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異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】  作者: 南澤まひろ
第4章 異世界ラジオのまなびかた、ふたたび
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第71話 みんなで作る、異世界ラジオ③

 明日の土曜日は、いつも通りに14時から16時まで「Wakaba High-School Zone」って銘打たれた、若葉市内の高校が集まる番組ゾーンがわかばシティFMで放送されることになっている。

 14時からは、校内の吹奏楽部や軽音楽部の演奏をとりあげる若葉北高校の「若葉の北の音楽館」。

 14時半からは、一昨年まで女子校だった紅葉ヶ丘大学附属高校のガールズトーク番組「じょじょ☆らじ」。

 15時からは部活や授業で活躍している生徒をどんどんゲストに招く、総合学科の利点を活かした若葉総合高校のトーク番組「ど真ん中で総合的ラジオ」。

 そして、15時半からは我らが若葉南高校の「ボクらはラジオで好き放題!」っていう順番だ。


「他の学校も、明日は〈なまほうそう〉をするのであったな」

「ああ。紅葉ヶ丘と総合高も生放送だから、スタジオで打ち合わせる時間がなくてさ」

「5分前、しかも放送中にスタジオ入りとか、大丈夫なんですかねー……」

「とりあえず、最後の打ち合わせはロビーでやって、総合高のエンディング前にみんなでスタジオに入って、番組が終了したら向こうの生徒さんがスタジオを出る……って感じかな?」

「ルイコ様、その場合〈ばんぐみ〉が始まってすぐに流れる音楽などは大丈夫なのでしょうか」

「音楽は、時間になったら自動的に流れるようになっているから大丈夫です。あとは、それまでに準備がちゃんとできるかどうか、ですね」


 赤坂先輩が、向かいに座る青いパジャマ姿のリリナさんへと答えた。

 基本的に南高は試験前以外が生放送で、あとの学校は多くの回が録音番組。それでも、他校の放送部の規定や部員たちの気まぐれでこうして生放送が行われることもある。


「は~、〈なまほうそう〉が重なると大変なんですね~」

「そこはなんというか、小さな放送局の宿命といいますか……」

「大きな放送局みたいにスタジオがたくさんあるならともかく、わかばシティFMはひとつしかないのが痛いところだよね……」


 有楽の隣で困ったように頬に手をあてるフィルミアさんへ、俺と赤坂先輩が続いてその理由を話す。実際に、小さな局はこれがネックになることもあるんだ。

 大手の民放ラジオ局なんかは、局の中に2つ3つとスタジオがあったりして、生放送が続いてもそのスタジオを交互にやりくりして、放送前の打ち合わせも余裕を持ってできる。

 でも、コミュニティFMは建物の一室にだけスタジオを構えていることが多いから、生放送が続くと先輩が言うような「放送終了・開始直前に次の番組のパーソナリティが入ってくる」なんて対応をしないといけないこともある。


「だから、〈わかばしてぃえふえむ〉のあさのばんぐみとおひるのばんぐみのおわりで、つぎのばんぐみのひとがはいっておしゃべりしてたんですねー」

「ピピナさん、よく知ってますね」

「きょうも、こっちへきてからとんできたこえをちょこちょこきーてたです」

「だから、ときどきピピナはぼーっとしていたのか」

「えへへー」


 ちょっと呆れたようなリリナさんの言葉に、ピピナが頭をかいて照れたように笑ってみせた。


「ピピナさんの言うとおり、番組と番組をうまくバトンタッチするために事前にスタジオへ入るというのもあります。ただ、『くらしサロン』と『スマイルラジオ』はそれとちょっと違って、わかばシティFMのスタジオと、ショッピングモールにあるサテライトスタジオ――えっと、出張用のスタジオを結ぶっていう意味合いもあるんですよ」

「このあいだ、ルイコ嬢が仕事で向かった大きな商店のある建物ですね」

「ええ。金曜日とか祝祭日の『スマイルラジオ』はそこのスタジオからの放送なので、他の曜日と同じようにわかばシティFMのスタジオからショッピングモールへと番組をバトンタッチをするんです」

「ふむ。放送する場所を変えた〈なまほうそう〉もあるのですか」

「例えて言うなら、今は時計塔にスタジオがありますよね。あの他に、もう一つのスタジオを市場通りや飲食店街に作るような感じです」

「もう一つの、〈すたじお〉を……なるほどっ」


 赤坂先輩の例え話を聞いて、それを理解したらしいルティが目を輝かせて身を乗りだした。


「ルイコ嬢、そういった放送は我々にも出来るのでしょうか」

「今アヴィエラさんが作っている魔石を使えば、確かにできるかもしれません。でも、まずは放送に慣れてからのほうがいいと思いますよ」

「何故でしょうか?」

「これは、わたしも経験したことなんですけど……」


 そこまで言った先輩が、顔をちょっと紅くして言葉を詰まらせた。


「『ボクらはラジオで好き放題!』を担当していたときは、松浜くんと神奈ちゃんがやってるように外から中が見えないようになっていたんです。でも、今の枠になってから外の人とも交流したくて中を見えるようにしたら、失敗したところも見えるようになっちゃって」

