂さん)

第9回「ラジオドラマをつくろう!」(全員 ゲスト予定あり)

第10回「異世界へ行こう!」(全員)

第11回「異世界でラジオ番組をつくろう!」(全員)

第12回「異世界でラジオ局をつくろう!」(全員・ドラマ最終回)

第13回 フリートーク


 *   *   *


「先生、役?」

「そうですよ」


 きょとんとした顔で言ってるってことは、これは思いつかなかったか、ハナから想定すらしていなかったってことか。先輩、自分がいなくてもいいようにって考えてたからか穴だらけですよ……


「俺か有楽がいる回はまだいいですよ。でも、第4回と第8回みたいに、フィルミアさんとリリナさんだけの回は進行とかどうするんです? 教えられる役の人がいないじゃないですか」

「あっ」


 やっぱり、そのあたりを考えてなかったか。思い詰めたら暴走するあたり、赤坂先輩も有楽やアヴィエラさんに負けず劣らず相当ゆかいな人なんじゃなかろうか。


「では~、ルイコさんも〈らじおどらま〉への出演が決まったということで~」

「えっ、その、あのっ」


 先輩が止めるよりも先に企画書を引き寄せたフィルミアさんは、出演者が書かれたページをめくってから少しおぼつかない手つきで、一番下の空白に「あかさかるいこ」ってボールペンで書き入れていった。書き終わってドヤァと満面の笑みを見せるあたりも、実にナイスです。


「はぁ……わかりました、わたしも出ます。でも、演技には期待しないでくださいよ」

「それは、わたしもですよ~」

「俺もですって。素人な俺たちをブッキングしたのは先輩なんですから、先輩も素人としていっしょに巻き込まれてやってください」

「はーい」


 仕方ないなあとばかりに、困ったような笑みを浮かべる先輩。それでも強く抵抗しなかったのは、俺たちに譲歩してくれたのかな。


「じゃあ、このアシスタントの振り分けももう一度考えないといけないね」

「それがいいかと。というか、もうゲストと交渉してるなんて……先輩、ずいぶん早くから根回ししてたんですね。内諾までもらっちゃって」

「交渉っていっても『今度こういう番組を作るつもりなんですけど』って話したぐらいだよ。山木さんはルティさんがパーソナリティだって話したら快諾してもらえて、お母さんもテーマソングを作るつもりって言ったら二つ返事でオッケーだって」

「さすがは身内」

「番組のためなら、使えるコネクションはなんでも使います」


 えっへんと聞こえてきそうなぐらい、先輩は自信ありげににっこりと笑った。

 コミュニティFMの自主制作番組なのに、元公共放送のアナウンサーと海外で活躍している作曲家をゲストにブッキングするなんて……と一瞬思ったけど、若葉市内をたくさんてくてく歩いて、見つけたことを伝えて続けてきた先輩の行動力なら納得できる。

 それに、簡単に考えてみれば同じFM局の同僚と、自分の母親なわけなんだし。


「わたしたちが参加するということで~、きっとみはるんさんも大喜びだったんでしょうね~」

「あ、いえ。実は、まだ海晴ちゃんには詳しいことを伝えてないんです」

「そうなんですか~?」

「『新番組を企画しているから、音響と編集で参加してくれないかな』って聞いただけで。詳しいことは企画書ができたらって言ったら、その前にふたつ返事で快諾してくれました」

