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第61話 異世界少女(?)と授業のお時間③

「それぞれの国になじめなかったはぐれ者が徒党を組んで、円環山脈へと潜み、街やその周辺を襲うという事柄が以前より発生しているのです」

「このあいだルティが襲われた件ですか」

「ええ。あの時はイロウナから流れてきた者がレンディアールの賊と合流し、国境沿いで潜んで追いはぎを行うつもりだったそうです。よもやレンディアールの王族が来るとは思わず、焦ってエルティシア様を捕まえようとしたようで……まこと、忌々しい」

「あ、あのー、リリナさーん」


 その時のことを思い出したのか、リリナさんの声のトーンがどんどん下がって最後には呪いをかけるようにかすれていった。よっぽど、賊を根に持ってるんだろう。


「リリナちゃん、その賊の人たちって今はどうしてるの?」

「今なお中央都市で勾留されております。数ヶ月もすれば、裁判の後に本国への強制送還や農作業が待っていることでしょう。まあ、レンディアールの者が罪を起こした場合でも重罪でない限りは再び生活ができるようには差配されますが――」


 そこまで言ったところで、リリナさんはくちびるの端をニヤリと歪ませると、


「2度目は、ありません」

「怖っ!?」


 全然目が笑ってない笑顔で、そうきっぱりと言ってみせた。


「リリナちゃん、ダメっ! その顔はダメだって!」

「おお……なんと素晴らしき戦姫のオーラ」


 さすがの有楽もビビッてるってのに、中瀬はなんでうっとりとしてるんですかね! トンチンカンなことを言ってるけど、全然そんなのじゃないから!


 その後も、リリナさんはレンディアールやヴィエルについての授業を続けてくれた。レンディアールにある街の特徴や、フィルミアさんが通っている音楽学校のこと。残る5人のお兄さんやお姉さんのことに、この街の年中行事のこととかを目いっぱい。

 日頃ルティに教えているってこともあってかリリナさんの授業はとてもわかりやすくて、新しくレンディアール用にと書き込んだノートのページがどんどん進んでいった。


 ――知らない世界のことを一から学んでいくのって、こんなにも楽しいんだな。


 いつもだったら、目を輝かせて聞いている中瀬と有楽に冷ややかなツッコミを入れるところなのが、俺もいっしょになって熱中しているぐらいで。


「皆、昼食の用意ができたぞ」

「おひるごはんですよー」


 ルティとピピナが俺たちを呼びに来た頃には、もう時計はとっくにてっぺんを回っていた。


「申しわけありません、エルティシア様。用意を全てお任せしてしまって」

「構わぬ、ピピナも手伝ってくれたからな。……ん? この黒板の文字はリリナのか?」

「はい、レンディアールのことを教えてほしいとのことでしたので、授業のような形で教示させていただきました」


 色々と書き込まれた黒板を見てのルティの言葉に、リリナさんが照れ笑いを浮かべる。執事服姿でのこういう表情も、とてもかわいらしい。


「皆、リリナの授業はどうだった?」

「レンディアールができるまでとか、いろいろ楽しく教えてくれたよ」

「とてもわかりやすかったです。これからはりぃさん先生と呼ばせてください」

「だっ、だからっ、私は先生ではありませんからっ」

「いや、とてもいい先生っぷりだったと思いますよ」

「だろう?」


 恥ずかしがるリリナさんをフォローすると、ルティは誇らしそうに両手を腰へとあててみせた。


「リリナのわかりやすい授業のおかげで、我も様々な物事へ興味を抱いたのだ。無論、ミア姉様もな」

「なるほどな。リリナ先生様々ってわけか」

「だから、サスケ殿っ!」

「ねーさま、てれてれですねー」

「ピピナっ!!」

「ほらほら、リリナさんが真っ赤になってるからあんまりつっつくなって」

「はーいですっ」


 板についてきたメイド服姿で、ピピナがしゅたっと右手を挙げる。

 かわいらしくて明るい、リリナさんの妹。ってことは、母親は同じ豊穣の精霊さんなわけで。


「お前って、お母さん似だったりするのか?」

「どーゆーことです?」

「さっき、リリナさんの授業でレンディアールの成り立ちを聞いたんだよ。豊穣の精霊さんがおにぎりを気に入ったのがきっかけだって」

「なっ!? ち、ちがいますよー! ピピナは、かーさまほどくいしんぼーじゃないですっ!」

「そっちかよ!」


 おおぅ、ほっぺたをふくらませてぷんすか怒ってるよ。


「くにができたきっかけはほんとーですけど、ピピナはそこまでくいしんぼーじゃないですっ! ぜーんぜんちがうですっ!」

「ごめんごめん。ほら、赤坂先輩の家でもよく食べてたからさ」

「オムスビは、レンディアールとピピナたちよーせーとのこころのかけはしですからねー。それをぬきにしても、るいこおねーさんがにぎったオムスビはとってもおいしーですよ」