「失敗、ですか」

「たとえば、言葉に詰まったりとか」

「あっ」


 心当たりがあるのか、ルティが小さく声を上げる。


「原稿を読んでいて、噛んじゃったりとか」

「あぅ……」

「外に気を取られて、進行を間違っちゃったりとか」

「なる、ほど……」

「そういうのが、ぜーんぶ外から見えちゃうんです」

「……確かに、それはとても危険ですね」


 先輩が失敗例を挙げていくたびに、ルティの目の輝きはくもっていって……今は、すっかり意気消沈していた。


「もちろん、将来的にはそういうスタジオがあってもいいと思います。その前に、まずは放送をすることから慣れていきましょう」

「わかりました。恥ずかしいことにもかかわらず、失敗談を(つまび)らかにしていただき申しわけありません」

「いえいえ。こういったことは、やっぱり経験した側でないと伝えられませんから」

「俺も、興奮しすぎて音割れを起こしたり、メールの差出人の敬称を付け忘れたりしましたね」

「あたしは、松浜せんぱいが話題を区切ろうとしたのに深追いしすぎたり、それがもとで放送時間をオーバーさせそうに……」

「えっと、松浜くんと神奈ちゃんまでのらなくていいんだよ?」

「いや、俺もそういう失敗は言っておいたほうがいいかなーと」

「あたしもです。ルティちゃんたちの参考になるなら、いくらだって話しますよ」


 俺と有楽にだって、失敗はたくさんある。第1回の生放送なんて、なかなか息が合わなくて話題が切れたらお互い黙ったり、ペースに巻き込もうとして進行がグダグダになったり、有楽が言ったとおりに放送時間ギリギリまで赤坂先輩からの締め指示に気付かなかったり。

 それでも、失敗をなかったことにせずに有楽や先輩と反省会を重ねたことで、今もいっしょにラジオを続けられている。さっきみたいにほどよくリラックスして放送前の打ち合わせができるようになったのだって、ルティが来てみんなでよく話すようになってからだ。


「サスケ殿もカナ様も、そしてルイコ様も、初めからあのようにしゃべることができたわけではないのですね」

「本格的にしゃべる練習をして、俺はまだ1年とちょっとですからね。スタジオに入って初めてマイクの前に座ったときなんて、ワクワクよりも緊張のほうが強かったですよ」

「わかります~。このあいだリリナちゃんと試験放送をしたときに、やっぱりしゃべるととってもドキドキしましたから~」

「私も、ちゃんと声が届いているのかと心配でたまりませんでした」


 ヴィエルで初めての試験放送を経験したフィルミアさんとリリナさんが、当時の気持ちを話してくれた。そうは言っても、結構堂々としたしゃべりだったと思うんだけどな。


「あたしも、誰かとラジオでしゃべる練習なんてしてなかったから最初は緊張したなぁ」

「話芸が得意なカナでも、そうなるのか」

「声優のスキルとラジオのトークスキルは全く別だもん。並んで画面と台本を見ながら『演じる』のと、相手と向かい合って『話す』のとじゃ全然勝手が違うよ」

「『えんじる』と『はなす』のちがいですかー……だいほんがあるのとないのとのちがいみたいなものです?」

「大まかに言うとね。演じるときは台本通りに話さないといけないけど、ラジオはちょっとした台本があっても、最終的には自分で会話を組み立てていかないといけないし」


 声優としていくつかの仕事をこなしてきている有楽の経験談っていうのも、赤坂先輩とはまた違って興味深いものがある。何回かやっているうちに、すぐ自分のペースへ持っていき始めた恐れ知らずとは思えないぐらいに。


「あとは、ひとりでしゃべる時とふたりでしゃべる時とか、30分しゃべるのと1時間しゃべるのとでも、かなり勝手が違ったりしますね」

「ありますねー。相方がいないのに話題を振りそうになったりとか、時計を見て『まだこれしか経ってないの!?』って思ったりとか」

「このあいだ、事務所のラジオでアシスタントをやってたときのか」

「ええ。社長に、思いっきり苦笑いされちゃいましたよ……明後日のもあたしが担当でしたから、カットされてることを願ってます」

「そして、ネットラジオ用のディレクターズカット版で流されると」

「それだけはっ! それだけは勘弁をーっ!」


 ちょいとばかりつついてやったら、有楽が本気で頭を抱えてイヤイヤと首を振った。いつものポニーテールじゃなくてストレートにしているもんだから、ホラー映画の幽霊みたいに長い髪が振り乱されて隣にいるフィルミアさんにまでぶつかりそうで……本当に、申しわけない。


「まあ、ラジオをやっていく以上はこういう風にしてミスや時間とも戦っていく必要があるってわけだ。平気そうに見えて、これでも生放送じゃ結構緊張してるんだぞ」

「このあいだサスケとカナといっしょに〈ばんぐみ〉を作ったときには、我はほとんど緊張しなかったのだが……経験者が言うのであれば、きっと我もそうなるのであろうな」

「うーん」


 諭すように言ってはみたものの、相変わらずルティはピンと来ないらしい。

 確かに、ルティに出てもらった『ボクらはラジオで好き放題!』の番外編は生放送じゃなくて収録だったし、先輩のラジオで声を収録したのだってまだルティがラジオのことを知らない頃のことだった。

 このまま生放送に出したらどうなるかわからないし……うーん、ここはちょっとスパルタだけど、


「先輩、一回ルティを生放送に放り込んでみたほうがいいですかね?」

「えっ」


 実際に、ルティに生放送を体験してもらった方がよさそうだ。

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