「なるほど~。ルティたちが参加していると知ったら、みはるんさんも驚くでしょうね~」

「アイツのことだから、無表情のまま大喜びでしょう」

「?????」


 先輩には何を言ってるのかわからなくても、実際に中瀬は無表情なまま変な踊りを踊ったり、ガッツポーズをとったりするんだから仕方がない。

 きっとルティとピピナがメインだって知ったら、レンディアールとイロウナの国境近くにある森でやらかしたように無表情なまま奇声を上げて大喜びってのも十分にありうる。


「だったら、あとで海晴ちゃんにもこの企画書を見せておかなくちゃ」

「そうしましょう。ルティたちもいるって言ったら喜んで来ると思いますし、あとで俺のほうからメールしておきますよ」

「ありがとう。それじゃあ、お願いね」

「はいっ」

「あとは放送時間だけど、番組をやるとしたらこの時間になるっていうことは確定しているんだ」

「この時間……ああ、次のページですね」


 言われてめくったページは最後のページで、先輩が言うとおりに放送時間のこととかが書かれていた。


 *   *   *


【放送開始予定日】

 2024年7月7日(日)(日付上は2024年7月8日(月))全13回


【放送時間】

 毎週日曜日24時00分~24時30分(毎週月曜日0時00分~0時30分)


【放送形態】

 完全パッケージで納品


【キューシート(想定)】

〈第1回のみ〉

00:00 ラジオドラマ「異世界ラジオのつくりかた」Aパート

05:00 タイトルコール~ラジオドラマ「異世界ラジオのつくりかた」Bパート

15:00 自己紹介・フリートーク

25:00 後TM・ED

28:50 FO


〈第2回以降〉

00:00 タイトルコール~前TM・OP

05:00 ラジオドラマ「異世界ラジオのつくりかた」

   ※番組の進行具合によって、制作会議をもとにしたコーナーを放送

15:00 番組制作会議

25:00 後TM・ED

28:50 FO

(CMはなし。逐次用途によってMを挿入)


 *   *   *


「まあ、この時間帯と内容だと完パケになるでしょうね」

「ラジオドラマもあるからね。他の完パケ番組みたいにCMも入らないから、29分じっくり使えるよ」

「あの~、〈かんぱけ〉というのはなんでしょうか~?」


 おっといけない。いつもみたいに先輩と用語で話してたけど、フィルミアさんはこの言葉を知らなかったか。


「『完パケ』っていうのは『完全パッケージ』の略称で、事前に番組内容を録ってから時間が収まるように編集しておくタイプです。編集しないで放送時間内に収めたものをそのまま放送することは『録って出し』って言って、こっちは俺と有楽が試験前だったり、仕事があって生放送ができない時にやってるタイプですね」

「は~。〈ろくおん〉して放送するのにも、いろんな方式があるんですね~」

「それぞれの番組の雰囲気に合わせて使い分けてるんです」

「松浜くんと神奈ちゃんの場合はノリと勢いが重要ですから、ラジオドラマを流す時間も含めて全部生放送の時と同じように収録しています。逆に、しっとりしたトークをする番組はトークだけを先に録っておいて、あとで音楽を追加して放送用の音源を作るんですよ」

「なるほど~。この〈きゅーしーと〉をもとにして進めて、〈ばんぐみ〉を作っていくんですね~」

「あら。フィルミアさん、キューシートを知ってるんですか?」

「はい~。わたしたちがヴィエルで〈しけんほうそう〉をしたときに、サスケさんが作ってくださいましたから~」


 にこっと笑って、フィルミアさんがうれしそうな笑顔を俺に向ける。

 キューシートっていうのはいわゆる進行表で、どのくらいの時間になったらどのコーナーになって、どのくらいの時間から曲を流すっていうのを目に見えるようにしたもの。フィルミアさんが言うとおり、ヴィエルで試験放送をしたときに補助用にと思ってキューシートを作ったことがある。


「キューシートって言っても、誰のどの曲を流すかって表みたいなものですよ」

「それでも、とても参考になりました~。でも、その時にはこの〈てぃーえむ〉とか〈おーぴー〉とか〈えふおー〉というのはありませんでしたよね~?」

「それも専門用語ですね。『TM』はテーマ曲で、その番組の看板になる音楽。『OP』と『ED』はオープニングとエンディングで、番組の終わりと始まりのトーク部分。で、『FO』はフェードアウトで、最後に音楽をだんだん小さくしていくことです」

「本来は、そういう指示もあるということですか~。参考になります~」


 納得したように言いながら、フィルミアさんがノートへと書き込んでいく。ここもちゃんと書き入れていくあたり、やっぱりずいぶん勉強熱心だ。

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