「じゃあ、先輩のおにぎりは日本とレンディアールの架け橋ってわけだ」

「そーいっていーかもしれません。でも、ピピナがかーさまよりくいしんぼーじゃないのはたしかですからっ」

「はいはい」


 どうしてもそこは強調したいのか。でも、俺から見てとんでもなく食いしん坊なピピナがそう言うってことは、豊穣の精霊さんっていったいどれだけ食べるんだろう……リリナさんも、華奢に見えてかなり食べるほうだし。


「ぴぃちゃん、ぴいちゃん」

「どーしたですか?」


 声がしたほうを向くと、中瀬と有楽が黒板の近くで手招きをしていた。


「ピピナちゃん、リリナちゃんの隣に立ってくれるかな」

「べつにいーですけど……って、その〈すまほ〉と〈でじかめ〉はなんなんですかっ!?」

「昨日ピピナちゃんを撮れなかったから、今日こそリリナさんといっしょに撮りたいなーって」

「執事服のりぃさんにメイド服のぴぃさん……完璧です、完璧すぎますっ」

「ふ、ふたりとも、めがこわいですよっ」


 ピピナの言うとおり、貼り付けたような笑顔で迫ってくるあたり結構怖い。こいつら、かわいいものを見ると本当に見境がないのな。


「おいおい、あんまりピピナをいじるなよ」

「御心配には及びません、サスケ殿」


 俺が釘を刺そうとしたところで、リリナさんがピピナの隣に立ってその肩をぽんと叩く。


「私は、望むところですから」

「ねーさまっ!?」

「リリナさんっ!?」


 って、リリナさんまで有楽や中瀬と同じ笑顔になってるし!


「さあ、姉妹でともに撮っていただこうではないか」

「わ、わかったです! わかったですから、せまってくるのはやーですよー!」

「はーい笑ってー!」

「視線はこっちです」

「ほら、あのレンズに笑顔を向けるのだ」

「どーしてこーなるですかー!」


 迫ってくる有楽と中瀬だけじゃなく、いつもと違うリリナさんの振る舞いですっかり怯えているピピナ。今ここに割り込んだりしたら、何をされるかわかったもんじゃないな……


「もしかして、昨日の撮影会ではまっちまったのか?」

「どうもそうらしい」


 カシャカシャとシャッター音が響く中、ドアの前にいたルティへ話しかけると俺へ苦笑を浮かべてみせた。


「なんか、うちのバカふたりのせいですいません」

「よい。今までが堅すぎたのだし、姉様も今のリリナがちょうどよいと仰っていたぞ」


 そうは言うけど、あのクールなリリナさんもよかったんだよなぁ……本当、どうしてこうなった。アレか。有楽が導火線を引いて、中瀬が着火しちまったか。


「結果的に、リリナはよい仕事をしてくれた。昨晩のことは知られなかったしな」

「それは、まあな」


 昼間は俺たちがアヴィエラさんと話している間の目くらましをしてくれたし、夜もルティとアヴィエラさんの護衛を務めてくれた。その上で楽しんでくれてるのなら、まあいい……のかな?


「そうそう。先ほど、商業会館へ行って来た」

「おお、どうだったよ」

「アヴィエラ嬢は元気に接客をしていたが、イグレール殿の姿は見なかったな」

「さすがに、昨日の今日じゃすぐ事は運ばないか」


 時計塔に泊まったアヴィエラさんは、みんなが起きる前に商業会館へと帰っていった。『いっちょ、がんばってくる』って書き置きを残したあたりは気合十分みたいだから、心配はしなくていいのかな。


「じっくりと話すから、しばらくはこちらへは来られないらしい。サスケへの伝言だ」

「そっか。んじゃ、俺たちは俺たちができることを進めて待つとしますか」

「うむ、そうしよう」


 アヴィエラさんにやることがあるなら、俺たちにもやることがある。午後からは国境近くで受信実験があるし、無電源ラジオの量産計画とか番組のことも考えなくちゃいけない。課題は山積みだ。

 でも、それに向きあう前に……


「はーいリリナちゃん、ピピナちゃんの後ろにまわって抱きつくみたいにしてー」

「このようにですか?」

「いいですねいいですね。ふたりの蒼い髪のコントラストがとてもマッチしています。ナイスですよー」

「ね、ねーさまがだきついてくるですっ! こんなのどーしたらいーんですかー!」

「考えるな、感じろ」

「わけわかんないですよーっ!」


 しばらくはカオスな撮影会が続きそうだし、この部屋で昼飯としますかね。


「サンドイッチ、ここへ持ってくるか」

「そうだな、我も手伝おう」


 俺たちは顔を見合わせながら、言葉をかわして勉強部屋をあとにした。




「さ、さすけっ、ルティさまっ、どこにいっちゃうですかー!?」




 すまん。俺にそこへ入り込む勇気はない。

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